誰が誰に
闇にてからの続きです。
私は自称神からの言葉を全く理解できてない。そもそもこの世界の感情関係よく分からんしな。
とりあえず何かを信じればいいんだよな。
……えっと。それが出来れば暴走しないっつの。
あ!神が他の正の感情も持ってたら良い的な事言ってたよな。本当かよ。
あいつなんかいまいち軽いから信用にかけるというか何と言うか……。
ま、とりあえず考えてみるか。
えーと、私の今最大までいける正の感情て何だっけ。誇りと感謝だっけ。あれ?そんなけ?てか今更だけど誇りってなんだ。自信みたいなもん?あと、感謝って何に感謝すればいいんだよ、神か?神ってさっきのあいつだろ?
…………。
ダメだ。めっちゃ混乱してきた。
もうダメじゃね。
私死ぬじゃん。
…………。
それもいっか。死んだほうが楽そう。
…………。
やっぱ死にたくないなー。私、意気地なしだよなぁ。死ぬ勇気なんて最初からない訳だけど、この状況打開できる気もしない。
そもそも死なない理由ってなんだろ。
神に死ぬなとか言われたからっていっても、ついさっき会ったばっかだし、神じゃないかもしれんし、どうなんよ……。
あぁ、でも、カホとかヒスイとか悲しんでくれるかもな。ま、それは高望みとしても、死ぬな、くらいは言ってくれるかも知れない。何だかんだ私への態度優しいもんな……。確かに私が里の悲願の救世の主っていうのがでかいだろうけど、私がアイツらを戦場で見殺しにしたくないて思うのの10分の1くらいなら感じてくれるかもしれない。
だって大怪我した時いっぱい心配された。例えそれが表面上だけだったとしても、そんなこと今までなかった。
よくよく考えると、それって、すごくありがたい。
親戚もクソ親父のせいで皆んな私を煙たがってたし、クラスの奴らも気味悪がってたわけだし、空手の師匠は死んじゃったしそもそも厳しい人だったからそんな素振り見たことなかった。
あっちの世界じゃ私がいなくなって清々する奴こそ居ても、悲しんでくれそうなやつ1人もいない。あぁ、お母さんは私が死ぬとクソ親父が来そうだし、別の意味で悲しんでくれるかもしれない。
はは、何だこの状況。マジウケる。
そう考えると私、今人生で初めて必要とされてて、死ぬと悲しんでくれる人がいるってことじゃん。異世界なのに。ここにきてたった2日なのに。元の世界で生きてきた日数よりはるかに短いのにさ。
凄いなぁ、これって、今死んだ方が私の人生最大の得をする事になるんじゃね……。て、バカか。
カホもヒスイも悲しませたくない。てか、アイツらだって救世の主いなかったら戦争終わらせようぜ計画がおじゃんになるから別の意味で悲しむんだよ。
でもありがたいことに変わりないよな。まっとうな理由だし。あいつらも一緒に戦場に行ってくれるって言ってるし、自分の娘生贄に逃げてる母親より、数倍まともだ。
だから、戦争、終わらせてあげたいな。こんな暴走してしまうようなゴミクズで、クソ弱い私だから何が出来るか分からんけど、アイツらが安心して笑って生活できる世界になるように手伝いたいよ。
アレ、お腹のあたりがなんか暖かい気がする。
何かが焦げる匂いがする。……カホかな。
「目を覚ませ、カヨ!」
――あ。
一瞬で黒い世界から吸い出される。
目の前には真っ赤に燃える炎が舞い上がっている。
なんか知らんけど戻れた……?良かった。
ほっとしたのも束の間だった。次の瞬間、ドンって効果音が耳から聞こえるくらいの衝撃が身体中を走った。
痛い。
心臓がヤバイ。息ができない。
ゲボッゴボッ
私の口から赤い液体が吹き出す。
え?何これ、ヤバくね。
視界が歪んで、周囲の炎の熱気で余計にクラクラする。
ちょっと遅かったのかな、なんか分かるわ。これ、死ぬやつや。
と、目の前に緑の目の少年?青年?が現れた。目が窪んでて明らかに栄養失調なそいつは、コレってカホに呼ばれてた奴だ。目隠し取ったらしい。髪の色素薄くてブロンド色だからかもしれないけど、外人さんぽい。
そして彼は私の両手をそれぞれ握りしめてブツブツ言い始めた。すごく必至な顔をしている。
あ、もしかして今、治療してくれてる?
