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現実逃避してたら異世界に連行されたようです  作者: wine
第四章 異世界で逃走します
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干渉と緩衝

 シーーーン。

 アオツキの私のこと好きやわ発言を受けて、文字通り私は固まった。

 真っ白というか、フリーズだ。頭も心も身体も。

 その固まった私を見てアオツキは、慌てたように片手を振った。

「ちゃう、ちゃうで。ボーイズラブな意味とちゃうからな。世界がひっくり返っても絶対そんなこと無いで。いやほんまに、そういう意味ちゃうで」

 あ、……はい。まあ私女だけどね。そこはバレたらヤバイかも知れないという事が薄っすら分かった。自分の身を守るためにも、男であることは突き通さねば……。

「もう、何か反応してや。俺がなんか危ないこと言ったみたいなっとるやん」

「いや……それなら嘘言うなよ」

 一応心の壁を急ピッチで分厚く塗り替えながら予防線を吐いた。だいたい社交辞令で軽々しく好きを連発する奴は信用度が低い。

「嘘ちゃうで。もちろん勘違いされん様にしっかり言うとやな、人間的に好きになったゆうことやからな」

 何処かチャラケてるアオツキにしては少し真面目っぽい顔しながら恥ずかしげもなくそう言い切った。

 ギシッ

 関節というか、心というか、なんかその辺全部が軋む感じだ。何だろう、絞りあげられる雑巾になったイメージだ。水が出ないのにさらに絞られる様な心地。

 好きとか、真正面から言われるとこんな感じになるんだな。もっとホンワリしてると思ってたのに。

 神とか名乗ってた夢の中みたいなあの状況で初めて言われたのとはわけが違う。現実味というか、今言われてるのって異世界だけど多分現実だからな、全然違う。

「……どこに好きになる要素があったんだよ」

 言っちゃなんだが私はこいつに会ってから、ろくな態度はとってない。

 原因がコイツのせいだったとは言え、話しててもケンカ腰だし、礼儀は欠くし、最後は殺しかけたんだぞ。

「うん、まあ、強いて言うならお前が俺の想像以上に甘かったから、かなー」

 のんびりと腕を組みながらうんうんと満足そうに頷いてる。

「あ……そ」

 返す言葉が無いからそう言って逃れる。

 別に照れてるわけじゃ無い。

 ま、信用度は低いけど一応言葉としては受け取っておくか。

 でも何だかなー。やっぱ前の精神体の時も思ったけど生まれて初めての好きを言われる相手は、もっと別の人に言われたかった感が拭えない。もう言われてしまったし良いんだけどさ。特定の相手も無いしな。

 お、やっと身体の緊張が解れてきた。なんつーか、慣れないことに直面するとこんな感じになんだな。

「まあ何にせよ、気いつけなあかんで、その力。せやないと……」

 アオツキは声を低めて真剣な表情。私も思わず身構えてゴクッと生唾を飲んだ。

「俺泣いちゃうぞ★」

「なっ」

 めっちゃ軽い調子で片目つぶってウィンクしやがった。構えていた分、ずっこけるレベルの軽さ。いや、肩が実際ガクッてなった。

「お前が泣こうが笑おうが、ほんとミジンコレベルでどーでもいい」

「やーん!ええわ。そのキレッキレの冷たい感じ、嫌いやないで」

 語尾に「w」が3個以上付いてそうな発言。

 ムカつきがまた生まれる。何なんだよこいつ、せっかくさっきの戦闘で怒りの感情治ってたのに。

 アレ、てか、ほんとに腹の底に渦巻いてた当たりどころの無い怒りみたいなのが消えてる……。

「アオツキ、もしかしてワザと煽ってきてんのか?」

「んー?」

 私がムカつくように振舞ってた節が序盤から割とある。そんでもってあの戦闘にもつれ込ませてた感じ……。

「言うたやん?お前の性格次第やと殺そうおもてたからなー」

「…………」

 アオツキは強い。

 さっきのアレだって、何だかんだ術を使って完全に回避できる程度には余裕なんだ。私とあいつの力量なんて雲泥の差。きっと何度戦闘したって私が勝つ見込みはゼロだ。

 そんな奴が、何で私を殺そうとしてるんだよ。

 何にコイツが警戒してるかは分かってる。おそらく私についたっていう祝福という名の能力だ。

 確かに黒族でもそれのせいで一波乱あってたし、私が脱走しなければそれでまだもめてる感じだったろうな。でも、ヒスイやホトリの言い方的には火の能力者ってのにはボンヤリとした理解しか無さそうだった。

