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現実逃避してたら異世界に連行されたようです  作者: wine
第二章 異世界で修行します
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修練所④

 その後、私の修練所での設定が決められた。


 好都合と言うと語弊があるが、ちょうどホトリの従兄弟の子供で、捕虜にされたのち殺されたとされている者がいるらしい。その人物に肖る形となった。親戚と言えど名のある家なんてかなりの量の子供を産むし判別はつきにくいようだ。しかもこのご時世、毎日のように人の命は消えていくらしく、ザックリとした設定でも気にされないのだとか。

 確かに親戚のどこどこの親子が死にましたとか、地雷だし誰も突っ込まないよな。


 そんな感じで、人死に関係は封殺されてるからバレないという前提でアッサリと設定は決まった。


 つい先日奇襲をかけて捕虜を取り返したというのも、実際行われたことらしい。ヒスイが今朝方パッと思いつきで言ってたけど、一番適当な答えだったようだ。


 あとは、ジイさんに保護者になってもらって、当面はヒスイ宅で過ごしているということにした。ヒスイも次期当主だから城に住んでるらしく登下校が一緒なのも整合性が取れている。


 てか今の私の状況そのまんまだし、正直言ってここで素性関係はバレそうにないようだ。まあ、救世の主と一致されたら一瞬で設定はおじゃんなんだけど。


「では、午後の授業に備えてゆったりと散策などしてみてくだされ。なに、修練所はワシが目を光らせております故、城よりも危険は少ないでしょうな。だがもしものこともある。その時はヒスイ、頼んだぞ」

「はい、お守りさせて頂きます」


 ヒスイも静々と丁寧に頭を下げた。


 背筋が伸び、倒れるように頭を下げるので頭頂部がよく見える。……こいつは当分禿げそうにないな。


 まあそんな黒々と綺麗に整えられてる頭を見ながらちょっとだけ目を細めてしまった。最初と比べて、同一人物か疑うレベルでヒスイが大人しくなったんだよなー。んでもって、それが私が泣いたせいってのも、なかなか微妙な心境になるもんだ。


 良いんだけど、あんま丁寧にされても逆に気疲れする。てか、やりたいことあったんじゃないのか?言ってたもんな、技を磨く云々かんぬん……


「あれ、ヒスイ、技の練習したいって言ってたじゃん。それはいいのか?」


 実は修練所に行こうって思った理由の片隅に、こいつらの生活を大きく変えさせたくないってのがあった。


 別に学校自体、私は好きじゃないけど、普段学校に通っていたのに、私というイレギュラーが来たせいで学校に行けなくなったなんて、ちょっとした罪悪感がある。卒業したとか言ってたけどさ。よくわからんけども。


「カヨ様をお守りするのが一番です」


 うーーーーん。


 今のヒスイの態度だとこういう答えになるよなー。てかジイさんに頼むぞとか言われた後だし、内心どう思ってようと、この答えになるわな。


 でも、一緒にいるってことは授業中に常時授業参観されてる感じになるのか?クソ親父は授業参観なんて一回も来たことなかったけど、周りの奴らはソワソワしてて気持ち悪かった。あれを味わうのはちょっと嫌かな。しかもヒスイ有名人ぽいし、寧ろ私自身より周りが浮き足立つだろ。


 …………まあ、一回くらいならいいかも知れないけど。


「授業って先生がいて訓練したり、講義受けたりするんだよね?」

「はい、そうです」

「それだと、あんま危険なさそうだけど……」


 そう言いながらチラッとホトリのジイさんを見る。ジイさんも、うむと頷いた。


「我が校の教師には、念のためカヨ殿が救世の主ということは伝えぬが、ワシの縁者だと伝えますので。それなりに扱ってはくれるじゃろ。ワシの圧力もあって、ここの教師陣は城の人間とは極力関わりをなくしておる。間違っても政治の陰謀はないと言えよう。無論、実力は折り紙付きじゃ」


 なんかそれ、ユキナガも言ってたな。


 派閥とかになってそうな気はするけど、いい感じになんとかしてるんかな。まあそこは知らんし、私でどうにかできるわけじゃない。そっとしとこう。


「じゃ、ヒスイ、授業の間は自由にしてていいよ。常に一緒じゃなきゃ危ない訳じゃないんだ。しっかり自分の時間も確保してて欲しい」


 プライベートって大事だ。こんな世界だと日曜日とかなさそうだし、戦争中だし、常時仕事とか普通にありそうだ。私から提供しとかないと、今は大人しいヒスイも鬱憤が溜まるだろう。


 まあヒスイのことだ、私が自由な時間を作らせてもその時間で他の仕事する感じなんだろうけどさ。


 それにしても、今の話で完全に空気扱いのカホって?


 と、カホを見た。恥ずかしそうに苦笑しながら頬を掻いている。


「わりぃ、俺は講義受けるし、その間は護衛出来ねぇや。空きの時間はお前のとこ行くよ」


 あー、卒業したのに舞い戻って補習受けてるんだっけ。ここの授業レベルが分からんが、どんな事したらそんな扱いになるんだ?


