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現実逃避してたら異世界に連行されたようです  作者: wine
第三章 異世界で闇を視ました
35/44

水滸族の聖域にて

「で?どこに行くの?」


 私は後ろにいるカホに尋ねた。


 2人して馬にまたがってるわけだけど、気の所為か、今朝のヒスイとの距離より若干遠い。まず、腰に手を回されていない。後ろから両脇を通って前の手綱を取ってる訳だから私は落ちる心配がないけど、背中にかすりもしないくらいの配置だ。まあ、これはこれで良いんだけどさ。


 で、だ。私たちは城を出て3分もしないくらいの位置にいる。私は地理もわからないから黙って連れられていくしかないわけだけど、何となく訊いてみた。


 カホは片手を手綱から離して頭あたりを掻く音を出しながら口を開く。


 その間支えがなくなるから、落ちないように細心の注意を払って馬の動きに合わせる。


「んー。せっかくだし、祠行こうか」

「祠?」


 祠と言えば、神社的なものだろうか?


 この世界の宗教に特に関わりたいわけじゃないんだけどな。


 正味神とかどうでもいいし。死んだ後の世界とか、あるだけ面倒くさい。私をあんな境遇に放り込ませた神とか、どうせ苦しみしか用意してないだろとかいう諦めもあったりする。天国行けるほど善行積んでるわけないしな。そんなもん信じた所で大した価値はない、と思う。


 と、ポンと頭に手を置かれた。ゆっくりと撫でられるうちに心がまた落ち着いてくる。


「俺も大して信じちゃいねぇよ。血が違うのに能力授ける間抜けな神とか、会えても恨み言しか出てこねぇよ」

「そう言えば、能力って生まれた時からあるもんなの?」

「まあな」


 てことは、水の能力持ちなら大概は水の顕現するって思うわけで。そうやって育ってきたのに、ある日蓋を開ければ火の顕現……。多分、とんだドンデン返しが繰り広げられたことだろう。なんと言うか、思わせぶり過ぎる。神の気まぐれとかふざけた言葉で片付けるには割とキツイ内容だな。


「…………それは、うん。なんと言うか、私も会ったら恨み言一緒に言ってあげるよ」

「あはは。おう、よろしくな」


 カホは冗談と受け取ったのか、乾いた声で笑って答えた。


 うん、8割本気だ。

 なんだかんだ1回自称神に会った訳だし、次会ったら恨み言言ってやろう。あの時は特に何も言えなかったしな。


「…………お前、神に会った事あんのか?」


 カホが超絶疑いをこめて声をかけてくる。


「うーん、会ったというか、なんと言うか」


 私があまり煮え切らない答えをするのに対して、カホは割と真剣に受け取ったらしい。


「何の神に会った?というか、いつ?」

「暴走してる最中に……何の神かとか知らないんだけど、神って何人かいる感じ?」

「伝説だと部族ごとに神がいるから、7体だ」


 ああ、そう言えばそれ聞いたな。能力の話聞いてる時にまとめて言われてたっけ。宗教は頭から抜け落ちてた。


「困ったな……」


 カホがポツリとそう言うので、ちょっと不安になる。


「何か問題あんの?」

「お前の会った神次第じゃ、祠に入れねぇんだ。あそこ、一応神聖な場らしいからな。水滸の神様と仲の悪い神に会ってたら拒否され兼ねねぇ」

「あ、そうなんだ。まあ、祠じゃ無くても良いっしょ」


 私は割と楽観的に答えた。


 だって、場所はどこでも良いわけだし。最悪祠に入れなくても支障は無いはず。


「俺でも入れてるし、多分大丈夫だけどな。祠を選んだのは、完全に2人きりになれるからなんだ」


 カホが声を潜めて耳元にそう囁いてきた。

 耳に軽く息がかかって、一瞬緊張する。昼間のヒスイ以上にドキリとした。

もちろん、分かっている。


 これは勿論ホテルに連れ込むナンパ野郎的な話ではなくて、どういう原理か知らないけど盗聴してる奴から逃れられる的な含みだ。そして声を潜めて耳元で話しかけたのも、その得体の知れない奴から聞かれないため。それ以上でも以下でもない。一瞬頭をよぎった邪な妄想の様な内容では決して無い。


