怒りの矛先
投稿遅くなりました。
よろしくお願いします。
「ふぁ……」
先の休憩から数十分経った。
そんな中、カホがかれこれ6度目くらいの欠伸をした。確かにもう少しで夜明けだ。
私はあんまり眠く無いけど、この3日間カホは私の護衛で、私があんまり寝ないこともあってまともに寝ていない。私自身はまだ平気だけど、というか眠くならないからしょうがないんだけど。でもそれに付き合ってるカホにはたまったもんじゃないだろう。そろそろ流石に限界なのかも知れない。
「いや、眠くねぇし、全然余裕だし」
カホが後ろから強がりを言う。
「強がりじゃねぇよっ」
全く、心読んで答えてくるのにもだいぶ慣れてきたな。
「地下の温度は一定やし睡眠には最適やで。気持ちは分かる。まあ良い子の寝んねの時間をずっと起きてたんやし、しゃーないやろ」
アオツキがカホを弁護する。馬の背で寝っ転がってくつろいでる。で、その馬の後ろで引っ張られている石馬車に目を移すと、馬車の荷台に転がされた青年がオドオドと馬車にしがみ付いていた。命の恩人以外の積荷は地上で拾った焚き火用の枝と少しの食料だけだ。
アオツキのやつ、命の恩人が臭いってのと、男と二人乗りしたく無いとか言う理由から自分の術でわざわざこんなものを作成しやがった。
しかも、馬が可哀想だからなのか知らんが、自転式だ。体裁は馬に引かれている感じだが、よく見れば車輪が自動しているのが分かる。アオツキがずっと顕現したままでいるのもその証拠だ。
「ところでお前、そんな無駄に力使う余裕あんなら馬に乗る必要無くねぇか?」
一応ツッコミを入れておく。
「えぇやん、俺んち馬とかおらんねん。お土産無いと俺を待っとる可愛いマイファミリーが残念がるやろ、せっかくなら乗って帰って自慢したいやん」
どうやらアオツキが乗ってる馬は、城から頂戴したものらしい。
カホの馬は、あの賢いデカイ馬だけど、アオツキのは若干それより劣る感じだ。立派なことにかわりないんだけどさ。
てか、見た目20代前半の若さなのに子供居るんだな。確かにこういう世界だと婚期早そうだけども……。まあ、良いや。
私は相変わらず水の訓練をしてたから、アオツキの後半はスルーしておく。
「お、今無視した?!ちょぉ、よう聞けよ。今から行く俺の家にはそれはそれは可愛いファミリーがおんねんで。もうマジ可愛いんやから、あんま甘く見とると度肝抜かれんで」
「…………」
知らんがな。てかマイファミリーて言葉そんな使わんで良いだろ。情報元が気にならんでもないけどさ。
とりあえず水を上手く操ろうと集中する。
ピシャ
おう、また零した。ダメだ、欠片も操れねぇよ。
「あ、また無視した!おいカホ、もうちょいこいつ愛想良くさせられへんのんか?」
「いや、俺に言われてもよ……今こいつ水の操術訓練で集中してんだよ、大目に見てやってくれ」
カホが私をフォローしてくれる。
「……ずっと気になっててんけど、操術って、なんで水なんや?お前が教えるんなら火の方がええんちゃうか?」
「確かに」
私は思わず同意の声を漏らした。
「お、やっと俺に反応した」
「何で水の訓練から手をつけたんだ?」
私はアオツキの言葉に被せつつカホを振り返って尋ねた。
カホは弱り顔で頭を掻く。
「いや、俺の拘りみてぇなもんだから、あんま上手く言えねぇんだけどよ。一番お前が安定しやすい力だと思うから先に教えてたんだ」
「うーん、一番安定、ねぇ……。でも、実際に教えられない分野を教えるのもキツくないか?」
お母さんが水の部族ならちょっとは感情があるんだろうけど。ヒスイの説明聞く限り、自然を操るほどじゃないはずだ。
「…………」
カホはここで躊躇う様にチラッとアオツキの方を見る。そして私にまた視線を戻して、逸らした。
ん?何か隠してることでもあるん?
私はカホに心の中で呼びかけるけど、反応を返してくれない。
うーん、これは、私にも隠してることがあんな?
