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短編置き場(異世界以外)

俺には負けられない戦いがある!

作者: 蒼稲風顕

マンションで上の階であまり出会わないのは蚊です。

「この戦いに俺は、負けられん……」



 緒戦の戦いに勝ち、奴らの死体の後片付けをする。

 ここは異世界でも戦場でもない。 俺の普段の日常である。

 戦いに勝っても経験値も……いや達成感すらもない。

 あるのは、戦いと同じくらいの後片付けという労力だけだ。

 ……いや、実際は、後片付けの方が戦いよりも辛いかもしれん。

 何故なら、今は深夜。 文明の道具が使えず、使えるのは薄い紙だけなのだから……。



 この後片付け作業だけでも俺の精神をガリガリと削る。

 時折、奴は生きており、俺に思わぬ反撃をするからだ。

 ピクピクと動き、肉体的ダメージはないが、それ以上に精神的な苦痛を俺に喰らわせるのだ。

 俺が今回、見たのは三体。 ……で、俺が始末したのが一体のみ。

 奴らは、ここに隠れてじっと俺の行動を見ているに違いない。

 俺がスキを見せないかじっと見て楽しんでいる。




 ---くそ。




 ……俺が何も考えずにここを選んだから。

 何故、俺は安いだけでこの物件を選んだのだ……。 いや、見た目だけなら、多少は我慢出来る。 だが、見た目だけでなかったのだ



 運が悪かったというよりは、俺の隣に住んでいる大家が悪かった。

 俺の引っ越したこのアパートこのアパートは築40年以上の古いものだ。 ただそれだけなら何の問題もない。 問題なのは隣の大家が部屋を片付けられない奴だったのだ。

 一か月の家賃一万五千円で敷金と礼金なし。 東京で、しかも小さいながらも風呂と便所が別で掘り出し物だとばかり思っていた。



 もしかして事故物件かもと思っていたのだが、実際に俺の身に起きているのは、事故どころか災害だ。

 引っ越して当初、夏だから幽霊なら少しはヒンヤリとしただろう。

 だが……夏だから奴ら……黒い稲妻が活発になり俺を悩ませる。

 縦横無尽に暴れ回り、俺の精神を追い詰める。



 だが俺もこの聖戦に勝たねばならんから、守ってばかりではダメだ。

 まず、燻りだそうと思ったが、隣の大家が金魚を飼っている。

 赤い缶の煙は、魚類にとって天敵なのだ。

 一発で全滅させる恐れがある。

 仕方ないから次の手だ。



 緑の強い武器を手に奴らに立ち向かう。

 ……が多勢に無勢で一向に減る感じがしない。

 援軍を呼ぶ。



 待ち伏せ粘着シートだ。

 その効果バツグンだ!

 これでもかっていうくらい捕獲した。

 だが、奴らの勢力を甘く見ていた。

 なんと、はみ出すくらいに捕獲していたのだ。 



 で、夜に洗面台に行くと衝撃的な光景が……。

 水道の排水管から奴は現れた。

 まだ成虫となっていない幼生体が二体ほど。

 考えるまでもなく当然、水攻めの計だ。

 だが、少し水流が強すぎた為かこっちに流されてきた。

 俺は慌てず騒がず、コップの水で排水溝へと誘う。

 そんな日が毎日と続いていると、大して高くない俺のSAN値などすぐに0へとなる。





「くっ、殺せ! ……いや負けん!」





 何故なら、もう夏は終わりだ!

 で、俺は思ったね。

 春……引っ越すんだ。 家賃三万円台の所に。

 やっと夏を乗り越えたんだ! 春まで引っ越してたまるか!