 わかってる。

 だから、心臓よ止まれ。(この際死ぬとかどうでもいいから)


 でも私の祈りとは真逆に、心臓の早鐘は止まるところを知らないように鳴り続ける。顔が熱くなったので取り敢えず両手を頬に当てて冷ませようとする。

 けど、まあ、暑い。


「大丈夫か?」


 カホが若干心配そうな声音で聞いてくる。今度は声が耳元じゃないおかげで何とか平静を取り戻す。


「あ、お、うん。大丈夫、ちょっと、暑くて」

「暑いのか?俺、相性悪いから感情はあっても氷の術全く使えねぇんだよな。使えたら気温下げれるんだけど……扇子でも持ってくりゃ良かったな」


 カホが親身に受け答えしてくれるのは、素直に有難い。


 有難いけど、そんな真面目に受け取らないでくれ!いや、ください!ほんと、自分が恥ずかしい。多分原因は気温じゃないし。


 取り敢えず、深呼吸。


 はあ、つら。

 なんなんこれ。


 何だよ、私は自分が思ってる以上に初心なんか?この浮き足立つ感じ、凄く嫌だ。私らしくない。つか今までこんなことなかった。


 で、ごちゃごちゃ無駄なこと考えてる間に湖の畔に着いた。カホが馬を止めたのでこの辺が祠なのか?と思いながら見回す。


 湖は、綺麗だ。


 確かに神聖っぽい幻想的な雰囲気がある。湖の大きさは大体直径50m前後だろうな。周りは木に覆われてて、ポカリと澄んだ水が溜まってる感じ。


 でも、それだけ。

 私の思い描いていたような祠は無い。


 私はカホを振り返るけど、カホはサッサと馬から降りていた。


「ここは、水滸の神様が眠っているとされてるんだ。水滸の神様は煩いのが嫌いだ。だから、静かに囁かないといけない」


 カホは声を小さく絞って口に人差し指を当てた。


 まあ、宗教とかその辺信じてなくても、踏みにじるような真似は慎みたい。


 だから、カホの言葉にそっと頷いてみせる。


 それを見たカホは微笑すると手を差し伸べて私が降りるのを助けてくれた。

湖の畔に馬1頭と2人の人間が立つ。それ以外が全くない。


 気づかなかったけど、虫の音さえもしない。だから、一種異様な雰囲気だ。


「じゃ、ちょっと行ってくる。この辺にいとけよ」


 カホは乗ってきた馬を撫でながら話しかける。誰に話しかけてるのかと思ったけど、多分馬だ。馬は理解したかのように首を縦に振って湖からちょっと離れた森に歩いて行き、私たちを振り返って待機する素振りを見せる。


「賢いんだな」


 私は感心して呟いた。

 馬ってこんな賢いのか?お伽話とかでは確かに賢い馬は多かったけど、現実で見るのは初めてだ。


「まあな、良い品種の馬だし、調教も行き届いてるから」


 カホは若干誇らしげに言うと、さて、みたいな感じで湖の方を振り返った。


「ちょっと我慢しろよ」


 カホはボソッと私を見て言った。


 何を?