「ヒスイの訓練を真近で見てきてっからよ、一応何が違うかとか分かんだよ。カヨはもうちょい悲しみの感情を捉え直した方が良い」
取り繕うような言葉だ。
「うーん…………分かった」
何と無く疑問というか、不信点を抱えてしまったけど、素直に従う。
今んとこ割とアドバイスくれてるのに水の操作出来てないのって、カホの指導のせいじゃ無くて私のせいだろう。適宜アドバイスくれてるもんな。カホが感情読めるからってちょっと甘えるのも良くないだろう。
「ま、俺の血もあげて土巌の力をじっくり仕込んでやってもええねんけどなー」
「…………」
「タダであげるのもなー。何か見返り欲しいなー」
ワザとらしい。
何かイラっとくる。
土巌族の血……どんな感情なのか気になるところだけど、タダだろうと此奴から血なんか貰いたくもねぇな。増してや見返り云々言ってきてんだからな、100%お断りする。
スルー一択だ。
「また無視かい。ほんま愛想ないなぁ」
アオツキは諦めたように呟く。
それにしても、我ながらだいぶ恩を仇で返しまくってるんだけど(一応自覚はしているけど何となく歯止めが効かなくなってきている)アオツキて気が長いというか、キレポイントがないよな。
あ。感情がないからか?
そうこう話しているうちに地下通路の行き止まりまで来た。頭上に穴とかはないんだけど、多分アオツキがここに入った時みたいに無駄に力駆使して出してくれるんだろう。
でも、その前に。
私たちは馬から降りて軽く食事した。木の実の乾燥したやつだ。だいぶエグい味だけど、他に食物も無いのでしょうがない。疲れのせいか、もともと話す用事もないからか、会話もなく皆無言でムグムグと食べた。
一頻り食べ終わって、焚き火を囲む。
ああ、アオツキに確認したら通気性は整えられてるらしくて、一酸化炭素中毒の心配はしなくて良いらしい。
「とりあえず、ここで夜になるまで休もう。カホ、しっかり寝ろよ」
「いや、俺はお前が寝てくれねぇと……」
「私は今あんまり眠くないんだ。よくある事だし、私に付き合ってないでしっかり寝て欲しい」
うん、どうゆうわけだかこうしてる今も全く眠気が無いんだよな。そういうのに付き合ってカホが体調崩したらお互いが困る。
「でもよ」
「これから外に出るんだし、もしもの時、頼りになるのはカホだけなんだ。早く自分の身くらいは自分で守ってカホの負担を減らしたいんだけど、まだ全然だし。その代わり、カホがちゃんと眠れる様に見張りをしておくよ。救世の主のくせに、こんなことしかできなくて申し訳ないんだけど」
ほんとに情けない。カホに頼ってばかりだ。
外でも地下でも、あの得体の知れないアオツキも安全とは言えない。
けど、カホはきっと私を守ろうとしてくれる、それは何か地下の一件以降、強く思える様になった。これがもしかしたら信頼の感情なのかな。
だから、ちょっとの間だけでもカホにお返ししておきたい。
ん?カホはカホで情けなさそうに困った顔をする。
「俺こそごめんな。できる限り早く回復する」
カホが悪いわけじゃ無いのにな……。
「お前らな、俺のこと信じられへんのもわからんくないけど、今更とって食ったり、無駄に話しややこしくする様な事、せぇへんから。しっかり面倒見てやっから2人ともちゃんと寝ぇや」
アオツキは、当然の事を言わすなとでも言いたそうに気怠げな表情で言った。
お前が信用なんねぇんだよ。
そう心の中で呟いて視線をカホに戻す。
「カホ、絶対起きててやるからしっかり寝ろよ」
「おい、信用せえって」
「助けてもらっといてアレだけど、あんま人自体を信用してねぇんだ。カホはまだ利害とかがハッキリしてて分かりやすいから良いんだけど、お前は不明すぎるからな」
アオツキは、私の言葉にむうっと口を噤んだ。
と、カホが私たちの拗れに痺れを切らしたのか、割って入りながら諦めた顔をする。
「……分かったよ、昼の間の休憩なんだし、半分ずつ寝よう。俺が先に寝る」
なるほど、今は体内時計的に朝7時くらいだし、日が沈むのはおよそ12時間後。てことは単純に6時間ずつ寝れるって訳だな。
「分かった。そうしよう」
それにしても、もう1人、命の恩人さんの声がしない。大人しい性格だし、言葉がわかんないからか知らないけどあんまり自分から会話に入ってこない。
さっきまでモグモグ食べていた石馬車に目を向けると、上裸ですぴすぴ寝ていた。
何ていうか、寒そうだ。
というか、見ていて心苦しい。細過ぎる手足も、重ね重ね浴びてきた暴力の痕も目の毒だ。つい自分に重ねてしまう。
ファサッ
と、黒い布が命の恩人さんに掛けられる。カホの服だ。
私が振り返るとカホは下着……ていうと何か変質者っぽいけど、薄めの黒い肌着を来た姿でいた。若干体の線が透けてて、何か上裸よりも目のアテどころに困るな。
「か、風邪引かれると、めんどくせぇだろ。俺全然寒くねぇし」
私の視線に若干照れ顔のカホが、聞いても無いのにツンデレっぽい言い訳を呟いた。
「カホてほんまお人好しやんなぁ。放っといても慣れてるやろし、今更コイツ風邪なんか引かへんやろ。引いても能力持ってんねんで?」
「う、いや……でもよ」
カホはここで心配そうに私を一瞥する。
ん?何だ?私になんかあんの?
