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現実逃避してたら異世界に連行されたようです  作者: wine
第四章 異世界で逃走します
37/44

青月

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

 目を向けた先には、上裸の青年。

 上裸の青年とか言うとムキッとした裸体を思い浮かべるかもしれないけど、その間逆。貧相な痩せ細った身体と無数の傷痕が、見ていて痛々しい。

 まるで自分の体を見てるようで、激しい嫌悪感と吐き気がくる。

 回復術使えるくせに、傷痕は残るのかよ。

 そう心の中でツッコミ入れるけど、まあ、誰もそんなん知らねーよな。

「あいつの能力は回復術っつうより、部分的な時間操作と身体の中にある機能の組換えに近いらしいからな。傷痕までは難しいんだとよ」

 カホがボソッと私に回答してくれる。

 やけに詳しいなとは思った。相変わらず非科学的だけど、それだと質量保存の法則的なものは一応保たれるのか?いや、何が科学的とか知らんけどさ。

 まあでも今の私には、ふーん、とか、へー、とか言ってる心的余裕は無い。腹の底で疼く怒りが気を抜いたら表面まで一気に駆け上がってきそうだ。

 目に見える範囲の青年の身体の傷は、私の傷とよく似ている。

 火傷痕と切り傷。

 こんな、術がどうのこうのとややこしい世界でも、起こってることはシンプルだ。暴力をふるう側と受ける側。強い奴らと弱い奴らの間に引かれる超えられない線引き。その強い弱いにだって、弱い側に選択の余地はない。押し付けられて出来上がる仕組み。

 結局どこの世界でも、暴力は理不尽なんだ。

 私が怒りを抑えてる間も、当の本人はキョトンとした顔で周囲をくるくる見回している。

 と、命の恩人はある一点に気づいて目を留めて、これ以上無いくらいのニコニコ顔に変わった。

「◯※▽□!」

 出た。宇宙語!

 視点の先とおそらく話しかけてる相手は一緒。

 そう、私だ。

 なんつーか、街歩いてて外国人観光客に「スミマセン……」て話しかけられたあとに、スペイン語あたりの習ってない外国語を連発された気分だ。

 さっきまで私の知ってる言葉話してたじゃん。ここどこ?て言ってたよね君。何で宇宙語で話しかけてくるんだよ!

「ごめん、その言葉わかんないよ」

 伝わるかどうかは置いといてとりあえず口に出してみる。

 でも雰囲気的には多分、私を治療して無事でいるのが良かったとか、そういうこと言ってそうなのは分かる。見た目以上に表情が幼くて、純粋そうだから、なんとなくあたりをつけているだけだけどさ。大方合ってるはずだ。

 私がそう言うとそいつがハイハイしてきた。

 青年レベルの上裸男がハイハイで近づくって、随分な恐怖体験だと思う。

 けど、幸いと言うか何というか、案の定感情はストップがかかった。そうじゃなけりゃ割とトラウマになりかねない絵面だったな。

 そして徐ろに私の片手を掴んで話しかけてくる。

「村人!ここ、部屋?」

 ???