 と私が聞く前にカホは目を赤くさせて、抱き寄せると、相変わらずメルヘンの欠片もない俵担ぎをする。


「え、ちょ、え?!」


 私は声を張り上げないまでも、戸惑いの声を上げた。


 だって、カホは私を担ぐと同時に湖の真ん中に向かってジャンプしたのだ。


 私は当然くるだろう結末、じゃぼんと水に入る感覚を覚悟して目を閉じる。

けど、私にきた衝撃は水に浸かるものじゃなく、普通に地面に着地するそれだった。


 思わず閉じていた目をゆっくりと開けてみる。

 と、目の前には湖の畔。


 いや、なんと言うか、アレだ。景色自体はちょっと違う。対岸に来たのかと一瞬思ったけど、対岸にしてはそんなに向こう岸との距離は遠くない。


「ここは?」


 私は半分ポカンとしながらカホに降ろされる。


 私を降ろすとカホは数歩分距離をとって顎で視線を促した。


「マジか」


 思わず口を突いて出た言葉は乙女チックな「わぁ!」みたいなもんじゃなかった。

 促されるまま、目を向けると発光してキラキラ光る巨大な樹が生えていた。


 うん、同情して欲しい。だってこんなメルヘンなファンタジーが純和風の世界に有るとは思いもよらなかった。私はこの不思議な巨木を見上げて息を飲む。


「ここが、祠な。拒否されなかったところを見るに、お前が会った神は水滸の神様と仲の良い神みたいだな。それか、偽物」

「まあ、神様っぽくなかったし偽物説は濃厚ですね」


 木に見惚れつつ答えると、カホはクスクスと笑いだした。


「なに?」


 何か笑うツボあっただろうか、カホの方を見る。目の前で咲く笑顔は何処となく可愛げがある。木に照らされて、もっとキラキラ発光してるようにも映る。


 少し眩しくて目を細めた。


「別に、何もねぇよ。行こうぜ」


 カホは笑顔のまま、巨木の根元に向かって先に歩いて行った。


 巨木の根っこはデカイ。一つの根っこが私とカホが手をつないで輪を作った物よりデカイ。そんな太い根がうねるように何本もあって、その根と根の間に私たちは座った。


 カホが持ってきてくれた風呂敷のようなものを敷いて、その上に座る。余談だけど、風呂敷とか準備するあたり、マメだよな。おかげでお尻が濡れずに済んだから感謝しかない。


 でも、腰を下ろしてみると対岸との距離が気になった。割と近いのだ。


 きっと私の部屋で盗聴してたくらいの地獄耳だろうし、このくらいの距離は余裕そうだ。というか、こっちの岸まで来ちゃえば相変わらず盗聴されるだろう。


 私の考えを読み取って、カホは私の隣に腰を下ろしながら言う。


「水滸の神様は、静かなのが好きって言ったろ。この祠は同時に入ってきた人間や動物以外の他の音を遮断させるんだ。元々は水滸の神様が安心して眠れるようになんだけどな、便利だろ」

「へー」


 なかなか凝った祠だな。それにしても……


「水滸の神様の性格ってどんな感じなんだ?」


 聞いてる限りじゃ癇癪持ちっぽく受け取れる。この徹底ぶりは音を全部遮断してしまわなきゃ祟りそうな感じだ。うるさくする以外にも何か他にタブーが有るかもしれん。


「伝説だと、悲劇の神様って感じで教えられたな。何か、罠に嵌められて、何故か音のない世界に閉じこもったらしい。俺授業で寝てたしよく分かんねぇけど」


 あっす。


 割と適当な説明だな。もっとちゃんとした言い回しなかったのかよ。

 取り敢えず、罰当たりなことを平気で祠の中で言うあたり、そんな作法とか気を使わなくて済むのかもしれないということは分かった。


「ま、いいや。神様より私は私のことで手一杯だわ」

「だな」


 カホも声のトーンを落として真剣な表情になった。


「まず、カホの嘘は時間的にどの位でバレるんだ?」

「……里に能力者が着き次第だから、具体的に時間とかは分からねぇけど、近日中に十中八九嘘はバレる。俺が嘘を言った瞬間のアイツらかなり胡散臭そうにしてたからな」

「何で?」


 一応命の恩人も木の一族の人間だし、暴走したとしてそこまで可笑しなことだろうか?


