二つ目と三つ目
しかし、僕の願いも虚しく、翌日またあの場所を訪れることになった。
布団に入って寝た筈なのに、身体に何もかかっていなかった時点で違和感はあった。目を開いて、真っ暗だったことに苛立った。
今回もそこを真っ直ぐに歩いていくと、時計のまん前に辿りついた。
――ゴォーン
直ぐに鐘が一つ鳴った。文字盤の短針は二を指している。前回はアイツに気を取られていたせいで確認し損ねたが、この様子から察するに一だったのだろう。
「昨日ぶり。どうやら、俺のほうが正しかったみたいだね? もしかして、此処気に入ってくれた?」
「なわけあるか」
「……昨日から思っていたけど、君実は結構口悪いよね?」
「実は、って言うほど隠していた覚えもないが」
「……そうだね」
「ところで、短針が十二になったら不味いんだよな?」
「それ、あの質問?」
「あ、じゃ、いいわ。念の為の確認だし。……そもそも、噂の時計だって認めている時点で、僕の知っている情報が正しいと言っているようなものだしな」
「あらら、残念。……そうだ、どうして此処に来たか分かる?」
「まあ、何となく?」
「え? 早くない?」
「昨日から考えていたからな。まあ、流石に二回の事象じゃ確信は持てないが。一応対策はしてみるかね」
「むむ。それ合っていたら、当分会えないかもだよね?」
「一生会えなくていいわ。じゃあ」
「え、早! 早いよ!! お喋りしていこうよ」
「やだ、面倒」
「ひどい!」
「……そうだな、もし。万が一、いや、億が一だ。此処にまた来たら、僕の仮設を話してやるよ」
「どうして、そんなに上から目線なの!?」
「意味など無い」
「わわ、待って待って。……またね?」
帰ろうとする僕に、アイツはまたそう言った。
あ、叩きそびれた。残念。
それから、数日は平和な毎日だった。
僕の取った作戦とは、僕の仮定では安全だと判断された人たちと行動すること。
それで数日は乗り切ったのだから、やはり読みは正しかったのだ。あの襲撃があるまでは。
「くっそ」
「んー、残念だったね。で、約束だったよね?」
「はいはい、話せば良いんだろ。……此処に来る条件は、「鬱屈とした気持ちに触れること」違うか?」
「げ、合っているし。……あ、答えちゃった。折角あの権利をチャラにするチャンスだったのに」
「残念でした。あ、勿論、後付けはなしな」
「先回りいくない。……でも、どうしてそう思ったの? 君の場合、まだ言葉を聞いただけでしょ?」
「ん? 勘だな。……心当たりを潰していこうと思ったんだが、まさか一発で当たるとは思わなかった」
「なんだ、自信たっぷりに見えたよ?」
「……ポーカーフェイスは得意なんだ」
「特技多いね?」
「ああ、僕の自慢だ」
「……因みに、どういう作戦でいったの?」
「あ、ああ。テストで悪い点とっても気にしないようなバ……、いや、明るいやつらと行動していた」
「ほぼ言っちゃっているよ?!」
「セーフだセーフ」
「ふーん。今回は「爪割れた、最悪」だっけ?」
「違う。「あーもぅ、爪われちゃったぁ! サイアク」だ」
「ちょ、女子の声も出せるの!? ついでに細かいよ、大体合っているでしょ?」
「駄目、全く違う。あー、本当アイツに彼女がいたとか誤算だったわ。なんなんだよ、爪見せに来るとか。知らんわ、興味ないわ!」
「おー、ご立腹だね?」
「そりゃあな。アイツがいなければ、今ここに僕は居ない筈だし」
「えー、ひどいなぁ?」
「ひどくて結構。もう来ない」
「だから帰るの早いって! また来てね!」