修行
カホはどうやら午後からも授業があるらしく、食堂を出てすぐに別れた。
で、私たちは外に出て授業が行われるであろう場所を目指して歩いている。
ヒスイ曰く、私がこれからやるのは学校の授業で言うところの体育的なものらしい。まあ、戦争中だし体育の授業多めみたいな感じだ。
一言で体育ってまとめたけど、大きく分けて、単純に体を動かして筋力アップの訓練と所謂スパーリングに近い対人戦の訓練、複数人と連携して動く訓練の3つがあるらしい。
で、これからやるのは単純な筋力アップ訓練。言い換えれば筋トレだ。まあ単純な筋トレならまだなんとかなるかもしれん。なんだかんだ向こうの世界で空手やってたこともあって身体はそれなりに鍛えているからな。
それにしても、気になるのは火神の加護というか、能力だ。なんだかんだ自分がどのくらいまでできるかの把握が出来ていない。そんな状態で訓練しても上手くいかないのは目に見えている。
「ねえ、火神の私にくれた能力って何?」
「まだ明確には分からないというのが正直なところですが……」
ヒスイは微妙に難しそうな顔をして前置きをする。
確かに敵方の能力だし詳細は知らないよな。敵もその辺は隠そうとするだろうし。
「そもそも、火炎族自体が顕現した状態であれば、全部族の中でも随一と言えるほどの剛腕を誇るのです。その為に能力者とあまり区別をつけづらいのですが……彼の一族の能力者は、その身に不自然な程の筋力を宿すと聞きます」
…………ほう。
てことは、アレか。火の部族の能力ってのは怪力か。
昨日の連中を殴った時、ちょっと力入れただけで妙にベコッとなったのは能力のおかげだったということね。
てか、能力以外にも顕現したら剛腕になるとか、それぞれの部族で特徴がある訳ね。これ、覚えておいたほうが良さそうだな。
「一説によりますと、強化された能力者はその身に触れたあらゆる物を蒸発させ得ると聞きます。これはあくまで私の見解ですが、恐らく火炎族の能力とは、その身にあらゆる力を発揮させるのではないかと」
火の部族自体が超近接型なのはわかった。わかったんだが、だ。
あらゆる物を蒸発……?
何その危ない感じ。それって不用意に触れば仲間まで死ぬじゃん。
あらゆる力って何だよ。想像つかない分不安感が押し寄せてくる。
火神の能力てやべぇよ。完璧なるチートじゃん。
超怖え。
触れただけで蒸発させれる奴とか近くにいたら、私だったら逃げ出す。
ヤダよ、そんな危険人物の仲間入りなんて。
「それ、本当?カホの心読める能力も使い用によっては最強レベルだけど、闘う相手として見ると、それを軽く凌駕してるような気がするのは気のせい?」
あぁ、因みに小声で話しているので普通に話している。流石に他人の話に聞き耳立てるような輩はいないだろう。
……いないよな?いないはず。
「それぞれの部族には各々特徴があります。戦闘に向く向かないで言いましたら、火炎族は間違いなく攻撃向きの顕現をし、能力もそれに準じております。私たち水滸族は、もともと術を駆使し、守護することを得意としておりますので、能力もまたそれに繋がるのではないかと」
「……なるほど」
確かに神様だって常時部族同士で戦闘が繰り広げられることなんて想定して無いはず。この世界の部族は、戦闘特化の部族ばかりじゃないってことだ。その面からいくとそもそも火炎族は好戦的な一族だったって事なんだろうか。それなら黒族が白族のことを野蛮って言うのも納得出来る。
確かに水滸族の力って、基本水を扱う訳だしね。それを戦闘で使うって言うと人殺すのに大量の水作り出して溺れさせるくらいしか思い浮かばない。まあ術とかの知識が無いから知らんけどさ。それって結構効率悪そうにも思える。パッと考えて言う限りだと攻撃という観点では水は使い勝手が難しい。
それよりか、ここに来るまでに見てきた物を隠したりする幻術の方が得意そうだ。そういう面で見れば、心を読む力はそっち方面に特化してそうにも思える。
……カホはチグハグだから置いとく訳だが。
「氷雪族は何が得意なんだ?」
「状況によって変化することです」
???