「お前の暴走とアレの暴走は規模が全く違った。良くも悪くもお前の力は桁違いの威力だった」

「……ごめんなさい」


 何となく謝る。不用意な私の失敗のせいで多大な迷惑をかけてしまった。


「そこは、まあ、しょうがねぇよ。なっちまったわけだし」

カホは困り顔で苦笑した。

「で、アレから嘘が漏れることもありうるけど、俺やお前からも簡単に漏れる。大体の読心の能力者は俺より確実に強いからな」


 お、おう。


 なるほど、じゃあ能力者が来たらその時点でアウトなわけね。


 さて、どうしたもんかな。

 私が沈思している間、カホは黙って私の顔を見つめている。何かついてるかな、と若干ソワソワしてしまうけど、取り敢えず無視する。


 考えうる方法としては、3つ。


 1つ目、嘘ってことをこちらからバラしてヒスイを助けるのに全面協力の姿勢を示す。

 まあ、潔さとかを汲んでくれないかなーとかいう下心付きだ。


 …………はい。

 うん、分かってる。ちょい無理がある。ただ、案は案だ。考えうるものは列挙するに限る。


 2つ目、嘘が公然とばれないようにする。具体的には、読心の能力者を脅すなり弱みを握るなりして、手を組むor私やカホ、命の恩人に近づけさせない。


「申し訳無いけどな、さっき言ったけど弱み以前に、俺は里にいる読心の能力者の中で一番下っ端だからな当然持ってる情報量とか雀の涙程度だからな」


 だ、そうだ。まあなんとなくわかってた。自称下っ端のカホでこの強さ(山の一件で判断するところの強さ)だ。てことは、私のようなゴミ屑には早々弱みなんか握れないだろね。しかも、これには偶然の要素、即ち運やそういうのを発見できるだけの準備時間とかが必要だ。私に残された時間は限りなく少ない。

 うん、却下で。


 3つ目、一番現実味があるやつを持ってきた。ここから逃走する、ってやつ。ただ、一時的にしても色々とカホとかヒスイ達を裏切る形になる。


 私は心の中で出た3つの案をごちゃごちゃコネまわしながらカホを見た。


「1つ目の案は、無理だな。ヒスイが封印されてる時点でかなり厳しい。確かに読心の能力者によってヒスイがお前のことどう思っているか分かるだろうけど、ヒスイが話せない以上どうにも覆せないと思う」


 カホがゆっくりと言葉を選びながら話す。


「2つ目の案は、一番可能性が低い。戦争時にそんなものを味方であってもひけらかすわけがないから、それだけ弱点とかはこの里でも敏感な話題だ」

「ですよねー」


 私は納得しながら相槌を打つ。


「ということは、ラスト案になる……けど、この点どうお考えでしょうか?」

「らすと?まあ、お前の思ってた通り、3つ目が現実味のある案だと俺も思う。ただ……」

「逃走したら追ってとかくる感じだよね?んでもって、一度里を離れちゃってるわけだからヒスイが復活してもこの里に戻れるか怪しい」


 私が後を引き継いで言った内容に、間違いはなかったようで、カホは何か言おうと開いていた口を閉じてコクリと頷いた。


「一度里から離れたら何があっても帰れないのかな」


 私はそっと尋ねると、カホは難しい顔になった。腕組みをして、うーんと唸る。


「まあ、俺の母親もなんだかんだ帰ってこれてたし、連れ去られた体で行けば良いのかもしれねぇな」


 カホの言い方に若干の違和感を抱いたけど、今はそんなことどうでもいい。


 私はポンと手を叩いた。あ、この場のルールとして、なるべく音は立てないように気をつけた。


「それ良いね。確かに、それならすんなりいきそうだ。問題は誰に連れ去られた体で行くかだね。妥当なのは、濡れ衣だけど白族かな?」


 一筋見えた希望の光に少しだけ声を弾ませた。でも、カホは真剣な顔で黙りこくったままだ。


「…………カホ?」


 カホの顔を覗き込んでみる。まあ、覗き込まなくても明るいから表情自体は分かるんだけど。


「実は、お前が寝てる間によ、変なヤツが来たんだ」

「変なヤツ?」


 私はカホを見つつも首を傾げてみせた。

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