女から男
つまり、こいつらが私に求めているのは子供を作らせること。本来なら救世の主に求めることは戦争を止めさせることだったけど、女には無理だと思ってる感じかな。で、最初にこの里の頭目が言ってた強姦の指示になる、と。
まあ、ここまで女に戦場へ行かせられないて言うのはある程度想像ついたから、カマかけしてみるか。
「で、女は戦場に行かせられないっていう理由は、下手すればカホみたいな子が出来るからって事だよね。敵の血筋と混ぜるなんて恥、とか考えてるんでしょ」
「恥などと言って済ませられるほど簡単なことではない!本来なれば身に宿した時点で即刻打ち首だ」
私の言葉にヒスイは激昂している。これは、本人の前だしなかなか酷い言い草な気がするんだけど。案の定、カホは気まずそうな顔をしてる。
「まあ、そうなるのは想像出来るけど。じゃあ何でカホは生きてんの?」
「それは……」
そこでヒスイは言い淀む。なんかあるんだろうけどもさ。頭目と話してたお坊さんが言ってた稀なる能力て言うのが鍵なんだろうな。
まあいいや。本人の前でこれ以上ズケズケ聞くわけにもいかないし。てか、ヒスイも言ってる割にカホとは仲よさそうだからね、なんか色々あるんだろう。
でも、その観点で言うと、私は別に戦場行っても良い気がするんだけど。もともとこの里の血筋とかでも無ければ、敵のでも無いし。
「まあ、いいや。で?私は何するわけ?」
子供を産もうにも1年かかるはず。ちなみに、私はまだ子供を産める身体じゃない。これは言ってもしょうがないから言うつもりないけど。成長してきてるから時間の問題だろうし。
つまり、女の救世の主はこの世界にとってお呼びじゃないのは明らかだ。考えられるのは、更に異界の人間を召喚して、私をそれまでのツナギとして扱う感じだろうか。こいつらに会った時、白族でも召喚してる云々言ってたのは何となく覚えている。複数人この世界に連れてくることが出来るなら、更に召喚すればいいだけの話なんだろう。
「それは……暫しの間、男の身として過ごしていただくということです」
「マジか」
思わず口走ってしまった。何となく思ってたけど、ツナギも良いとこだな。
確かに、後から召喚した異界の人間とすり替えれば良い話だし、それで良いのか。すり替えたのが後からバレても本物の異界の人間ならばどっちにしても救世の主だしな。
問題は、私が女だってバレた時だろうけど、所詮女だから利用するだけしておこうという精神なんだろう。女だから戦場には行かせられないけど、救世の主を召喚してしまったというのは周知されてしまったって感じか。戦争中なら兵士の士気に拘るから救世の主召喚は良いネタだろう。それを最大限活かせる事にはなるね。
「ひとまず、救世の主の召喚に成功した旨を里の者に広めておりますが、当然ながら男と思われております。その点、充分に注意して頂きたい。違えるならば、特定の部屋にのみで生活してもらいます」
あ、ばれない限り一応は自由に動ける感じなんだ。影武者みたいなんを立てればいいのに、意外とその辺甘いんだな。ここで指摘すればそうなりそうだから言わずにいよう。
確かに、救世の主が軟禁状態とか兵士も疑問に感じるだろうしね。本当に救世の主がいるんだと認識出来れば上手い具合に更に士気に影響すると見込んでなのか。
「分かった。多分大人しく従った方が良さそうだね。髪とか切ってもいいよ。その方がバレにくいなら」
ヒスイは意外そうな顔をした。大人しく従うっていうのに意外性があったんだろうか。
「長髪は女若しくは貴族の象徴です。わざわざ短くする必要はありません」
なるほど、そっちね。むざむざ女の命的な物を失わずとも貴族として通せるから切らなくていいって言いたいのかな。
「いや、短くして良いよ。動くのに邪魔だと思ってたし」
「あなたは本当に女なのですか?」
理解しかねるという表情で、凄くムカつくこと言ってきやがった。確かに女子力とか持ち合わせてないけどさ。言いようがあるでしょ。
まあ、女の価値を邪魔の一言で捨てようとしてるし、ヒスイの言いたいことも分からなくはないか。
「別に良いよ、その代わりタダで髪切って欲しい」
どんなに邪魔だと思ってても切れなかったのは単純にお金がなかったから。今まで食いつなぐのに必死だったからね。
ヒスイはこちらの事情なんて当然ながら知らない。当たり前だと言わんばかりに不思議そうに疑問符を浮かべている。言って気づいたけど、自分たちの都合で呼び寄せた異界の人間に金銭なんか請求する訳ないか。それこそ頭がおかしいな。
そんなこんなで、髪を切ってこっちの世界の服、というか甚平的な物?に身を包んで頭目に会いに行った。
当然だけど、男装のために胸と腰には晒を巻いた。
悲しいことに胸はまかなくても目立たないほどに小さかったから、晒を巻いたら完全に絶壁になった。うん、育ってきた栄養状態のせいだから。寧ろこの状況ではプラスだから。
そう言い聞かせながら日本家屋風の廊下を案内されながら歩いていった。歩いていて思ったのは、やっぱり身体が軽いって感じだ。そもそもこの世界にとってチート扱いの異界人だし、他にもなんかあるのかもしれない。