 わけわかめ。

 誰か理解力というものを私に分けてくれ、いや、ください。

 はぁ、ド◯ゴンボール的な感じで元気とかと同じようにこの力を分けてもらえたらどんなに有難いだろうか。

 私が混乱してフリーズしてる間に、命の恩人は何か気づいたみたいでハッとなって私の下半身を見る。

「痛い、してる?」

 そう片言で言うと、あの不思議な感覚が私に襲ってくる。暴走した直後に私の傷を治してくれた時の感覚だ。傷の程度が弱いからか、記憶より小さい力が体の中を通る。

「おい、やめろ!」

 カホがなんか鬼気迫る感じで私と命の恩人の間に入り込んで繋いでいた手を払いのける。

 でもその時には治療は完了していた。

「治す、した」

 カホの制止で払われた手を気にも留めず、傷跡だらけの青年は屈託無く笑った。ちょっと自慢気で、子供っぽいその表情は何処となく可愛げがある。

 お腹のところがちょっと熱くなった。

 あ、これこの前にも感じたな。

「ありがとう」

 私は素直に感謝の言葉を送る。

 命の恩人さんはニコニコしながら、無邪気にうんうんと頷いてくる。

 そんな嬉しいのか?て、あれ、てことはこいつ別の血と混ざってんのかな。まあどうでもいいか。

 それより……。

 いやー、うん。これ、ヤバイわな。

 何でかっていうとさっきまでの痛みは嘘みたいに消えているんだ。

 病院とかそんなの全然要らないじゃん。確かに黒族が殺すの惜しんだり、城の奥で匿ったりする理由はわかるな。

 これなら何かあった時、命の恩人さんに頼んだら良さそうだ。

「こいつはそんな安全じゃねぇよ」

 カホが私の楽観的思考を読み取って否定する。

「え、なんで?」

「…………」

 私の投げかけには答えず、何とも言えない顔をするカホ。

 うーん。

 どうもカホはこの命の恩人さんには複雑な感情を抱いているらしいことが分かるんだけど、何が原因なのかとかは不明だ。

 しかも、この一見無害そうな命の恩人に対してかなりの警戒をしている。それは、ついさっき会ったばかりの得体の知れない包帯男と同等かそれ以上だ。

 どんな理由であれカホは、この件の合意を渋っていた。この件ってのは、もちろん、命の恩人をこの旅に連れてくることだ。想像以上にカホが頑なに嫌がるからビックリした。あの祠での話し合いが、そのおかげで1時間くらい進まなかった。

 まあ、私もただでさえお荷物なのに、更に明らか外出慣れして無い人間抱え込むのは嫌だよな、ということは分かる。

 でもこれは一種の私の意地だったし、結局は突き通してしまった。

 ま、簡単に作戦を紹介する。まず私らが曲者がいる説を流すんだけど、この包帯男の待ち合わせとは間逆の所に来るらしいとガセを言うわけ。で、その間に盗聴してた人もそっちの警備に行ってて、私らは安全のために間逆の場所に行っておきますって大義名分を言って門の外に出る。包帯男と合流後、包帯男に命の恩人さんを助けてくれって頼み込む感じだ。

 The 人頼み。

 見て分かる通りビックリするぐらい作戦じゃない。

 でも結局包帯男の鮮やかな手口で、無事ここに至ってんだけどさ。こう思い返すとなんやかんや包帯男利用しまくってて申し訳ないな。

 割とさっきぞんざいに扱ってたし、気をつけよう。まあこいつ、煩くなければいいんだろうな。でも逆に煩くなかったら不信感ハンパないかもしれん。

「特に何も言わんとこいつ連れてきたけど、今どき神聖語教えるやつとかおったんやなー。何百年前の話やろ、やり方古風やんな」

 一応ずっと黙って様子を伺っていたらしい、うるさい奴が口を開いた。

 同じ様に恩があっても若干鬱陶しく感じて眉を寄せるけど、気になるワードがある。

「神聖語?」

「神聖語ゆうんはな、昔は神さんたちにあげる生贄用の言葉やってん。始まりは世俗の口は汚いって認識からなんやけど、神さんと話す予定の者とは話させないようにするって目的やってんか。でもその性質に旨味を感じた奴らがな、段々と趣旨を変えてきよってな……」

「?」

「俺たちが普段話す言葉が通じない、知らない知的な生物って、何かと便利やと思わへんか?」

「えっ…………」

 ざわっとした。

 肌が粟立つ感じってこうかと自覚する。

 包帯男の調子がどこか冷めててリアルだったからだろうか。目の前にその犠牲者が居るからだろうか。

「賢い奴らは思ったんや。こういうのんは、奴隷に向いとるってな」

「…………」

 何も反応出来ない。

 反応し忘れるってのが妥当かな。

 何というか、無神論者的な立場の私から言わせてもらうと、敬ってるはずの神様を馬鹿にし過ぎじゃなかろうかと思える。

 だって、生贄までは理解できるけどさ、そっから一気に奴隷ってさ。普通に罰当たり感しかないような。

 でも正直あんまそれ自体に感情移入とかしない。思いっきり他人事だからか。まあ、歴史の授業習ってる気分だな。

「もともと生贄は下仕事させてから捧げててん。神様の元に行くのに、何も出来んかったら邪魔やからーてことでな」

「なるほど」

 それは何となく分かるかもしれない。そういう考えがあっても不思議じゃ無い。日本人的な考えかな。

「でもそっから、仕事をやらせて上げとる言う認識になってな。何をやらせても、どういう仕打ちをしてもこんな感じで、奴隷君のためやからしょうがないとか言う正当性を主張しだしてん。最初にこんな頭腐った事言い出したんが樹葉族やし、言い出しっぺは長続きするもんなんかもなー」

