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現実逃避してたら異世界に連行されたようです  作者: wine
第三章 異世界で闇を視ました
33/44

目覚めと居心地

 ここどこだろ。

 夢にしては結構リアルな、それでいて浮ついたフワフワした感覚。


 何となく微睡みながらその感触を確かめてみる。ああ、そういや今って寝てるんだったな、これって夢か。


 確か、カホに寝かしつけられて……なるほど、このフワフワは布団か。やっぱこの世界の布団って気持ち良いよ、高級だ。私の今まで寝てた布団とか、布団というより薄い毛布的なやつだし。アレはアレでお気に入りだったんだけど、これには遠く及ばないな。


 む?あれ、でも掛け布団かなんかを抱き枕にしてんのかな。抱きしめて頬を寄せてるんだけど、他とちょっと違う。滑らかなシーツじゃなくて、ちょっとゴワついてて硬めだけど、あったかくて安心する感触。そして焚き火のような芳ばしい香り。


 ただ、ずっとくっついてるせいか若干触れてる部分が暑くて汗かいてる。暑がりなのがここに来て恨めしく思える。


 離したくない。だってこの抱き枕、腕を外したらどっかに行っちゃうんじゃないかって思える。こんな抱き心地のいい抱き枕が無くなるの、いやだ。


 そうボンヤリ思うと余計に離したくなくて腕に力を込める。


「……いてぇ」


 掠れた小さな声が落とされるのと、頭をふわりと撫でられるのが同時だった。


「ここに居るから、大丈夫」


 この声、カホ?


 そっか。コレ、カホだったんだ……。道理で焚き火の匂いがすると思った。

てか、あ、ごめんごめん、力入れすぎると痛いな。


 バラバラとした思考のままで腕の力を抜く。大きくて暖かな手は、ゆっくりと髪の感触を確かめるように私の頭を撫でつける。


 心地いい。


 またふわふわと意識が遠のいていこうとする。


 …………。


 …………て、おい。ちょい待ち。

 これ、カホ……って。んんん?


 ゆっくりと目を開けて、自分が今抱きついているものを見つめる。瞼が重たい。何度も開けては閉じてを繰り返す。次第に焦点が合い始める。


 黒い布だ。


 これは、もう一度状況整理が必要だな。


 で、改めて確かめる人の感触と体温。


 あー、うん。これ、人だよな。暑いわけだ。暑がりには他人の体温ってきついよね。そっち系あんま知らんけどさ。


 …………じゃなくて。


 トロトロとした思考が徐々に回りだす。空中に浮いているかのような感覚が重力に縛られて地面に落ちてく様に、徐々に自分が覚醒していくのがわかる。同時に頭が氷点下並みに冷めていく。


 え。

 いや、え。


 おうぇえ?


 私、何してんのこれ。


 もしかして抱きついてる?抱きついてた?この手をまわしてる感じ、私が抱きついてるんだよね?!

 マジかよ。カホに今、抱きついて……?!


