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喋ったら、死ぬかも知れない。だから俺は、喋りまくる。  作者: 中田翔子
八百万の神

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八百屋会議

「というわけで」


「何を端折ろうとしてんじゃこのガキ」


部屋中に怒号が響く。タオの顔を黒くして皴を足して髪を短くして背を伸ばしておっさん風にしたような父親が叫んでいる。ほんのり面影はあるものの、要するに全然似ていないのである。


「お父さん待って、だから話を聴いて」


とタオは今にもアケビに飛び掛かりそうな父親を必死に抑えている。アケビはこりゃ参ったと言わんばかりに頬をかき、


「まあ何にしてもね、お父さんにもう一回八百屋やってもらお思いましてね」


と説得を試みる。


――が。どうやら聞く耳を部屋に置いてきてしまったらしい。あるいは言語の壁があるのかもしれない。バウリンガルならぬ、父リンガルがないと伝わらないのかもしれない。


「タオ、お前は喋るんじゃない。言葉がなくなったらどうすんだ」


「お父さんも喋りすぎだよ」


「俺は喋りたいんだよ」


「だと思いましたよお父さん」


アケビは、しれっと会話に混ざる。


「お前にお父さんと呼ばれる筋合いはない」


「え、じゃあ八百屋さん」


「職業で呼ぶな。こんにちはシステムエンジニアさんか? 今日は天気が優れませんね内閣副官房長官さんか?」


「じゃあ何と」


「ゴトウナオヤだ」


「ではゴトウさん。……。ほぼお父さんじゃないですか」


「違うわっ」


「じゃあナオヤさん。……。ほぼ八百屋さんですよね」


「もう何でもいいわっ」


「じゃあゴトウさん、ゴトウさんには、八百屋を今一度再開させてほしいんです」


タオの父親・ゴトウの表情が曇る。それを見てタオもまた下を向く。


「再開なんかさせても客は来ねえよ」


「そうですね」


「そうですねってお前。お前舐めてんのか」


「でも、打つ手はあります」


「打つ手なんかあるわけねえだろ。俺はこの10年間ずっと店を開けてんだ。ここんとこはタオに任せきりだったが……。ともあれどこぞの馬の骨かは知らんが、この村のことは俺の方がようく知ってる。その俺が10年間考えてもどうにもならなかったってのに、お前ごときに何ができる。みたところ商売人ってんではないんだろ?」


「はい、経験はありませんが、勝算はあります。高座を作るんです。そうすればきっとまた上手く回り始めますから」


「なに? 高座?」


「やってみないことには始まりません。さあ高座を作りましょう」


「コウザを作れ作れってお前大した説明もなしに。新手の詐欺か」


「お、いいじゃないですかゴトウさん」


「ああ?」


 アケビがあまりに冷静に淡々と話すがために、理解が追いつかないゴトウは、怒りのやりどころがわからず、きまりわるくなっている。


「でもそんなことでお客さんは来るの? 」


と、父親に代わってタオが口を開く。


「それは大丈夫。この村の人達はみんな誰かが喋るのを聴きたがってるんやもん。俺が声出した時にみんなが俺の方向いて、耳かっぽじって聴いてたのが証拠。やから、八百屋でお父さんがぎょうさんおしゃべりしまっせと村中宣伝して回ったら、こらこれ以上ないサービスと娯楽やろ。来えへん訳がない」


「でもそれって、お父さんを……」


「大丈夫、悪いようにはせえへんから。な、イヴ」


 アケビはイヴに目を合わせる。イヴはそれに対し頷くことも首を振ることもなかった。


「なにそれ。もしお父さんに何かあったらあんた」


「そん時は、村長よろしく俺がゴトウさんに、説法でも健康法でも説いてやるよ」


 この自信にタオはなにも言い返せなかった。



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