感覚的にはなんか不思議だ。握られた手から徐々に痛みが引いていく。けど、すごくゆっくりだ。
んー、これってあれかな、間に合わない的な。
心臓の痛みと息できないのとでそろそろ本格的に意識が遠のいていきそうになった時、治療のスピードが急加速した。
視界が晴れていく。息がゆっくりすえるようになる。
……凄いな。これが治癒の能力か。
と、私の命の恩人を見る。目をぎゅっと閉じて、私の手を掲げるように握って頭を下げている。耳にはさっきからずっとこの人の呟く声が聞こえている。
『……い。ごめ……さ……。ご……なさ。ごめ……』
何言ってんのか分からんけど、すごく後悔してる感じが伝わってくる。
何でだろ。てか、アレだ。この人、泣いてる。
「あ……えっと」
とりあえず身体は大丈夫そうな域まで達したから、声を掛けてみる。なんで泣いてるのかは知らないけど、ここの生活辛そうだもんな。
てか、私が暴れたからビックリしたのかもしれん。うん、きっとそれだな。
青年は私の声かけに気づくと顔を上げて私を見つめる。背は断然相手の方がデカいんだけど、猫背だし身をこれでもかと言わんばかりに屈めてるから、覗き込むような感じで下から見上げてくる。
「よかった……」
あ、分かる言葉だ。さっきの呟きは何だったんだ?
泣きながらその人は、ホッとした顔をする。
凄いな、この人。
あんな痛めつけられたのに、超無理強いしたのに私を本気で治療してくれたんだ。あんな酷い頼み方したのに。
臭いとか思ってごめんよ。や、そんなんは言わなくていいか。
うん、なんつーか、あれだな。先に言わないといけないことある。
「あの、ありがとう」
私の言葉に青年は嬉しそうに顔を綻ばせる。
で、意味不明の言葉を羅列しだした。
「……え、今の、何語……て、え、え?」
英語でもなかったし、全く意味分からなかったんだけど、それを聞き返してる途中で相手が抱きついてきた。
なんか知らんけど、今日の分の傷じゃない部分も治してくれたらしい。全く痛みが走らなかった。
「え、重いんだけど……ちょ、え?」
そいつは私に全体重預ける感じに私に抱きついて気絶してた。
マジかよ。
そんな疲弊するくらい力使って治してくれたのか。もっと丁寧にお礼言えばよかった。
…………うん。
ごめん、命の恩人さん。
…………本当に感謝してる、でもごめん。
あのさ、助けてもらっといてこう言うのも何だけどさ、臭いです。
あー、私のバカ、ほんとバカです。ごめんなさい。こう思ってしまう私を許してください。ほんとスミマセン。納豆の倍以上の臭いが鼻を刺激してくるから、息を止めてます。この状態はどうにかしたいです。ごめんなさい。
だってカホとかいるし……て、カホは?
命の恩人の薄ぺらな胸板をズラして、抱えつつ辺りを見回す。
やべぇ、石の床がバラバラに崩れてる。アレだな、割れまくったコンクリート状態。で、その上に草みたいなものの燃えカスが部屋一面にのこっている。マジカオス。
カホを探すのにはそんな時間がかからなかった。丁度命の恩人の身体で遮られていた一直線上にカホがいたからだ。
「カホ……?」
思わず声をかけてしまう。
なんて言うか、声掛けてしまったけどかけない方がよかったかもしれん。
カホは命の恩人に負けず劣らずの勢いで泣いていた。そんで泣いた状態でゆっくり歩いて近づいてくる。
「ごめん」
カホはそう言って私の命の恩人を丁寧に私から剥がすと抱える。
「フウロ」
カホはポツリと3文字を発音すると口を噤んで涙を拭った。
ふうろ……てなに?