 今考えるとだいぶおかしい。能力者とかカホ見ててもチートだと思うし、敵の最警戒事案だろうに言われた内容と言えば噂の域を出ないレベル。

 そこから考えられることは大きく3つ。黒族と白族の戦争にその能力者が出てないか、バレ無いように隠されてるか、そして最後は、見た人間が全て死んでいるってあたりだろうか。

 でもアオツキの警戒の仕方、火の能力者がどんな能力なのかを知ってる……?

「火の能力者に、今までに何度か会ったことあんのか?」

「会ったも何も、俺が火の能力者、全員殺してきてんで」

 ゾクッ

 背筋が凍った。けど、感情はストップされる。だから私は聞き返すことができた。

「は?どういう事だよ」

 声が震えた。急速にのどが渇く。

 思わぬ第4の答え……て言うか第一案の延長上ではあるケドさ。予想外ではある。

 アオツキは肩を軽くすくめてニヤッと笑う。

「せっかく根絶やしにしたのに、今度は異世界人を祝福。ほんまこの世界の神さんは、やることエゲツナイわー。しかも俺はお前を気に入ってしもたし、さぞやかぐやんはほくそ笑んどるやろうで」

「…………かぐやん?」

「火の神さんやで。本名カグツチやから、かぐやんて呼んでる」

 ああ、実在するかは知らんけど、本名とかあんのね。や、神様相手にこいつ、フレンドリーだな。

「火の神と敵対してんのか?」

「ん?してへんで」

「…………じゃあ、何で能力者皆殺しにしてんだよ」

「危険やから」

 そう言って笑う。

 訳わからん。実際私はその殺される対象の能力者だけど、いきなり殺されるような謂れはないはずだ。だからこいつは私を殺さない判断したのかもしれないけど、私よりマシな奴なんか腐るほどいるはずだ。カホは火炎族の血を引いてるだろうけど、いい奴だ。もちろん火炎族の全てがそうとは思わないけど、能力者の中にも良い奴はいるだろ。

 それをこいつ、問答無用で皆殺ししてるのか?殺人魔かなんかかよ。

 あぁ、また怒りが腹の底を這い回り出す。

 くそ、ムカつく。

「それ」

「は?」

 アオツキが人差し指で私の胸を指す。冷えた視線。

「火炎の能力の本質は、暴力やねんか。ほっといても負の力が勝手に溜まる仕組みや。性格の良い悪いに関係せぇへん。しかも、それを解消するには戦闘しかないねん」

「え……」

 じゃあアレか?私が今まで抑えに抑え込んでた怒りってのはこの能力のせいだと?

 確かにカホをいじめてた奴を殴った後、ちょっとだけ怒りが息を潜めていた。そして、さっきも。

「暴力するために生まれてくるような奴が地脈と自然操作してみ、俺みたいに強ければ何もあらへんやろけどな、普通死ぬで。しかもいつ沸点に達するか分からへん。そんな生きる爆弾みたいな奴、百害あって一利なし。殺すに限る、そう思わへんか?」

 冷たく投げかけられた質問に、私は何も答えられない。何も言えず、この悪魔の言葉を吐く悪魔を凝視することしかできない。

 いや、悪魔は私か。

 ドクドクと心臓の音が鼓膜を突く。

「何で、私を殺さないんだよ」

 この世界に来て2度目の同じ疑問を投げかける。

 アオツキの顔が緩んだ。

「言うたやろ、好きになったからや」

「…………」

 それで良いのか?そんなんで。

 と、さっきまでゆったり胡座かいてたアオツキが視界から消えた。

「一応断っとくけどお前がお前である限り殺さへんてだけやで。こっから先一度でも暴走してみ、命の保証はせえへんからな」

 低い呟きが耳元で発されて初めて私は背後を取られたことに気づいた。

「分かった。私も自分自身がどうなるのか分からない。だから……」

 もしも、私がカホやヒスイ……いや、この世界の人間誰でも、この手にかけようとしたら殺してほしい。殺すより殺される方がきっと良い。私より死んだ方がマシな人間なんてそうそういない筈だ。