「やべ、起こしたか?」


 カホのやっちまった、みたいな心の声のこもった焦った声が頭上から降ってくる。頭を撫でてた手が止まる。


 ロボットの様に身体が硬直する。


 とりあえず首だけ回して上を見上げる。筋肉がギシギシする。


 外がまだ暗いせいか、月明かりでカホの輪郭だけ見える。どんな顔してるのかは影になってて分からない。

 まだ状況が掴めないうちから心臓が徐々に強く鼓動を打ち出している。


 私はなるべく平静を装って、カラカラに乾いた唇を舐めた。


「……おはよう」

「ごめん、起こすつもりじゃなかった。まだ寝とけよ」


 カホが手をどけて申し訳なさそうに声をかけてくる。


「……もしかして、ずっとこうしてた?」

「いや、……まあ。割と序盤からこんな感じだったけど。でもそんな時間経ってねぇし」


 私はギクシャクと関節が軋むのを感じながらカホの腰から腕を外して起き上がった。


 身体が怠くて重たい。重力が倍くらいに感じる。それでも反省の意を表して正座した。


「お前な、まだ寝とけってば。身体の疲れは回復してねぇんだから、無理すんじゃ……」

「ごめん」


 カホの気遣わしげな言葉を遮って謝罪する。

 火が出るのかってくらいに顔が熱い。


 やばいよな。なにしてんだ私。もう、はあ?て感じ。マジで愚か者。だってこれ、すごく気持ち悪い奴じゃないか。いくらこいつがプレイボーイっつっても、いやプレイボーイだからこそ(私が勝手に決め付けてるわけだけども、それは置いといて)気の無い女にこんな感じに抱きつかれるとか面倒以外の何でもないし。


 しかもずっと同じ姿勢でいてくれてたんだろうし、昨日もカホ見張りしてて寝てないのに。


 ほんと何してんの私?


 キスされたからって調子に乗ったんか?寝てたから管轄外とか言い逃れ出来そうだけど、潜在意識的なやつかもしれん。ちょっと調子に乗ってたのかもしれない。いや、そんな気がする。


 いや、ほんとゴミクズですわ。


「お前な、そんな感じで自分卑下するの、やめろよ」


 呆れ声と諭すような言葉だ。


 また気付かないうちに下を見てた。チラッと上目遣いにカホを見る。


「俺はどうせ部屋の外に座ってるか、ここに座ってるかの違いだけだし迷惑じゃねぇよ。あと、気持ち悪いとか思ってねえし、寧ろあったかくて丁度良かった」

「…………」


 うん。

 それはそれで照れるんだよな。


 私は何となく気恥ずかしくて膝の上の拳を見つめる。


 頭にそろそろ覚えてしまったカホの柔らかな感触が乗る。ゆっくりと撫でつけられてるうちに、ちょっと心が落ち着いてきた。なんなんだろな、この妙な安心感は。


 そっとカホを見ると、丁度襖の隙間を抜けてきた光が照らしている。優しい目つきで、そっと微笑むその顔は、何故かとても悲しそうだ。


「お前って、かわいいよな」


 頭を優しく撫でながら、ぽつりとカホが言う。


 一回だけ私の中の内臓が跳ねた。


 ……でも。

 初めて容姿について言われたその褒め言葉は、お世辞だと分かるくらいに空っぽに聞こえた。


「それ、無理に言わなくていい。どうせ私を安心させるために言ってるんだろうけど、見え透いたお世辞は余計に傷つく」


 何となくガッカリしてる自分が嫌になる。気持ち口を尖らせながら、そう強がりを吐いた。


「……ごめん。俺そんな嘘分かりやすいのか?」

「かなり分かりやすい」

「お、おう。ごめん」


 カホは遠慮がちに私の頭を撫でていた手を引っ込めて謝る。うん、手が退けられた時にポツっと発生する何処と無く残念な気持ちにも慣れてきたな。私ってそんな人恋しがるキャラだっけか?

 てか、結構はっきりと嘘って言ってきやがったなコイツ。


 まあ、いいんだけどさ。もうちょっとこう……いや、いいんだけどさ。


 …………。

 嫌な沈黙。


 襖の向こうからリンリンと鈴虫みたいな音が聞こえてくる。


 この風流なBGMのみの沈黙を破ったのはカホだった。


「カヨ、寝とけよ。まだほんの一時しか寝てねぇじゃんか。こんな睡眠じゃ疲れは取れねぇよ」


 まだ2時間しか寝てないのか、それにしては案外眠くない。


 カホは自分の事のように心配そうな表情だ。こんな顔されると何か悪い気がするんだけど、眠くないんだよね……。


 あ、そう言えばまだ人の表情が分かる。不信の感情が正常に(って言ってもいいのか分からんけど)戻ってないってことなんかな?また寝て、起きて回復したらあの見え方になるのか。


 なんだかなぁ。

 望んで手に入れた感情だけど、またあの状態になるのはなんとなく嫌だ。本来の私の感情の一つだし、確かに必要な感情だけど、あんな見え方はやっぱなんか変だと思う。


「カホ、木の一族の血、飲まなかったことになんないかな」


 カホは困り顔になって腕を組んで首をかしげる。


「俺は噂でしか知らないけど……できないことはないらしい」

「どうすんの?」

「除血師に頼むんだ」


 …………?