 へー。

 なんか、いじめとか暴力関係のする側の立場を想像あんましてこなかったけど、こんな感じで罪悪感的なの拭ってたのかな。

 今までのいじめに関係していたクラスメイトを思い返してみる。

 まあ、分かんないや。分かりたくもないし、別にいいや。

 でも思い返してみて一番の不思議があることに気づいた。

 私の変化だ。

 今まで、すぐ隣でクラスメイトがいじめにあってて、暴力受けててもザマァみろとかまで考えていた。助けるどころか愉しんで見物してた。

 何で今回は命の恩人を助けたんだろうか。

 渋るカホを1時間かけて説得するだけの気持ちが何で出てきたんだ。

 確かに怪我を治してくれたとかいう最大のポイントがあるし、その恩に報いたい気持ちが無い訳じゃない。でも今の私はそういうの無しでも、もしかしたら助けてたかもしれない。

 それくらい譲れない感情が湧いてきていた。あの地下室みたいなとこで最初にこの命の恩人の状態を見て、汚いとかそういうの以前にこの子を連れ出したいと漠然と考えていた気がする。

 それなら、この子じゃなくても今の私ならこんな扱いされてる人間を見たら同じ感情が湧くんじゃ無いだろうか。

「まあ、ええわ。俺、樹葉族嫌いやし」

 包帯男は冷めた声でそう言うと、馬に乗る準備をする。

 なら、何で言うこと聞いてくれたんだろう。

 私が包帯男に頼み込んだら、この男は軽く「ええで」って一言言うと数分で青年を救い出してきた。早業すぎて声を失ったわけだけど、てか突っ込めずに来たけど、こいつが如何に凄い奴かってのはわかった。

 てなわけで、私の行動も謎だけど、この包帯男の行動こそ不明すぎる。

「ところでこれからどうするん?とりあえず陽が落ちてから外移動のがええやろし、今休むか通路の先で休むかした方がええやろうと思うねんけど」

「分かった」

 一番心配だった命の恩人を見る。ニッコリ笑いかけてくる。

 何でこんな親しそうなのか分かんねぇけど、まあ元気そうだな。

「まだ平気そうだし、通路の先で睡眠をとろう」

 私は迷わず返答した。

 なるべく進めるとこまで進んどくほうが良いだろう。休むならキリがいいところで休めばいい。カホや命の恩人だって今のところ元気だしな。

「…………」

 包帯男は微妙な顔をして見つめてくる。

 ……あれ、無言かよ。もしかしてこいつ、偉そうに言ってたけど疲れてんのかな。

「何だよ、今が良いのか?」

「いや、お前のそれって天然なんやとしたらカホは大変そうやなて思っただけや」

「は?それってどれのことだよ」

「まー、言うてもわからへんやろ」

 そう言うとそっぽ向いて音も無く馬に乗った。

 意味わからんな。何か変なこと言って気が変わられても面倒くさいし深追いはしないでおこう。

「カヨ、お前が一番疲れてるのにって話じゃねぇか?確かにお前さっきまで下半身痺れてたけど、こんなすぐ出発して大丈夫か?」

 カホが心配そうに覗き込んでくる。

 あぁ、私が一番お荷物なのに勝手に返答したから天然とか言われたんかな。

 ……うん、そう考えるとちょっと恥ずかしくなってきた。

 確かにあの包帯男からの発言に返答するのはカホが妥当だったよな。

「んー、いや、ちょっとズレてる気がするけどよ」

 カホは私の思考を読み取って困った顔をした。

「違いが微妙過ぎて説明しづれぇな……なんつぅか……うーん」

 そう独り言つぶやきながら悩みだす。

「カホ、水くれへん?喉乾いた」

「ん?あぁ、ほらよ」

 包帯男は私たちの近くまで馬で寄ってくると見下ろしながら言ってきた。腰についてた水筒を手に取ると包帯男に放った。

 恥ずかしい気持ちもちょい落ち着いてきたのもあって、どうやって飲むんだ?とかいう素朴な疑問が浮かんだ。興味津々に包帯男を見つめる。

 私が見守る中、包帯男は水筒の口を開けると……

 パシャッ

 盛大に口当たりの布にぶっ掛けた。

「「えっ」」

 私やカホから思わず声が漏れるけど、その後誰も口を開かない。シーンと静まり返った。

「…………」

 包帯男は黙ったまま水筒の口を閉めて徐ろに顔の布を解く。

 包帯男の隠されてた顔が露わになった。

 目元とか布越しに見える大体の形を見た時点で思ってたけど、だいぶ彫りが深い顔立ちだ。ハーフとかそう言う感じ。色黒だけどかけ離れすぎない範囲の日本人。服装とかの所為で外国人ぽいけどな。まあ、一言で言っちゃえばイケメンカテゴリーに入るのかもしれない。