 まあいいや。


「うん、分かった。カホも授業頑張って」

「お、おう」


 私の心の声を聞いたのか、微妙な顔をしたカホ。


 その後、ジイさんに挨拶して部屋を出て行った。ジイさんは後から私のクラスを教えに来てくれるらしい。昼休みの後待ち合わせすることにした。


 部屋の外に出ると、チラホラと廊下を生徒や教師たちが行き交っている。ここは好きな講義を取っていく形式らしい。だから空きコマとかいうのも有るし、午後から学校みたいな事もあるようだ。どっちかと言うと中学校というより、噂に聞く大学みたいな感じなのかもしれない。


 ああ、軽く流してたけど修練所の風景は昔の木造校舎って感じだ。各教室は畳だけど、パッと見30人くらいで一教室だ。来るときに見えていた大きな建物は、体育館的な扱いのものらしくて、天井の高い競技場みたいな物のようだ。


「さてと、カヨはこれから授業までの時間何すんだ?」


 カホはホトリジイさんから解放されて晴れ晴れとした表情である。憑き物が取れたような笑顔を見せる。


「うーん……行きたい所ねぇ」


 と唸ってはみたものの、実は行きたいところは決まっている。


 ただ、こっちにそういう施設があるかというと、どうなんだろうか?あるのか?


「うわ、お前、書物とか読みたがるなんて、嘘だろ……」


 カホがいち早く読み取って反応している。


「本……書物のたくさんある部屋ってある?私の世界じゃ、こういう学びに来る施設に備えられていて、図書館とか図書室とか呼ばれてるんだけど。カホの反応だとなさそう?」

「ございますよ。カホがバカなので嫌悪してるだけです。兵法から歴史書、随筆に至るまで揃っており、講義の課題でその書物を扱うことも多いです」

「なるほど。じゃあここは私の世界の学校とあんま変わんないみたいだ」


 カホはバカなので、って……ヒスイはかなりの頻度でカホをバカにするよな。

書物を読んでるから頭がいいとは限らないし、書物を読まないからバカってことでもないんだろうからカホをバカにはしないでおこう。


 ま、私は元の世界じゃ図書館くらいしかいる場所なかったし、入り浸ってた訳だが。成績は中の下です。図書館行っても別に勉強する訳じゃないしな。


「じゃ、私はそこで時間を潰そうかな。この世界のこととか、ちゃんと知っときたいし」

「……すみません」

「……すまん」


 私の言葉を嫌味と捉えて後ろめたさを感じたのか、ヒスイとカホは声を揃えて謝ってきた。普通に言っただけなのに。


 こういうの面倒くさいよなー。なんか声かけしたいけど、ぼっちで過ごしてきてた分、こういうのに対する言葉とか全く思い浮かばないや。ここで私が気の利いた言葉の一つも言えば、こいつらは……少なくともヒスイは安堵してくれるだろうに。カホは正味私のこの心情を読み取ってるから逆に安堵できるだろうけどな。


「いいよ、早く行こう」


 結局、素っ気ない言葉で終わるんだけどさ。なら迷うなって話だな。自分の性格は自分でもよく分からん。


 で、図書室到着。


 途中でカホが講義に遅刻して参加しに行くと言って別れた。


 なんだかんだ真面目に行くんだな、カホ。もっとやんちゃ系かと思ってたけど、案外ちゃんとしている。


 図書室は、紙の古くさい匂いが漂っていた。木の棚に巻物みたいなものや、紙を束ねただけに見えるもの、普通に本の形をしたものと、形状が根本的に違うのが並んでいる。ある程度は分類しているらしい。


 適当に本を取ってパラパラとめくってみた。


 …………うん。知ってた。


 読めねーわ。

 薄々気付いてはいた。そう、なんかそんな気がしてたんだよね〜。だって江戸時代の文化残ってるわけだし、そんな時代のあの蛇の這った跡のような文字を私は読めない。つまり、ここの世界の文字もそんな文字だって事だ。


 でも、こんなんで諦めないぞ。


「ヒスイ、私どうやらこっちの世界の文字読めないらしい」

「え、そうなのですか?確かに、そう言ったことを仰る救世の主もいたと伝承されておりますね。何か気になる書物があるのでしたらのでしたら読み上げましょうか」

 

 ヒスイは私が持っていた書物に目線をやっている。


 まあこの本がなんなのか知らないんだけど、ヒスイの反応を見るに救世の主関係やこの世界についての物じゃなさそうだ。そこまで重要そうでない態度だ。


 ヒスイの反応を見ながら重要そうなものを検索かけてもいいんだろうけど、そんなめんどくさい事する気はない。見つけたとして重要なところを読み上げてくれないことの方が多いだろう。


「文字の読み方教えてくれないかな?その方が助かるし」

「…………ええ、まあそうですね。では、こちらでお教えしましょう」


 ということで、図書室の片隅へ2人で向かい、ヒスイに教えてもらうことになった。

あれ、修行……?

じ、次回です。

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