アオツキは私とカホを交互に見ながら軽く溜息を吐いた。
「まあ、別に俺はこの奴隷人が風邪引こうと、異界人様のためだろうと、カホの服が臭くなろうと、どうでもええねんけどな」
「あっ、しまった!」
カホはここで失念していた事に気付いたらしい。割と本気で後悔しかけの顔になる。
……うん、ドンマイ。
早いとこあの子体洗ってあげないとだね。
そんなこんなで、カホは座って壁に寄りかかりながら寝た。
横になれば良いのにって言ったけど、流石にそれは嫌らしい。どうしても譲らないから、よく分からんがそういうもんなんだろう。
でも、余程疲れがたまっていたのか、直ぐに寝息が聞こえて来た。
さて。
このカホの寝ている間、私はする事がないという事もない。自分で歩き回りながら水がこぼれない様にする訓練を開始した。
アオツキはそんな私を寝っ転がりながら目で追っている感じだ。ジトッとした視線を感じる。
でも、あんまりこいつと関わりたくはない。無視だ。
こんな感じで割と微妙な沈黙が続く。
2人分の寝息と私の歩き回る音、時々水が滴る音が聞こえるだけだ。
「なあ、ちょっと手合わせせぇへん?見ての通り、暇やねん」
「…………」
私は水に集中し続けている。
悲しい気持ち悲しい気持ち……お、ちょっと水が安定し……
「なあ、って」
パシャ
目の前に音もなくアオツキが現れて、私の持ってた椀の中に手を突っ込む。
「おぃいいいっ」
私はカホたちが起きない様に配慮しつつも声を上げた。
「何やってくれてんだよ。せっかく今、もしかしたら水を少し操れてたかもしれないのにっ!」
「そんなんやってても眠くならへんやろ。やっぱ健全に体を動かしてこそ、健康体になんねんで」
言ってる意味が分かるようで分からんぞ。
取り敢えずムカつくな。
「んのやろぅ」
「ん?」
全く悪びれる素振りのない眼前の男に、私は絵も言われぬ怒りを覚える。
うん、こいつに遠慮は要らないな。何となくそう思う。今まで腹の底で燻ってた行き場のない怒りが胸のあたりまでせりあがってくる。
私はゆっくりとお椀を地面に置いた。そして自分の中で最速レベルで起き上がって相手の胸ぐらを掴む。
「やってやろうじゃねぇか」
「お。めっちゃ乗り気やん、短気は話が早いから嫌いやないで」
アオツキは胸ぐらを掴む私の手に自分の手を重ねる。薄暗がりでも分かる、目の色が茶色く変わった。
私は何となく嫌な感じがして飛び退いた。
「でも此処やとカホたちが起きるやろうし、あっち行かへんか」
アオツキがニヤッと笑いながら指をさす。さっきまで壁だったところがポカリと空いている。隠し部屋みたいなもんか?私が行っていた道場くらいの奥行きがある。一辺15m前後の部屋だ。焚き火も無いのに奥まで見えるのは、恐らく外の明かりが少し漏れているのだろう。陽射しのような光の筋がチラホラある。
私は沸々とする感情に身を任せながら、アオツキに連れられてその部屋に足を踏み入れた。
次回は久々というか、初というか、戦闘シーンです。




