渇望
短いです。
森を出て暫く歩かされると、多くの人が現れた。10人?くらいは確実にいる。この人数に襲いかかられたら流石に逃げられないな。なんて考えていると水色の目の奴が連中に近寄り話している。
「……ということなのです。この者は確かに鏡の界に居ましたし、服装も違いますが、とても伝承に言われる救世の主ほど高貴に見えません。そして何より、女なのです。これは何かの間違いではないでしょうか?」
結構ズケズケという奴だな。まあ、確かに今の私の格好は一般人的とは言えないかな。ビショビショに濡れているし、制服は大方乱れて上半身の方は千切れていて、髪も散髪なんて行ってる程の余裕もなかったから好き放題伸ばしている。クラスでも話しかけられることのない根暗として過ごしている程前髪も長い。本来は顔とか首にできたアザを隠すためだったけど、最近は避け方も上手くなってきたからその必要は無くなった。でも相変わらず、首の付け根や服で隠れる箇所に傷跡や痣はあるんだけどさ。
「いえ、占いによるとこの者が我らの救世の主の様です」
連中で一際黒い裾の長い服にお坊さんの様な飾りを重ねている奴が周囲に充分に聞こえる声を発した。しかし、俄かには信じ難いのか、ざわざわと連中は隣り合ったもの同士で囁き合う。
「女である以上、戦場には連れていけない」
武骨そうな厳つい顔とガッシリしたガタイの奴が大きな声を発した。ていうか、遠いし暗いから見えづらかったけど、この連中目が青い。水色の目もいる。みんなしてカラコン……じゃないのかな、もしかしたらこういう人種?日本人にそんな奴らがいるとか聞いたことないんだけど。
「つまり、この救世の主は我ら自身を強める者なのだ。早速里より屈強な戦士を集めよ。子を作らせる」
……はあ?なんだそれ。つまり、アレか。私は見ず知らずの里の戦争のために、よく分からんが強姦されようとしてるのか?身の危険くらいは分かる。こいつらの表情、使命感に満ちてて微塵も自身の非なんて感じてない。こういうのの方がヤバイ。
親に強姦されそうになって逃げて、逃げた先でも強姦なんて、私の世界がいかにゴミかってことがよく分かったよ。ぶつけようの無い怒りが沸く。
その瞬間、私の中で絶対的に足りない何かがあることに気づいた。パズルのピースが欠けるみたいに何かが足りない。これは鏡を潜った瞬間に切り替わった感覚の部分だ。渇望するほど足りない何かを欲してる。むしろ、そのパズルのピースが無いせいで思うように感情が動かないとでも言うべきか……?自分でも何言ってるのか分からない。足りないという感情だけが強くなっていく。
「……おい、どうした?」
私の腕を掴んだままだった赤い目の奴が私の方を振り返る。いや、赤い目じゃなくなってる?黒目だ。やっぱりカラコンだったんだ。変なの、いつ外したんだろ。
でも相手は何か異変を感じたのか、私を見た瞬間、目を見開く。
その直後、全身が沸騰するような感覚と共に私の視界はブラックアウトした。