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喋ったら、死ぬかも知れない。だから俺は、喋りまくる。  作者: 中田翔子
八百万の神

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11/51

復興への一歩

翌朝、村中を大声で練り歩き、午前11時を前に、八百屋には村人のほとんどが集まった。

声を出さぬよう怯えながら部屋にこもり、食糧も勝手に供給してくれる生活、要するに彼らは皆暇なのである。

さらに言えば、タダで言葉をくれるというのだから、この恩恵を授からない理由がない。

しかも話してくれるのはあの八百屋のナオさんともあれば、わくわくする心を止めずにはいられない。

言葉を削って話してくれるナオさんにはすまない気持ちはあるけれども、肉声の娯楽は数年ぶりなのだ。

村人はみな胸を高鳴らせて八百屋に押しかけた。


「だいたい集まりやがったか」

ゴトウさんは、昨晩叩きの音を閑かな商店街中に響かせて拵えた即席の高座にあぐらをかいた。

高さは1.5階くらいで、メインストリートまで並んだ人々の顔も取れていた。


「そいじゃあ……」


と言ってゴトウさんは話し始める。


「こんだけ長いこと黙らされてたんだ。もう口がむずむずしちゃってミミズ腫れみたいになっちまった。誰が元々たらこ唇だよ。たらこ。たらこって鱈の子どもなの? え、じゃあ穴子は? って誰しも穴から産まれるんだから穴子は穴子か。ってこりゃお下劣なことを言ってしまったな、ははははは。穴子と言えば鰻だな。うん。鰻ってのはよ、鵜っているだろ? あのカワウとかウミウとか。鵜飼ってのがいて、鵜は噛まずに飲み込むから、喉縛ってそれで漁をしてたんだ。で、その鵜が飲み込もうにも、長くてヌルヌルして飲み込めない。鵜が難儀する、から鵜難儀、うなぎとなったそうだよ。まあ本当かどうか知らねえけど。ってこりゃ魚屋みてえだな。俺は八百屋だっつって。八百屋。800。この国って800好きだよな。八百万の神とか言うじゃねえか。なんでそんな微妙な800て。まあそれも結局は末広がりなんだろうな。八。あの山が一番高えから、あれを最高と捉えたんじゃねえかな。だから、ヤタガラスにしても八だしな。つまり、八百屋ってのは商売事のナンバーワンだってことよ。おい魚屋、反論があったら言ってみな。声出せねえってそれでもおめえ商人か? なんて、まあ今言ったことすべて嘘八百なんですけどもね……」


商店街があっと沸く。娯楽に飢えていた人々は、たいして内容もないような話に声をあげて笑い、中には涙を流す人もいた。

にしてもこのおっさんよく喋るなあと裏方に徹した3人はそれぞれゴトウさんの話に耳を傾けていた。


ふとタオが口を開く。

「あれ、お父さん、全然息が上がってない」


「そらそうやろ」


「で、でも、昨日までもちょっと喋ったら息が上がって、それで私がお父さん喋っちゃダメって言って」


「それはなあ、聴いてくれる人がおるからやな。聴いてくれて、ちゃんと反応してくれる。その反応を見てまた喋りたくなる。これが話好きの性分やから」


「じゃあアケビが言ってた勝算って……」


「そう。一人を相手に喋ってたら還元率は6割。でも、集団を相手に喋ったら? 一人一人は少しずつしか言葉をくれなくても、それが大人数になるからどんどんエネルギーが溜まっていく。やから、お父さんが村の人達に喋ったら、言葉のエネルギーは生み出せるんちゃうかなと思って」


「すごい……」


「どう? よく喋るお父さんに戻って」


「お父さん、いい感じ……」


「やっぱりどこでも山号寺号や」


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