 でもその一言を言うのに勇気が要る。

「だから……ひぁ?!」

 だからその時は宜しく……そう言おうとしたのに、ついさっきまで囁かれていた右耳に得体の知れない感覚が走って変な声が出た。

 何ていうか、感情とか痛みとかじゃなくて体の反応と言うか、ゾクゾクした何かだ。

 慌てて耳を押さえて振り向く。

「あっはははは!ひぁ?!やて、かーわいいー」

「な?!は?え、あ?」

 私はとっさの事で何が何だか分からない。耳が異様に熱くなる、というかさっきの感覚がまだジンジンくる。

「耳が性感帯やなんて、可愛いわー。しかも超敏感、ちょっと舐めただけやで?」

「は、え、はぁ?舐めっ!??……はぁああ?!」

 耳の熱さが顔全体に伝染した。

「その反応、ウブやなー。ええなー、俺もそんな時があったなー」

 遠い目をするアオツキ。

「……ぐっ」

 ふ、ふ、ふざっけんな!

 私は盛大に心の中で火山を噴火させる。と同時にアオツキに拳を突き込んだ。

 バキッ

 アオツキは笑ってるままに、いとも容易く私の突きを片手で受け止めた。

 くそ、ムカつく。笑顔で受け止めやがって。私は笑顔にムカつきつつも手を引く。

 ったく、全然効いてねぇじゃ……え?

 アオツキは私の突きを受け止めた瞬間から固まった笑顔のまま自分の手を見る。

「ん?」

「あ」

 プラーン

 アオツキの右手が幽霊みたいにぶら下がる。

「いっっってぇぇえええ!!!!はー???!!!ほんま、ちょ、ええええ?!ちょぉぉおおお!!」

 アオツキは私から飛び退いて手を抑えて転げまわる。

 あのアオツキでも真正面から受け止めると効くんだな……。暴れるアオツキを眺めながら、そんな風に割と冷静に私は分析する。

「おま、ちょ、え?アホちゃうか?!手加減しとるとおもたのに、何してくれとんねん!あかんで!ホンマあかん。いったいわ!!」

「うん、ごめん。そんななるとは思わなかった。でも、後悔はない」

「いやいやいや、それ謝ってへんし」

 と、アオツキがぷらっぷらの右手でツッコミの仕草をする。

 え、痛いんじゃねーのかよ。と思ってたら勝手に悶絶しだす。

 ……コイツも大概だな。

「何かあったのか?」

 と、ここでカホさんがお目覚めらしい。アオツキが煩すぎて起きたようだ。

「あ、ごめんカホ、起こしてしまった?」

「お前今、俺のせいでカホ起きた思うたやろ」

「あ?当たり前だろ。お前うるせえもん」

「や、お前のせいやで」

「だから謝ったろ、ごめんて。でも元はと言えばお前が……」

 ぐぅ、カホの前で言いたくねぇ。恥ずかしすぎる。

「どした?何があったんだよ」

 カホは不審げに眉を寄せつつこっちにやってくる。状況把握しようにも当人達がギャイギャイ騒いでるから心の読めるカホも流石に戸惑っているらしい。

「いや、えと……」

「あんな、あんな、聞いて?カヨがな、俺の手こんなしよってんで」

 私がどもってる間にアオツキが涙目のままカホに哀れな自分の右手を見せびらかす。小さい子供が自分の正当性を大人に主張する時の、悔しいけど可愛げのあるあの感じだ。

 カホの眉間にシワが寄る。

「大丈夫か?」

 心配そうにアオツキの手を触診する。

 なんだこれ、モヤモヤするような騒つくような……あれ、途切れた。

「カヨ、知ってるだろうけど一応俺らの協力者だからな?仲良くしろよ?」

 カホは困ったように私に呼びかける。

 確かに、立場としては手を挙げた私が悪い。能力のせいで怒りが強いとか、(正直コイツのデマかもしれないけど)そういうの関係なしに私がちゃんとコントロールできなかったのが悪い。