 私達が見つめる中、顔の露わになった元包帯男は口を開く。

「……ふふっ、や、今のは、無いな」

 半笑の自嘲気味な顔だ。

「いやー、てか、え、誰かツッコミしてや!俺を救ってや!何やめっちゃくちゃ恥ずかしいやん?!」

「いや、ツッコミも何も……そうして飲むのかと思った」

 カホが真面目な顔で返事する。

「アホっ!そんな訳ないやろ。あかんで、もっとキレッキレのツッコミ入れてくれんと。こういう時ケイスケは入れてくれとってんで?」

 ケイスケて誰だよ。知らねーよ。

 私のそんな心の中のツッコミは、カホにしか聞こえない。

「例えばどんなツッコミが欲しかったんだよ」

 あ、カホ、今の件でちょっとこの包帯男に対する心の距離が近づいたのかも知れん。苦笑しながら聞き返してる。

 それに気づくと若干モヤっとしたものが浮かびかけてストップした。

 んー、ストップしたってことは何かの感情か?

「例えばやな、飲み水で洗濯はあかんで、とかな。ミイラに水かけたらこうなんねんな、とかや」

「みいら?」

「お前な、ミイラも知らへんのか?あかんで、ホンマ。ツッコミのレパートリー増やさな」

「え、れぱ……?」

 私が自分の感情を悶々と考えてる間も男2人は何か話を進めている。

 まあだいたいは元包帯男が一方的に話してるだけなんだけどさ。

「何でお前、そんなこっち側の世界の言葉知ってんの?」

 ずっと聴きたかったことをまず1つ聞いてみた。

 すると包帯男はニヤッとムカつく笑顔を向ける。

「まあ、色々あんねんて。一から話すには長いし、ここで話す内容でもないやん?」

「あ、そ。ならいいや」

 私は言いながら立ち上がるとカホの馬のところに向かった。

「冷たっ!もっと引っ張ってや」

「うるせ」

 私は思ったままを口にする。

 なんか、そう。アレだ。こいつとはソリが合わないって奴だ。確かに感謝してるけど、合う合わないで言うと合わない奴なんだろうな。

「まあまあ、俺も気になってっから、落ち着いたらでいいし話してくんねぇか?カヨも助けてくれてる奴をそんな邪険にすんなよ」

 カホが私と元包帯男の間に立つ。

「カホ、何であんな奴かまうんだよ」

「カホ、何であんな奴かまうんや」

 見事にハモった。

 私は盛大に舌打ちする。

「聞いた?今、あいつ舌打ちしてんで」

 元包帯男はまるで先生に仲間の悪事を言い付けるクソガキの様にカホに言い寄る。

「まあ、あいつも気が立ってるだけだから、気にすんなって」

「せやけど、あいつ仲良くする気ないやんな。さすがに俺も悲しむで、感情ないけど」

 わざとらしく元包帯男がため息をついてくる。

 イラッとくるな。

「だいたい、名前も名乗らない様な奴とどうやって仲良くなれっつうんだよ」

「え、言うとらんかった?」

 元包帯男はキョトンとした顔になる。

 いやいやいや、お前な、カホから聞いたぞ。カホが名前聞いたら断ったんだろ。

「あぁ、忍び込んだ城で名乗る訳ないやん?そう言えばそっから言うとらんかったなー。ごめんごめん、そんな溜める程のもんでもないで」

 元包帯男はペラペラと聞いてもないのに陽気に話すと馬上でキメ顔をする。

「俺の名前は、アオツキや」

 なんでキメ顔したんだよ、うぜぇ。

 私は聞かなかったことにして、さっさとカホの馬に乗った。あ、因みに馬の乗り方はカホに教えてもらって多少できる様になった。

 そんなこんなで主に私とアオツキの仲は芳しくない状態で旅路は進むのだった。

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