ショートショート035 テル星の社会
いきなり、部屋中に大きなビープ音が鳴り響いた。
世界最大規模の巨大電波望遠鏡群がキャッチしたのは、強力な電波信号だった。指向性が強く、エネルギーもかなり大きい。
「だが、地球近傍にこんな強力な電波源はない。アンテナの先にブラックホールなどは見つかっていないし、銀河の衝突といった大規模な現象も起こっていない。こんな強力なものが、いきなり飛びこんでくるわけはないはずだが……」
当直で仕事をしていた研究員は、首をひねりながらも信号を音に変換し、じっと耳を傾けてみた。すると、その信号には何らかの規則性が組み込まれているように感じられた。
これは一大事だ。ことの重大性に気づいた研究員は、すぐさますべての常駐研究員に非常招集をかけた。そして発信源の座標を調べたところ、どうもその電波は地球のすぐ近く、具体的には木星軌道あたりからやってきているようだった。
関係各所との会議が開かれ、激しい議論が交わされたが、これはやはり宇宙人から送られてきた信号に違いない、という結論で一致した。世界中から科学者が集まって信号の解読作業にとりかかり、やがてそれに成功した。信号はやはり宇宙人からのメッセージで、内容はごくありふれた挨拶の言葉だった。
この大事件はすぐに公表され、全世界が興奮の渦に呑みこまれた。ファースト・コンタクトを喜ぶ者も、そんなことがあるはずがない、単なる自然現象だろうと否定する者もいた。科学者どもによる予算増額のための陰謀だと主張する者も出たし、これは神のお告げだ、夢で神がそうおっしゃっていたと街頭演説をやらかす者も現れた。とかく反応はさまざまだったが、地球上のすべての人々が驚愕し、大騒ぎしていたのは同じだった。
そして、ついに電波による会話が試みられることになった。
「はじめまして」
「わざわざこんな遠くへメッセージをくださり、ありがとうございます。わたしたちは地球人です。そちらは何という名前の星なのですか」
「テル星です。わたしたちはテル星人です」
遠く離れた星間通信であるにもかかわらず、会話はほとんどリアルタイムで進んだ。テル星人は木星軌道のあたりに超空間を出現させ、そこに入った電波をテル星までワープさせていたのだ。
はじめはシンプルで他愛のない内容だったが、徐々に文化や文明の程度、住環境についてなど、相手を理解するための会話になっていった。テル星は地球から数百光年程度の距離にあること、科学技術は向こうの方がかなり進んでいること、文化は地域によりさまざまだが、どこも平和そのもので、戦争や犯罪のたぐいはいっさいないことなど、多くのことがわかった。
地球側もいろいろなことを伝えた。テル星と同じく、いろいろな文化があること。人種も多様であること。人間以外にも多くの生物が生息していること。
ただし、戦争や犯罪のことなど、都合の悪いことは話さなかった。極めて平穏な文化を持ち、平和な社会を築いているテル星人に、悪印象を与えたくなかったのだ。
こうして地球人とテル星人は、おたがいの理解をどんどん深めていった。
そして、しばらくの月日が経ったある日。
ついにテル星人が、こちらを訪問したいと言ってきた。どうやるのかとたずねると、出発して加速を終えたらすぐに木星軌道あたりまでワープで飛ぶという。そこから地球まではたったの十日だそうだ。地球側はこれを受け入れ、日取りも決まり、歓迎の準備でおおわらわとなった。
やがてテル星から通信が入り、訪問団を乗せた宇宙船を予定どおり出発させたと伝えられた。そしてその日のうちに木星軌道付近から通信が入り、あと十日で到着するとのことだった。
もちろん地球側の準備も整っており、あとは待つだけだった。予定の会場には各国首脳が集まり、来賓や記者もやってきた。その様子は連日のようにテレビ中継され、人々は今か今かとその日を待った。ただ、その中には、これは侵略の始まりに違いないと危険を訴える者や、テル星人と仲良くなって商売をしようという欲深い者もかなりいた。そうでなくても、どんな姿なのだろう、やはり気持ちの悪いタコのような見た目なのだろうか、邪悪な存在かもしれないなどと、失礼なことを考えない者はほとんどいなかった。
その日が近づくにつれ、地球全体はそんなふうにしてますます盛り上がり、熱狂は高まり続けていた。
到着まで残り三日となった。
その日、七日前からずっと続いていた、訪問団の宇宙船との通信がぷっつりと途切れた。どれだけ電波を送っても、なんの返事もなかった。レーダーで探しても、宇宙船の痕跡はまったく見つからない。
地球側があわててテル星に通信を送ると、少しして電波が返ってきた。
「あなたがたという生き物は……!」
それきり、通信は途絶した。期待の余韻と大きな失望が渦巻く奇妙な雰囲気の中で、地球人は、ただ首をひねることしかできなかった。
テル星との通信が途絶する少し前、地球に向かっていたはずの宇宙船が、なんの事前連絡もなく、ワープを使ってテル星近傍にいきなり戻ってきた。
かすかに残った理性を頼りに逃げ帰った訪問団員たちだったが、母星のすぐ近くまでたどり着いた安心感からか、とうとう精神崩壊を起こし、隕石破壊用に積んでいた強力なミサイルを片っぱしからテル星に向けてぶっぱなした。
多くの主要都市が壊滅し、テル星の住人たちはわけもわからないまま死んでいった。
しかしすぐに、訪問団員だけでなく、生き残っていたテル星の住人たちも次々に発狂し始めた。一般市民だけでなく、政府高官や首脳陣まで気が狂った。
そしてそのまま、テル星人はすべての兵器をむちゃくちゃに撃ちまくって全滅した。
おたがいの思念をすべて読みとるテレパス社会に生きていた、純真無垢そのもののテル星人にとって、どうやら地球人の思念波は強力すぎたようだ。