「……ごめんなさい」

 本気で謝罪して頭を下げて、アオツキを見る。そして後悔した。

 アオツキが無事な左手の方であっかんべをしている。コイツ、ほんっと何なんだよ。いちいち本気に取ると余計に腹立つ仕組みじゃねぇか。

「これ、こっち向きに折ったら治るんじゃねぇか?」

 バキッ

「んなっ?!!いっったぁぁああ!!!は?!おま、はあ??!!!なん、いったっ!え?!マジいったいわ!!アホちゃうか。何してくれとんねん!!ありえへんわ!このどアホ!」

 アオツキが再度転げまわる。

「あれ、痛かったか。ごめん、許してくれ」

 あぁ、カホがバカなお陰でいくぶんかスッキリした。

「くっそうぅぅ!」

 アオツキが屈辱だ、て顔しながら命の恩人さんを振り返った。

「ちょお、お前治してや。超痛いねん」

「え、嫌」

「何で?お願いや、そう言わんと治してや」

「嫌」

 シーーン。

 命の恩人さん、こんなバッサリキャラだったのか。てことは、私に対して甘々なんは「村人」云々が関わってるからか?

「……俺泣くでホンマ。お前ら愛がないねん、冷たいん嫌いや」

 アオツキがイジケ出す。

 まあ、アレだ。さすがに可哀想だ。私のせいだし罪悪感が募る。ダメ元で頼んでみるか。

「命の恩人さん、あのさ、あの人も治してあげて。一応私を助けてくれてる人だし」

 そっとコショコショ話で伝える。

「え、村人が言うなら……いいよ」

 命の恩人は私の言葉を受けて180度転換レベルで声のトーンが変わる。この私への絶対的信頼感、というか従属感は何なんだ?

 命の恩人さんがそっとアオツキに近づいて触れると、ボンヤリ光って消えた。

 へーあんな風になるんだな。される側だったからあんま気づかなかった。

 てか、あの光り方って、例の祠の木と似てる……?

「おおきになー。俺、樹葉族嫌いやけど、お前は好きになったんで。少なくともあのへんの異界人やどアホより、よっぽどマシやわー。……ちょっと臭いけど」

「僕、お前、嫌い」

 無表情にピシッとつっかえす命の恩人さん。

 え、この子何でこんなアオツキに対して厳しいんだ?!私も人のこと言えないけどさぁ。接点というか、会話してなくねぇか?この2人。

 お陰でアオツキがカチコチに凍ったようになっている。

「お前らな、アオツキをぞんざいに扱い過ぎだっつの。助け出してくれてんだぞ」

 まあ、確かに。

「カホ君……どアホ言うてごめんやで」

 アオツキが縋るような目でカホを見る。いや、体も擦り寄る。

 どうでもいいけどコイツの変わり身の早さ尋常じゃねえな。

「いや、俺こそ、迂闊なことしてごめんな。治ってよかった」

「お前ええ奴やなぁ、俺が女なら惚れてんで」

「ゔ?!あ、お、おう。……ありがと」

 カホが顔を引きつらせつつ対応する。

 モヤモヤ……ピタ。

 ピタ、ってのは、なんか知らんけどそこでそれが途切れてる感じだ。

 モヤモヤもよく分かんなければ、止まる感じも良くわからん。これ、何かの感情なんか?