私の心の疑問は聞いているんだろうけど、カホは今度は私に視線を向けるだけで答えない。代わりにすごく申し訳なさそうな顔をする。
「カヨ、ごめんな。守るとか言っておいて、危うくお前が死ぬところだった」
カホはまた泣き出しそうな顔をする。目にはまだまだ涙が溜まっている。
あぁ、私に謝ってたのか。
でも最初の謝罪はどっちかというと私に向けられてなさそうに見えたけど……まあいいか。
「ううん、この人が助けてくれたから良かったよ。間一髪だったけど」
「…………」
カホは私の言葉に視線を落として自分の抱えている青年を見つめる。
カホ、またこの人に乱暴な事するんかなぁ。
別のことに注意ひこう……。この人私の命の恩人だし、気絶してるけど酷い扱いして欲しくない。
「そ、それにしても、あんな暴走したすぐ後なのに、不信の心がすっかり息をひそめてる気がする。何でだろ」
カホは私の心の声読み取ったからなのか知らないけど、命の恩人をなるべく平らなところの床に丁寧に寝かせた。
良かった。カホがちゃんと知ってるカホだ。
「ああ、そりゃ暴走した後だからな。負の感情を自然の力に変えた後はその分の感情消費しちまってんだよ」
「あ、そうなるんだ」
エネルギー保存則的な感じなのかな。
カホは私の方を見て苦笑いする。
「今はいつものカヨなんだな」
少し寂しそうな顔に、ちょっと自己嫌悪する。
カホのこと言えないよな。暴走する前の私の思考、凄く嫌な奴だったはずだ。カホ達をすごく疑ってたし、嫌味言ってた。それを全部読み取ってしまったカホはどう思ったんだろう。だー、自分にめっさ腹立ってきたわ。
てゆうか、暴走前の私の視界って何であんな人の表情分かりづらかったんだ?そういう病気みたいなもんなんかな。
「あのさ……カヨ。俺、お前の心読み取っても誰にも言わねぇよ。絶対」
「えっと……」
私が何て言おうか迷っていると、部屋の入り口付近の廊下から多人数の足音が聞こえてきた。
「おい、大きな音が聞こえたが、どうしたんだ」
「何があった?!」
「な、なんだこれは!!」
「これはいったい……」
青い目をした人らが4人。この部屋に入ってきて驚きの声を上げる。
まあ、一枚岩がバッキバキな上に炭焼き状態だもんな。
アレ?そう言えばヒスイは?
よくよく部屋の中を見回すと、いた。
いたにはいたけど。目を疑った。
「嘘……」
何とかその言葉だけをひねり出せた。
「なっ?!」
カホもヒスイの状態に今気づいたらしい。言葉を失っている。
「な、あ、アレは!ヒスイ様ですか?!」
「なんと!どういう事だ」
ヒスイの身体から草とも木ともいえない物が生えていた。まるで磔にされたイエスの様に、地面から生えた植物がヒスイの身体を巻き込んで、身体を幾つもの枝みたいなのが貫通している。
私はとりあえずヒスイのところに駆け寄る。
「おい!カホ!どういう事か説明しろ!」
後ろの方でカホに気づいた兵士たちが尋問している。でも私はそっちに意識を割けない。
何だ?貫通してる、て何?
生えてる木に触ってみる。所々燃えてるけど、まだ木が生きているのがわかる。生きてはいるのだろうか。肌の血色は良い気がする。
「ヒスイ?」
声をかける。ヒスイは私の身長より上のところで磔状態になっている。見上げるけど顔の半分からは木の幹が生えてきてる。
心臓が徐々に強くなる。
どういうこと?これって、何が起きてんの?
誰がこんな……
「誰がヒスイ様にあんなことをしたんだ!」
後ろから大声が私の耳を襲ってきた。心臓が抉られるような気がした。
相変わらずの自分の馬鹿さ加減に言葉を失うわ。誰が……て、私しかいない。私が暴走して、ヒスイにこんな……。え、どうしよう。
いやいや、どうしようとかで済ませられない。何かの間違いであって欲しい。頭の中をヒスイの色んな表情が駆け巡る。ついさっきまで地脈について教えてくれていた。そいつが目の前で身動き一つせずに吊るされている。
私て、ヒスイを殺したのか?




