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現実逃避してたら異世界に連行されたようです  作者: wine
第一章 異世界に連行されました
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解かされた感情

 廊下をしばらく歩いて行くと一際豪華に描かれた襖の前に立たされる。ヒスイは静かに襖の向こうにいるだろう者へ訪問の旨を告げた。すると申し合わせたように、すぅっと両襖が音もなく同じ速度で開かれる。覗いてみたら美女2人がそれぞれ襖を開けていた。


 そして、部屋の真正面、5メートルくらい奥側に段差があって、その上にあの厳つい男が偉そうに胡座かいていた。アレだ、殿様とかの座ってるところみたいな。後ろには護衛っぽい奴が2人ついている。そしてその一段下がった所に例のお坊さんも傍に控える形で座っていた。


「随分とお目覚めに時間がかかったようだな、救世の主殿」


 厳つい男は偉そうな態度そのままに言ってきた。ヒスイと言い、こいつと言い、黒族のやつらはこういうのばっかなのか?目覚めてから嫌味しか聞いてない。まあ、材料が少ないから決めつけないけどさ。


 私は頭目の言葉を無視して部屋に入っていく。


「おい、ユキナガ様の言葉を無視するな」


 小声でヒスイが注意してくる。丁寧語をつけなくなったところを見るに、救世の主と頭目だと頭目の方が敬うランクが上らしい。てか頭目の名前、ユキナガって言うんだ……別に知りたくもなかったんだけども。


「……どう答えろと?勝手に訳のわからない世界に連れ込まれて、嫌味にいちいち答えてるほど余裕があるわけじゃないんですが」


 黙っててもあれなので、思ったままを言ってみた。声音を低めて敢えて丁寧に返すことで、こちら側にも相応の怒れる言い分があるんだと暗に示す。実際おかしいだろ、特に頼んでもないのに拉致してきて、勝手に自分らの文化を押し付けながら見下してくるし、頼む側の態度としてはかなり問題だろ。


 ヒスイは勿論、ユキナガも顔を顰めている。が、こちらの言い分にも理があると多少は思ってくれてるのか、無言だった。


 それにしても、この世界に入ってから怒りみたいな感情がすぐに湧いてくる。もともとはそこまで感情が強く表に出るわけじゃなかったんだけどな。気絶する前のは当然の怒りだとは思うけどさ。ヒスイと話す時も心の奥でくすぶる感じの怒りを抑えるのに苦労した。理不尽なこと言われてるから怒って当然と言えばそうなんだけど……なんかおかしい。


 そもそも、ヒスイの話し方を整理すると、それぞれの部族から血をもらわないと私の感情って元通りにならないって言ってたよな。


 ……じゃあ、今私が持ってる感情て、限られてんのか?確かに一定以上の感情が湧きにくくなってる気はする。今のところ、黒族の持ってる感情は哀しみと感謝、復讐と誇りだっけ?それが意識取り戻した最初に飲まされた、あの血みたいな物(というか血?)だろうと想像がつく。どっちかしか飲ませないというメリットもないし、あれは複数の血が混ざってたはずだ。


 で、この怒りの感情は?こっちの世界に来て最初に抱いた感情だけど、あの時の何かが足りないって感じは無くなってる気がする。結構すんなり怒れてるからなぁ。考えられることとしては、カホから血を貰ったとして火の一族の血かな。でも、仮にそうだとして、なんでカホの血を私にくれてんの?見た感じかなり白族嫌ってそうなのに。


 まあいいか。おいおい聞いてくしかないし。多分今のところこの推測が当たってそうだ。直接聞いてもこいつらが本当のこと言うとは限らない。まあ、機会があればそれとなく聞こう。


 私はユキナガの2メートルくらい離れた位置まで歩き、立ったまま口を開いた。


「ユキナガさん?ていうんだっけ。結局挨拶もクソもなかったから名乗りあえてないけど、私は加賀見香代と言います。カヨと呼んで下さい」


 ユキナガは少しの沈黙ののち、「分かった」と返してきた。入ってきた瞬間と比べたら少しだけ蔑みの表情は薄れた気がする。いや、気のせいだな。てか何気にこの世界来て初めて名乗った。


「ヒスイの方から、この世界のことを聞きました。俄かには信じ難いのですが、とりあえず、あなた方の望む様に男として里で過ごします。ただ、こんな物騒な世で敵の素性すら知らない状態でいようなどとは流石に思えません。白族と呼ばれる奴らのこと、教えて頂きたいのです」


 こんなに長く誰かに話しかけたこと、あったっけ。多分、生まれてこのかた無いはず。少なくとも母親が居なくなってからは皆無だ。よく噛まずに言えたな……自分で自分が誇らしいよ。


「ふむ……」


 ユキナガは少しだけ難しい顔(正確には面白くなさそうな顔)をしたが、私の指摘は尤もだと判断してくれたらしい。というよりも、こいつらなんだかんだ言って丁寧に話しかければそれなりに尊重してくれる感じなのかな。確かに、仮にもチート的存在の救世の主ってやつだから、無下にはできないか。


「まず、白族というのは、火、雷を操る二つの部族の総称だ。それぞれ火は怒り、雷は傲りといった浅ましい感情によって操ることが可能になる。このせいで彼の者らの住まう土地は常に争いが生まれてな、野蛮人どもが闊歩していやがる」


 私が下手に敵の肩を持ち始めたりしないように、最初に偏見であれ情報を叩き込んだ方が良いと思ったんだろう。かなり偏った情報だな。うん、異世界来て浮かれてたりする人間には、なかなかいい手だとは思う。第一印象て重要だし。まだこの程度は私が想像つく範囲内だし、こいつらの意図通りに一辺倒にならない気はするけどさ。


 というか、やっぱり火を操る一族の感情は怒りなんだな。なんとなく感だったけど、わかりやすすぎでしょ。火=怒りの雰囲気とか妙にマッチしてる気がする。


「で?戦争のきっかけは?」


 私の問いにユキナガは顔を歪めた。表情からは憎悪の感情が溢れている。青い目が私ではなく虚空を睨みつける。恐らくこの場にはいないけど白族に向けられているんだろうことはなんとなく分かった。さっきまである程度暖かかった畳の間が冬場の夜のような張り詰めた寒気を帯びる。


 おお、これが感情で自然を操る感じ?なんて呑気に考えてるうちにユキナガは私の後ろに控えていたカホを睨みつけながら話し出した。


「白族は、我が黒族の誇り高き血筋を汚しやがった!」

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