おい、いきなり理解不能になったぞ。どういうこった。
「どうゆうこと?」
「術を扱うことに長けていますので、性質としては水滸族と近いのですが、少々異なります。彼らは接近型の体術も優秀です。顕現した状態であれば火炎族程とはいかないまでも身体能力が上がります。戦闘面では攻守共に頼り甲斐のある方達ですね」
「へー」
要は万能型ってところか。
一歩間違えば器用貧乏になりかねないけど、そこは上手くいってる感じなんかな。寧ろ、基礎値が高ければ戦闘では優秀な人材なのだとも思う。
おさらいすると、火炎族はパワー系の近接攻撃特化、水滸族は術とかのインテリ系守護特化、氷雪族はバランス系の攻守両翼派って感じか。
で、だ。私は既にパワー系の能力を持ってしまったと。
確かに、それなら基礎メインの上位クラスに入れさせられるかもしれんね。
てな訳で、授業の待ち合わせ場所に着いたらしい。前方に人だかりができている。校庭の様な開けた場所に身長のまちまちな人間が集まっていた。おそらくあの人らが私と授業を受ける人たちだろう。
若干緊張しつつも近づいていく。
するとこちらに気づいた者たちが驚いた表情を浮かべる。
「あ、ヒスイ様だ」
「何故ヒスイ様がこちらに?」
「ヒスイ様の隣の者は誰だ?」
それまで静かに待機していたのに、ザワザワとこちらに視線を向けて騒ぎ始めた。
集団との距離が5メートル程になった時、集まっていた人たちは全員こちらを向き、丁寧に挨拶をしてきた。もちろん、ヒスイに。
「「ヒスイ様、ご機嫌よう」」
…………。
ご、ご機嫌ようだとっ?!
大人ならなんか言ってそうなイメージあるけども、見た目10〜16歳て感じの人間ばかりなのに?
使ってんの初めて聞いたわ……。
ヒスイは慣れたもので、特に動じず爽やかに返答する。
「ご機嫌よう、皆さん。今日はこの者がこちらの班にお世話になりますので、ついて参りました。先日白族からの捕虜解放をされたばかりですので、術についての知識はもとより、里のことに関しても知らないことが多々あるだろうが宜しくしてやってもらいたい」
ザワザワ……
集団はコソコソと隣同士で言葉を交わして、騒然とする。
単純に私へ興味を注ぐ者もいれば、無関心を決め込む者、はたまた迷惑そうな顔をする者など反応は様々だ。
私はとりあえず、挨拶代わりにと一歩前に出て声を出す。
「カオルと申します。無知の部分が多く、煩わしく感じられることもあるかもしれませんが、この里のために精一杯強くなりたいと考えておりますので、宜しくお付き合いのほどお願いします」
言い終わり、お辞儀をしてから顔を上げた。
私が目線を上げると興味津々だった人たちはハッと我に帰ったように、各々軽く頭を下げて挨拶を返してくれた。この集団の大半は10歳前後の年下の様だ。顕現している子もいれば、黒い目の子もいる。どちらかというと1:2の割合で黒目の子が多い。
あれ、顕現してるかどうかで学年というか、階層分けてるんじゃ無かったのか?
と、教師らしき人が歩いてきた。全身黒いローブに似た布で包まれていて、いかにも魔女とかそんな感じの魔術師的な見た目だ。フードの下から覗く目の色は水色だった。
教師は私に気づくと微笑みながら声をかける。
「やあ、君がカオル君ですか?事情はホトリ様から伺っております。この組の担任をしております、シグレと申します。よろしくお願いしますね」
穏やかな声だ。若干深みのある大人の男の声で、如何にも教師っぽい生真面目さの感じられる言葉使いだった。
うん、体育というよりは数学とか教えてそうだ。
「はい、出来る限りついていけるよう努力します。どうぞよろしくお願いします」
「皆には自己紹介されましたか?」
「はい、先ほどヒスイが伝えてくれて、私は名乗っただけですが……」
「そうですか、それなら心配はいりませんね。では、早速授業を始めましょう。全員集合」
あ、先生から私を紹介するとかは無いんだ?