 私は黙って体育座りする。

 アオツキが私を見て、ブッと吹き出した。

 何だよ、まだ何かあんのかよ。うっさい奴だな。

 もはや言葉にする気力がない私はジトッとした視線でアオツキを凝視する。

「ほーんま可愛いやつやなー!お前、タダでええから俺の血飲まへんか?もっと面白くなりそうやわ」

「うっせ、誰が飲むか」

「カヨ!そのケンカ腰止めろって言ってんだろ」

 カホが良い加減飽きれだしたみたいだ。叱り口調になる。

 ズキッ

 何とも言えない色々混じった感情が、頭と心臓にグアッと圧力を掛けてきて、息が詰まった。

 でもそこでストップ。……何だよ、何の感情だよこれ。

 何だか急に放り出された気分になって、悲しい気持ちと、もう1つストップした何かの感情とが合わさったものだと思う。何かが抜け落ちてる感じ……。

 今は悲しい気持ちだけがやってくる。

「……寝る」

 居た堪れなくなって、それだけ絞り出すと私は出来るだけ2人や焚き火から離れたところへ行って体育座りした。そうして膝と腕に顔をくっつけて、ジッとする。

 正直眠くはない。

 体をぐるぐるする何かの感情のせいだろうか。その下には怒りが這いずり回る。

 何でアオツキにあんな突っかかってんだよ、私。カホの言うとおりなのに、頭でも分かってるのに。

 もう、嫌だ。

 自分が一番嫌いだ。

 唇を噛み締めてると、切れてしまったらしい。血の味が口の中に広がった。

 ツンツン

 頭を軽く何かが刺激した。

 正体は見なくても分かる。

「ごめん、ちょっと言い過ぎたか?」

 カホの遠慮がちな掠れた声。

 私は顔を伏せたまま頭を振る。

 私が全部悪い。カホは間違ってない。

 と、短いため息が聞こえる。そして隣に座る気配。

「お前が全部悪いとか、一言も言ってねーだろ?彼奴だってお前を煽ってるだろ。そのくらい分かるっつの。お前と彼奴の悪さとか俺からしたら半々か、むしろ彼奴のが悪いだろうけどよ、一応助けてくれてるのに、お前ばっか庇うわけにいかねーじゃん」

 私を宥めすかす様に、頭をいつもの様に優しく撫でてくる。

「でも、ごめんな。さっきのはお前を庇えてなかったよな、お詫びになんか言うこと聞いてやるよ」

 ああ、(もつ)れてた感情が解けていく……けど、喉のつっかえはより酷くなった。ぎゅっと喉の筋肉に力を入れる。

「やっぱり、俺がちゃんと起きとくべきだったよな。ごめんな」

 違う。カホだって寝なくちゃいけなかった。

 私は自分を抱える腕に力を込めて余計に縮こまる。

「カヨ、お前も寝なくちゃだからな?そんな力込めて縮こまってたら寝れねーだろ」

「……眠くない」

「お前な、ガキか。お前の身体が疲れてんの、手に取るように分かんだよ。大人しく寝ろよ」

「…………」

 じゃ、さっきの言うこと聞くってやつ、私のこと、……嫌いって言って。

 カホはそんな私の心の言葉を読み取って、頭を撫でる手が止まった。

「怒るぞ」

 ごめんなさい。

 カホ、だいぶ本気で言ってる。語調がかなり強くなってた。

 でも少しだけ喉の詰まりや腕の力が緩む。

 淀んだ頭の中に別の感情が軽く入ってきてストップした。この感情は分かる。嬉しいってやつだ。

「ったく、お前の心ん中、複雑すぎてわかんねぇ」

 そう言ってまた頭に置かれた手が撫でることを再開する。

「もし、カヨが俺を嫌っても俺は俺なりにお前のこと守るからな。生きてる限り、ずっと」

「…………」

 ああ、あったかい。

 自然と息がゆっくり吸える様になっていく。

 そして急速に眠気が襲ってきた。

 意識が徐々に離れていく中、私はカホに体育座りのまま、そっと寄りかかってみる。するとそれまで撫でてた手が反対側の私の肩に回されて、抱きとめられる。

 トクトクと自分の心臓が適度に高鳴る。この焚火の臭いも、肩を抱いてくれる手も、唯一無二のよりどころなんだと自覚した。たったの数日一緒にいただけなのになぁ。カホは私を安定させてくれる。

 その安心感に包まれて、つい固めてた壁が揺らいだ。そしてカホの言うこと聞く発言に対しての要望がフワッと思考に浮かぶ。

 私が起きるまで、ここにいて。

「当たり前だろ、バカ」

 そうして、私は眠りに落ちた。

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