 何だその使い道マイナーそうな役職は。


「ただ、除血師は一世に一人だけらしくてその上行方知れずで、会える可能性は限りなく低い。しかも除血師にも除くことが出来る血は限られているらしいんだ」

「要は伝説的で不確かな奴ってことね」

「そうだな」


 実際、救世の主くらいにしか使い道なさそうだしなぁ。そんなの通常時いても……ん?


 ここでカホとバッチリ目が合う。


 いや、そうか。

 要ると言えば要るのか。カホみたいな忌み子認定される人には失くしたい血があるかも知れん。


 カホは私の思考を読み取って苦笑いする。


「そう。それで俺、かなり調べたんだけどよ、その血が濃い時点で除血師には失くせないらしい。顕現出来ない感情の中でしか除血出来ないって噂だ。噂だし、顕現出来る血しか除けないとかいう逆もあるけど、前者の方がそれらしいよな。俺が探し出したのは顕現してしまってからだから、後の祭りだよな」


 そこでカホが軽く肩を竦めて、ちょっと茶化した様な戯けた表情をとる。表情としては割と可愛げがあって面白い。若干大きいキョロっとした目がぱっちり見開かれて小動物ぽさを醸し出す。


 けど私は、笑えなかった。きっと、自分が忌み子だと分かって、カホは必死で火炎族の血を除く方法を探したんだ。それでも残された可能性すらダメなんだと見切りをつけるときの気持ちは酷く辛かったはずだ。


 カホは私が笑わないのを見てスッと通常時の表情に戻った。そして首を傾げて微笑んだ。


「お前見てると、火の一族を嫌いになれねえよな」


 ん?どういうこと?


 呟く言葉の意図が分からずに私が目をパチパチさせるのを見て、カホはクスッと笑顔になる。


 そんで抱き寄せられた。

 私の顔はカホの首の根辺りに押し付けられる。若干相手の肌が当たって、ゾクッと胸騒ぎが起こる。それでも跳ね除けられない居心地の良さ。


 この、私の中でせめぎ合うような安心感とざわつく感じのミックスは何なんだろうなー。


「ごめん、俺お前と一緒に居たい。だから、これからちょいちょいズルい言い方するけど、許してくんねぇか?」

「…………」


 ん?何それ?


 時間をかけて言葉を咀嚼したけど、よく分からん。


 裏返すと、ズルい言い方しないと一緒に居れないってことになる。なんかあんのか?


 状況整理すると私が暴走したのを命の恩人に押し付けてるわけだから、命の恩人が殺される危機にあること以外は特にないんじゃ……。


 いや、待てよ。


 命の恩人から自分じゃないってことが漏れたらどうなるんだろ。命の恩人の言葉自体じゃなくて、カホみたいな心を読む能力者なら……てかそれって、ヤバくね。バレるじゃん。


「カホ、もしかして、カホのついた嘘って案外すぐにバレるのか?」


 と、言いながら見上げたカホの顔は苦虫を噛み潰したように渋い顔になっていた。やはり予想が当たっているってことなのか。

 私の心臓の動悸がこれまでと違った感じで早くなっていくのを感じた。

参考までにカヨたちの時間の整理を軽くすると、

18時 裏山の頂上

19時 下山後の治療終了

21時半 帰宅

23時 カヨとヒスイ地下室へ

24時 カヨとカホ部屋に戻る

26時(深夜2時)カヨ起床←今ここ

です。大よその時間を振っただけですのでだいたいで把握していていただけると幸いです。

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