まあ今やったら二重紹介になるか。
シグレの指示に合わせて全員が整列した。
ん、何処に居れば良いんだ?背の順……ではなさそうだ。
とりあえずボーっと先生の側に突っ立っておく。
「今日から新入りが入りました。皆さん仲良くして下さいね。では、本日の授業では、まずあの裏山に山頂まで登って帰って来てもらいます。制限時間は二時です」
…………ほう。
確かに筋トレやな。二時ていう時間が私の知る2時間なら、かなり短い。この山の高さを見るに全力ダッシュで登って降りないといけない。
急峻な空高く聳える山を見上げる。
……結構キツそうだ。
と、おもむろに先生がローブのポケットから紐を取り出した。普通の麻紐の束だ。
「これまではそれだけの制限でしたが、あなた方は上位の組です。この程度では里を守れる戦士にはなれないでしょう。今日からはこれで両足を括り付けて登りなさい」
ザワザワ……
周囲が一瞬だけ騒然としたが、すぐに収まった。なんだかんだ皆涼しい表情だ。
私は自分の背中に冷や汗が伝うのを感じた。
え、無理やんな?
全力ダッシュならなんとかなるだろうけど、両足括り付けてうさぎ跳びの要領であの山を単純計算で片道1時間以内に登りきれるわけないやん?
てかこれまではそうだったなら、せめて今日はそれで行って欲しかったっ!どのくらい高いのかのペース配分も分かんなければルートすら知らんわ!
何故に私が入ったその日に難易度上げてんの?
なに?この先生頭悪いの?
あ、嫌がらせか。
いきなり上位クラス入ってきたから格の違いを見せつけてやろうとか、そういう感じ?それならちゃんと言って欲しいわ。いくらでも下位クラス行くっつの。
まさか先生から嫌がらせ来るとは思わんかったわ。最悪やん。
私が茫然としている間に周囲は麻紐を1人1本ずつ受け取って回している。私もその紐を受け取って、ジッと見つめる。
……出来るか?
一応怪力の能力あるし、出来るかもしれん。
つか出来なかったら何かペナルティあんの?
「因みに時間内に戻ってこれないようであれば、その遅延具合によって別の課題を課します。心していて下さい」
おおふ、課題てなんやろ。キツイのかな。
「課題ってなんだろうね」
「シグレ先生、この前は崖の上から突き落として登ってくるまで放置したらしいよ。ご飯も食べれなかったって言ってた。崖から落ちた時点でかなり怪我したらしいけど、登って来ないと何にもしてくれなかったんだってさ」
隣に立っている少年2人がヒソヒソと囁き合う。
えっ。
………………マジか。それ酷くね?
体罰云々以前の問題じゃんか。そんなのが公然と許されるのか?それってヤバくない?
ヒスイとチラッと見てみる。
特に普通の授業風景ですとでも言わんばかりに涼しい顔だ。
おい、絶賛殺されそうなんですが?守るって言ったくせにっ。
なんなんだ、懐かしいーとでも言いたげなその表情は。
や、殺されると決まったわけじゃない。確かに2時間以内に戻って来ればいいだけだもんな。
私は両足に紐を括り付けて、先生の合図とともにスタートした。周囲の生徒も一斉にぴょんぴょん飛び跳ねて、山へと向かう。
ヒスイはその場に残る様で、付いてくる気配はなかった。
結論から言おう。
無理だ。
私は山の中腹手前でゼーゼーと息を切らしている。辺りには1人の生徒も居ない。だいぶ序盤で私を残して皆先に行ってしまった。
ドクドクと打ち付ける自分の心臓の音を聞きながら、大きく息を吸い込む。歯を食いしばってぴょんぴょんと進んだ。
どんくらい時間が経ったのか、もはやあんまり分からない。2時間か?いや、まだそんなに経ってないかも知れない……わからん。
筋肉が悲鳴をあげてるから、一歩の距離が小さい。頂上に近づくほど傾斜がきつくなっているせいで余計に心が折れそうになる。
怪力の能力て何だよ。
スタミナとは違うってこと?
