第四話 まさか……俺、死ぬのか?
皆さん朗報です。
俺は今、死にかけています。
この場合で言う「皆さん」が誰に当たるかは全くもって検討もつかない。
視聴者的立場の人間がいるかもしれないし、現実世界にいる母親を含む俺と親しく接してくれた人かもしれないが、皆さんというからにはその辺り全部含めての全部なんだろう。
咄嗟のことなのでそこまで意味は含んでいないのだが。
で、なんで俺が死にかけているのかというと、案外簡単な答えをお届け出来るだろう。
調子に乗って森の奥に進んで行ったら崖があって滑り落ちている途中と言えばわかりやすいし、非常に「あ、こいつ今ヤバイんだな」ってわかると思うんですけど皆さんどうでしょうか。
死の直前になると周りがスローモーションに見えたり、走馬灯が見えたり、はたまた秘められた力が覚醒したりするものだが、俺には一切それが見られず兆候もない。
ということは、逆に言えば俺はまだ死の直前にいないのではないか?
そこまで思った時点で俺の脚に激痛が走り、視界がブラックアウトした。
俺が目を覚ました頃には既に夕方で、俺は地面に情けなく伏していた。
両方の脚がわけのわからない方向に曲がっており、力を入れると痛む。
これはあれだ、骨折というやつだ。
生まれた中で味わったこともない骨折を異世界で初めて味わっている。
ありがたい。
んなわけねーよ。
でも落ちてきていいと思ったことは一つある。
ここは今まで見た場所よりも綺麗だ。
地面であることに変わりはないが、ある程度整備されている要するに「道」のような場所なのだ。
数日すれば嫌でも人が通りかかるだろうから、この窮地から脱出できる可能性が存分にある。
あぁ、俺はなんて運が良いんだろう。
早く来てくれ、俺の救世主。
救世主は3日経っても現れなかった。
這いつくばって移動したりしたけど移動できる距離は限られていて、その上地面と擦れる肌が痛くてしょうがないのでどうしようもならない。
俺はもしかしてここで死ぬのかもしれないと本格的に思ってきた。
転生した先でほぼ何もせずに死ぬというのは寂しすぎるのではないだろうか。
まだ人と会えてないんですよ俺。
この世界にやってきて出会った生物は虫ですよ虫。
これはアレか?
あの女神的な人が「お前はその程度の転生で十分なんだよこの虫野郎」って思ってたからこうなったとか?
最初から全部仕組んであったのか?
これも奴の計算の内か……女神ッ!
とまぁふざけた思考をしている間にも、俺の体はどんどん衰弱していく。
次第にものを考えることすらできなくなっていって、ただただ眠いという状態が訪れた。
あぁヤバイんだな俺。
この状態っていわゆる「寝ちゃダメだ!」ってやつだから、こういう時に眠る奴は大体死ぬよな。
それ、今の俺だわ。
筋肉と瞼の決闘も虚しく、俺の上瞼と下瞼は愛し合い、くっついて離れようとしない。
盛大に小さいラヴロマンスのなか、やがて思考は溶けて消え、深い深い闇にその身を堕としていくのだった。
だが俺は死ななかった。
というより、俺は生きていた。
それを実感したのはふかふかのベッドの上で目を覚ましたからに他ならない。
清潔で大きいベッド。
赤い絨毯の敷かれたなんとも上品な部屋に俺はいた。
なんだ? 既に2回目の転生が終わったのだろうか。
早いなぁ、今度は女神的な人にも合わないまま転生したのか。
でも待てよ、脚が骨折したままで動かすと痛いな。
ということはまだ俺は前の世界……すなわち異世界にいるということになる。
擦り傷を処置した跡があるし、俺はもしかしたらあの後誰かに助けられたのかもしれない。
そう考えるほうが妥当というか、今の状況ならそれ意外ありえない。
しかし、あの状況からよく助かったな俺。
飯も水もない状態で衰弱した俺が今こうして生きていることに奇跡を感じる。
もしかしたらチート能力を俺は授かっていたのかもしれない。
そう、衰弱しないという特殊能力を……っていらねえよそんな特化しすぎた能力。
どこで役に立つんだよって今ここで役に立ってるのか。
一人脳内で茶番を繰り広げていると、部屋の扉を開けて女性が入ってきた。
金色の髪の毛にピンク色のドレス。
優しさを醸し出す瞳と……お、大きな胸。
初めて異世界で出会う人物としては申し分のないスペックだ。
彼女は俺が目覚めていることに気がつくと、驚いた様子を見せた後こちらに駆け寄ってきた。
ヒールみたいものを履いているのに大丈夫なんですか。
「オ ネメノサ タシマ?
ラカ ヨヒノド タイシケ イガパシン」
「……えっ?」
「ガ イコナト ジバウツ……
ラドシウ カシノタモ……」
何やら言ってるが……何だこの言語。
今まで聞いたこともない言葉の羅列に俺は困惑するばかり。
誰か、翻訳を頼む。
そうだったな、忘れてたな。
ここは異世界だ。
そして俺は特に何かしらの特典があって来たわけじゃないから、当然言葉も通じない。
ちょっと頭を捻ればわかることがどうして俺はわからなかったのだろうか。
いや、ただ考えないようにしていただけかもしれない。
もしくは、もしかしたら言葉が通じるかもしれないという限りなく0に近い確率を希望的観測していたのかもしれない。
なんにせよ、人に出会えたことは大きいが言葉が通じないのも大きい。
そして、あの女性の胸も大きい。
俺はこの3つの大きいについて考えなければならないのだった。