■ ■ ■ ■ ■






 秋になった。

 何故だ……。

 ブラックエンブレムの襲来が止まらない。

 夜、キッチンに行くと奴らに必ず「こんにちは……いや、こんばんわ」をしてしまう。

 思わず悲鳴を上げてしまう。

 すぐにグリーン名人を持って、奴らに立ち向かう。



 最近、後片付けが日常生活に馴染んだ(不本意だが)為か、スーパーに買い物に行った際、しっかりと透明のビニール袋を多めに貰う。

 そう、それが奴らの墓場だ。

 平均一日二枚ほど、この袋に奴らの遺体を入れる。



 だが、今だにゴミ箱に入れるのに躊躇する。 もし生きていて穴から出たら……と思うと気分は憂鬱だ。

 カサカサと音が聞こえたら、袋を三重にする。 今までもやっつけたと思ったら、動き出した例が数件あったのだ。 奴らの生きる力はしぶとい。 流石、原始から生きている生物のことだけはある。






■ ■ ■ ■ ■






 ブラックエンブレムと戦い明け暮れていると、待望の冬が来た。

 俺自身は、冬は寒いから嫌いだ。

 だが、戦いに明け暮れた生活を送っていると自分の精神衛生上的に冬は有難い。



 だが、俺の甘い楽観をあざ笑うかのように事件、いや……事故が起きた。

 その事故の発端はこうだ。

 俺が外に行くために靴を履く。

 一度、奴らがあんな所に侵入しているなど知らずに靴を履いたら、そこに奴らは居た。

 この時期は、冬場だったのもあり、奴らはつま先部分に潜んでいたのだ。



 幸い踏み潰さなかったが、奴は、俺の靴の中で暴れた。

 奴も急に人間の足が現れて驚き慌てふためいたのだろう? だが残念ながら、パニクり度なら俺がそれを上回っている。

 奴は、見た目に反して柔らかく軽いのだそれが、靴下を履いていたとはいえ、足の甲を走り回ったのだ!



 よく虫唾が走るというが、俺の脳内ではそれどころではない。

 奴と顔を合わせてないが分かるのだ。



 「奴だ」と。 



 で、そんか俺は、運が良いのか奴の運が悪いのか知らないが奴が暴れだしたのは橋の上。

 俺は、通行人にゴミを捨てる感じで奴を橋から落とした。


 奴がどうなったか?


 知るはずもなかろう。

 多分、寒い川の中だ。

 ただその日から今現在も、靴をひっくり返してからじゃないと履けないというトラウマを俺に植え付けたからこの勝負は、引き分けだ。





■ ■ ■ ■ ■





 春になった。

 あの悪夢を乗り越え、どうにかこうにかまだ生きている。

 最近、黒の悪魔が活発になったせいか、よく出会う。

 そして、俺はこのアパートを引き払った。

 逃げたのではない。

 後ろに向かって突撃をしているのだ。



 そして、本日新たな居住地へと入居する。

 築10年。

 家賃が三万九千円で、ユニットバス。

 以前より狭く、ユニットバスになってしまったが、後悔していない。

 何故なら、まだ奴らと出会っていないのだから。



 赤い缶を日にちを空けて、三度焚いたのもその一因かもしれん。

 で、本日、一か月の間、隣の部屋が空いていたのだが、キレイなお姉さんが入居した。

 挨拶もしてくれて、とても感じのいい大人な人だ。

 もしかしたら、お近づきになれるかもしれないと、この時淡い期待を抱いていた。





■ ■ ■ ■ ■





 で、三か月後の今。

 俺は、軽く絶望している。

 隣のお姉さんもまた、片づけられない人だったのだ。

 先日、漆黒の闇皇帝と運命の遭遇があった。

 くそが!

 奴らとの戦いは、まだ続くのか……。

 だが安心して欲しい。

 こんな状況に最も当てはまる言葉を、俺は知っているからな。

 そう……。



「俺の戦いは、これからだ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] どもッス(^ω^) ヤツとの聖戦でしたか(。・ω・。) ちなみにウチは季節は過ぎましたが夏が来て田んぼに水が張るとネズミが来ます(-_-;) しかもかなりでっかいのが(;´д`)
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