と、ここで、折り返してきたのか前方からぴょんぴょんと跳ねる人影が見え始める。流石にキツそうな顔を見せている者が大半だが、時間内に着こうと必死の形相だ。
1人、2人、3人…………どんどんとすれ違っていく。互いに競い合っている子もいるのか、元気よく張り合いながら過ぎ去った。
私はすれ違う人たちを見ずに、只管前を見つめてうさぎ跳びを続ける。
そして、遂に誰ともすれ違わなくなった。
……………………。
食いしばる歯に力がこもる。
日が傾いて水平線に沈み、辺りが暗くなりかけた頃、ようやく山頂に辿り着いた。
温度がだいぶ低く、火照る体を冷たい空気が包み込む。
きっともう授業は終わってしまったんじゃないかな。行って帰ってくるまでが授業なら、私がいる限り授業なんて、そんなことは思えない。下にはきっと誰もいない。
ましてや誰かがここに来るわけがない。辺りはしんと静まり返っていて、私の荒い息しか聞こえない。
とりあえず、休憩しよう。山頂で、座り込んで息を整える。
この世界の人間の身体能力舐めてた。
昨日呆気なくいい年した人間たちが私にヤられてたから、そんな程度だと思っちゃってたけど、よくよく考えたらアレって不意打ちも良いとこだよな。それなら実力の半分も出せなくて仕方ない。
自嘲気味に微笑った。
修練所に来たいって言ったのは私だ。
例えば下位クラスに入れられてたとして、若しくは両足を括ることをしなかったとして、私は恐らく制限時間内には下山出来なかった。
拳を作って、これから降りていく道を見つめる。休憩しているうちに、かなり暗くなってしまい先が見えない。
呼吸がだいぶ治ってきたので立ち上がる。
「痛っ」
途中何度か転けたせいで、至る所に擦り傷が出来てしまった。動けば傷が悲鳴をあげて痛みを主張してくる。
帰ったらヒスイとかカホが心配してくれるかな。傷の処置とか得意そうだ。
いや、こんな遅くなっても迎えに来ないってことは、失望されたか。だったら放置されるかも。
ヒスイはせっかく態度変えてくれたのに、また冷たい目で見られる気がしてくる。カホだって流石にそこまでお人好しじゃないだろう。
ああ、…………そんな事どうでもいい。
悔しい。
やっぱり、悔しいや。
今まで向こうの世界では生き残るためにってので身体鍛えてきた方だけど、こんなアッサリ抜かされるとは思ってなかった。しかも大半が歳下相手なのに。そこそこ自信もあった。救世の主がチートって聞いて安堵してた。それに加えて能力得たなんて戦闘面じゃ敵無しだろとか思ってた。
そんな甘くなかったな。
てか、こんなだと戦争行ったら真っ先に死んで終わるじゃん。人を殺すこととかに気を回してたけど、自分が殺されるなんて考えてなかった。考え甘過ぎだな。
ヒスイ達は私を救世の主として戦争に行かせたい派だ。
こんな状態じゃ一瞬で死ぬ。
行きたくないと言ったら、どうなるんだろう。水滸族は私を庇わなくなるかもしれない。そうしたら、氷雪族は敵の能力持ちの救世の主なんか望んでない訳だし……死ぬ可能性が高い。
なんだ、どっちに転んでも殺されるのか。
……あ、感情に制限がある。
多分私、怖いって思ってるはずなんだけど、途中で止まる。
でも足は正直だ。竦んで動けなくなった。
うん、この感情なくて良かった。もし制限なく恐怖が沸いてきたら、問答無用でこのまま反対方向に逃げ出してたかも知れない。
逃げ出しても殺されるんだろな。
あ、私詰んでるやん。
誰も助けてくれない。自分でも自分を守れない。息苦しくなる。
ついさっき呼吸を戻したはずなのに、浅くて早い呼吸しか出来なくなった。
「ばーか、考え過ぎ」
不意に後ろで掠れ声がかかる。
振り返ると呆れたと言わんばかりの表情の少年が立っていた。何処から登ってきたのか、たった今登って来たにしては息切れ一つしていない様子だ。
「どの辺が考え過ぎ?」
「途中からしか聞いてねぇけど?その辺全部考え過ぎ」
「…………何を根拠に?」
「お前こそ、何を根拠にそんなん考えてんの?」
カホはゆっくりと近づいてきて、私の頬に手を当てて、目元を拭う動作をした。気遣う視線とその仕草にデジャヴを感じる。
もしかして私、また気づかないうちに泣いてたのか?
慌てて自分の頬に触れるけど、泣いてはいなかった。
カホの動作にそこそこ疑問を抱きながらも、優しげな仕草に思わずそのままにしていると、カホは困った様に笑った。
「めっちゃ頑張ったんだな」
「………」
なんだ、ただの嫌味か。
私の心情を読み取って、カホがムッとした顔をする。
「嫌味じゃねぇよ、怪我してんじゃねえか」
「………こっちの世界じゃ、これくらい出来て当たり前なんでしょ。……わざわざ、言ってこないで」
私は声を張り上げず、ただ、静かにカホの手をのけながら言った。
怒ってるわけじゃない。
ただ、落ち込んでる。
これくらい難なく出来るだろうカホに褒められたって皮肉にしか捉えられない。私はこの世界の誰よりも落ちこぼれな気がしてきた。
「お前、なぁ……」
カホが長いため息を吐く。自分の頭を無造作に掻くとカホは言いかけた言葉を引っ込めた。
「まあいいや。とりあえず降りようぜ。もう授業は終わっちまってるけど、シグレ先生は待ってるからよ」
「………」
そっか。先生、待ってるんだ?
