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第七話 異世界はめちゃくちゃいいところです

「旅人さん!

 ほら、もう朝よー!」


 部屋の扉を勢いよく開けてフレアが入ってくる。

俺の毎朝の目覚まし時計はフレアだ。

彼女がいつも俺を起こしに来ると、決まって朝がくる。


「あぁフレア、おはよう。

 いい朝だなぁ……」


「あら、いつもいい朝よ?

 今日もしっかりリハビリして、怪我を治さないとね」


「もう怪我は大丈夫だよ。

 走れるくらいまで回復したし、これも全部フレアのおかげだ」


 俺の怪我は完治した。

異世界に来てからおそらく数ヶ月が経った。

真面目に勉強したおかげで、ある程度の異世界知識と言葉はわかるようになったし。

全部フレアが傍にいてくれたからだけど……


「そっか……

 もう大分、治ってるんだ……」


 フレアはなぜだか少し悲しそうな顔をして、ベッドの脇に座った。

白いドレスが太陽の光を浴びて美しく輝く。

その姿はまるで……天界から降りてきた天使のようだ。


「……ねぇ、旅人さん。

 やっぱり、怪我が治ったらどこかへ行ってしまうの?」


「……え?」


「いや、ごめんなさい。

 やっぱりなんでもない!

 今ポーターに食事を運んでくるように頼んでくるから、待ってて!」


 フレアはすぐに立ち上がり、部屋を出て行った。

そうだった……俺は旅人という設定でここにいる。

怪我が治ったら出て行くというのは寧ろ当然というか……

いや、でもなんだか彼女は寂しそうな顔をしていた。

もしかしたら俺にまだここにいてほしいのかも。


「……いや、そんなことないか」


 まさかそんなはずと思った瞬間、扉をノックする音。

フレアはいつもノックをせずに入ってくるので、彼女ではない。

となると一体誰が……?


「すまない、入っても大丈夫かな?」


 その声は何度か聞いたことがある。

そして、一度だけ会ったことがある。

フレアのお父さんで、この辺り一帯を治めている貴族。

アラル・パーセラルトだ。


「も、もしかしてフレアのお父さん……ですか!?」


「あぁ、今日は時間がとれそうなのでね。

 君さえよければ、少しだけ話をしたいんだ」


「大丈夫です、全然!」


 了解の旨を伝えると、アラルが扉を開けて部屋に入ってきた。

まさかフレアのお父さんがまた俺に会ってくれるなんて……

最初に会った時は異世界の言葉が全然わからなくて会話にならなかったからな……

今回はちゃんとした会話ができそうだ。


「すまないね、急に。

 話というのは、フレアのことなんだ」


「フレア……の?

 あ、じゃなかった!

 フレア様の……?


「いつもの呼び方で大丈夫だよ。

 ……フレアは、君が来てから明るい子になった。

 あまり外の人と会わせることがなかったから、コミュニケーションもあまり得意ではなくてね」


「そ、そうだったんですか?」


「うん。

 君と話している時のフレアは、今まで見たことない表情をしていた。

 親の私からすると、嬉しい限りなんだよ」


 異世界の言葉がわかるようになった時には、もう大体今のフレアだった。

だからこそ、昔のフレアがわからない。

俺と初めて会った時のフレアは、どんな感じだったか。

……優しそうだったけど、明るいかと言われれば微妙である。


「私も忙しいから、フレアと一緒にいる時間が少ないんだ。

 だから執事のポーターに色々と世話を見てもらっていたんだけど……

 その必要も、もうないみたいだね」


「……え?

 どういうことですか?」


「君さえよければ、怪我が治った後もここに居てほしいんだ。

 フレアだけじゃない、私やポーター……そして妻のジェディアのためにも」


「……い、いいんですか?」


 アラルはゆっくりと頷いて、こちらを見る、

まさか……こんなことがあるだろうか?

誰が予想がつくだろう。

異世界にやってきて貴族の家にいることが許される……しかもそれはお嬢様のため。


 ドジっ娘女神がようやく調整してくれたようだな……俺の第二の人生を。

きた……!!

ようやくきた!!

これからはバラ色異世界ライフだ!!!!


「……こんな、俺でいいんだったら。

 よ、よろしくおねがいします……!」


 俺の返事にアラルはニコリと微笑んだ。

フレア似た、眩しい笑顔。

俺もつられて笑顔になる。


「そう言ってくれて嬉しいよ。

 これからもフレアと仲良くしてくれると助かる」


 そう言ってアラルは部屋から出て行った。

一息つこうとした瞬間、アラルと入れ違いでフレアが入ってくる。

なんとも忙しい朝だ。


「た、旅人さん……

 い、今の話……聞いちゃった……」


「あぁ……な、なるほど。

 とりあえず、しばらくはここにいることになった。

 改めてよろしく、フレア」


「ほ、本当にいいの?

 私なんかのために旅人さんがここに残って……」


「え、えっと……

 旅もいいけど、フレアがあんまり優しいもんだからもう少し一緒にいたいなー……と」


 フレアの顔を直接見て言うのは恥ずかしいので、少しだけ目を逸らして言う。

だって、なんだか馬鹿みたいに恥ずかしいんだもんこれ。

頬が熱くなるのがわかるレベルで。


「旅人さん……ありがとう……!」


 言うと同時にフレアが俺に抱きついてくる。

女性免疫のない俺からすると大ダメージ必至の行動だ。

ここで抱きしめ返すのがイケメンの技なんだろうけど、今の俺にはまだ無理そう。


 現実世界を生きてきて一度も感じなかった心地に、俺は戸惑いを感じている。

あーもう幸せ過ぎておかしくなりそうだわ。


 でも、これでいいんだ。

一度死んで蘇った第2の世界。

それくらい、幸せになってもいいだろう、救われてもいいだろう。

救いのない現実世界に生きていたんだから。

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