じゃあ早く降りないとだ。
さっきまで考えてたことが、霧散していく。カホが来てくれただけで、その他の現状たいして変化してないはずなのに何故か足の竦みが取れていた。ぴょんと跳ねて、元来た道を辿ろうとする。
「ん?お前そっから来たのか?」
カホが首を傾げながら尋ねてくる。
何かあるんだろうか……。
「そうだけど」
「呆れた……」
小声でそう言うカホは眉を寄せている。
ドクリと不安が心臓を鷲掴みにする。私は思わず固まってしまった。
呆れたって単語にもだが、カホの表情にも真剣な響きがある。真剣に呆れられるとか、失望されたのと同義だ。
「ちげぇよ。失望て何だよ」
カホは苦笑しながら否定してきた。
じゃ、何で呆れたとか言ったんだ。
「そら呆れるだろ。馬鹿正直に一番キツイ所を登って来てんだからよ」
「えっ」
「そこ、登れば登るほど急斜面になるじゃねぇか。登ってる最中でも分かるだろ、そのくらい。普通避ける。中腹からはこっちの岩場とその側のを伝って登ってくるんだ」
カホの指す方向には大きめの岩がゴツゴツと転がっている。そっちに行って覗いてみると暗がりでもわかるくらいスロープ状の緩やかな斜面があった。所々にある土の部分には踏み固められた足跡が大量にあった。私が登ってきた所よりも遥かに稜線が歩きやすそうだ。
急斜面だから人が歩いても崩れるんだろうとか思ってて足跡気にしてなかったけど、私しか通ってなかったのか。確かに思い返せば、あの人数が通ってすぐだと言うのに人が通った形跡がなかった。
「確かにそこを登れって指定する授業もあるけどよ。その道危なすぎて顕現してない奴らにさせられねぇだろ。てか、足括った状態でよく落ちなかったな」
「…………何回も落ちたけど」
「えっ」
カホは一気に険しい顔になった。
そんで慌てた感じに近づいてくる。
「どこ打った?」
「いや、全身……かな?」
「どこが一番痛いんだ?」
カホに圧倒されつつも一番痛いところを探してみる。
正直痛み耐性というか、このくらいの痛さは慣れてるから改めて探さないと分からない。
「えっと、腰と、肩と首の間……かなぁ?」
「何で疑問系なんだよ」
「だって分かりにくいし」
言うなれば全身痛いんだ。しょうがない。
カホは私の言った場所を確認していく。確認ていうのは、触診だ。そりゃ押さえずとも痛いんだから近くを触られただけで充分痛いんだけど、それ以上に抵抗感のが強い。
「ごめんて。ちょっと我慢しろ」
妙に長く感じたけど、20秒程度で終わったと思う。
そんでもってカホはより一層険しい顔してくる。
「お前な、こんなことになってんならもっと早く言えよ。全然平気そうな顔してるから分からねぇじゃねぇか」
カホはそう言うと、瞳を赤くした。
あ、顕現した。
もうすっかり夜だというのに赤い目は鮮やかに映る。
怒ったって事なのか……。
「うわっ」
唐突にカホが掬い上げの要領で私を持ち上げた。あんまり痛くない位置を押さえながらだから、そこまで痛みは走らない。
「このままお前が降りてくの、見るだけにしようかと思ってたけど、異常事態だからな。とりあえず降りるぞ」
そう言うと、さっき危ないとか言っていた私のきた道に向かった。そしてそこから思い切り下へと飛び降りた。
あ、因みにお姫様だっこなんていうメルヘンじゃない。俵担ぎに近いやつだ。後ろ向きに進んでいくからジェットコースターみたいにも感じる。
てか、速くねぇか?
あっという間に景色が流れ去っていく。頂上なんか遥か彼方にチラつくだけになった。
あーあ、このくらいの山、カホなら一瞬なんだね。
私のやり遂げたことの小ささに改めて心が沈んでしまう。




