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現実逃避してたら異世界に連行されたようです  作者: wine
第二章 異世界で修行します
18/44

修練所③

 時折聞こえる爆音もとい怒声に合わせて耳当てを開閉する作業を続けること一時間。


 これ、いつまで続くんだよ……いい加減やめろ。


 まあ、ここまでの言い争いをかいつまむと、カホは城の空気読んでいじめを甘んじて受けていて、その態度にジイさんが腹立てている感じ。


 ああ、そうだよその通り。マジで勃発時から全くもって変わってねぇよ。


 因みに、自然が反応してるみたいでめっさこの部屋暑い。頬がチリチリ焼ける感覚までしてくる。


「ヒスイ、これいつまで続くんだ?」


 うんざりとヒスイに助けを求めて目をやる。


「わかりません。あの人はなかなか引きませんし、私じゃ止まりませんから。いつものようにカホが出ていくしかありませんね」


 いつも出て行ってんのか。確かに終わりが見えないもんな。

 それはそれで後味悪いけど。


「そうなんだ、ちょい可哀想だけど早く終わらせて欲しいな」


 まあ、早く終わるに越したことない。多少慣れたけど鼓膜ヤバいのに変わりないしな。


「お前がそんな態度を見せるからあやつらが付け上がるんじゃ!どうせ氷雪族のことじゃ、アレを使って完治しとるじゃろ。今すぐ行って報復して来い」


 アレって何だ?

 完治してるならそれはそれでいいんだけど。

 そういう回復魔法的なのがあんのか?


「やらねぇって言ってんだろ、もういい、うんざりだ。さっきから堂々巡り決め込みやがって」


 カホも元気だな。こんな元気ジイさんの相手とか。


「うんざりだ、じゃない!だいたいお前は水神様の加護を賜っているという自覚がないんじゃ!お前が不甲斐ないなど、我が神への侮辱。調子にのっておる場合じゃないぞ!水神様が何故お前に力を授けたか分かるか」


 水神?カホは火の血なのに?力って能力のことか?


 ここの宗教はよくわからんな。


 でも目に見えてカホがギリリと歯を強く噛んでる。そんな言い返せないことなん?


「知らねぇよ、物好きなだけじゃねーか?」

「ばっかもん!!!」


キーン


 おい、マジでどうにかならんのか。耳なりが酷い。


「お前が真の想いのもとに産まれたからじゃ!」

「…………」


 カホがムスッとした顔で黙り込む。


 真の想いのもと産まれた?


 んんー?わからん。


 普通に捉えて、産まれてくるのが望まれてたってことか。


 や、まあ火の部族にとっては作戦的には産まれて欲しいって思うよな。

 対する女の方が望まないといけないってことか?強制連行されて、強姦を味わって?


 私も危うくそんな事になるとこだった訳だが、そんなんで出来た子供が産まれるのを望むもんだろうか?よく見るテレビとか物語によると、本能的には産まれて欲しいって思わされるんだろうけど、現実的には無い気がする。


 カホは違ったんだろうか。


「水神様は慈悲深いが、水滸の感情を護り、陽なる純粋な心で望まなければ、その子供へ祝福して下さらぬ。水神様の御心はお前の父母に応えてくださった。いかな血も越え、お前にその力が宿ったということは、真なる心の体現に他ならぬ」

「…………わかってる」


 つまり?


 カホの能力は本来水滸族のもので、それが子供に発現する条件が、陽の感情、普通に考えて感謝の感情だということか?祝福とか宗教くさいけど。


 レイプされといて感謝の気持ちでいたと?


 よくわからんな。その女の心情も、この宗教も。


 まあ、カホは分かってるらしい。ムスッとしてるけど視線を落として大人しくなった。


 なんだかんだ言って、望まれない子供って言われるよりかは、嬉しい内容だな。その実どうだったかは知らんけどね。


「分かっておるなら、自身を蔑ろにするでない。このままではカスミの魂が浮かばれん」


 ジイさんは目の周りを少し赤くさせている。今にも涙が出てきそうだ。


 カスミって、カホのお母さんかな。つまりジイさんの娘。


 魂ってことは死んだのか?なんでだろう。

 寿命ってことはなさそうだし、病気かな。


 なんだかんだ聞いてて色々無視してみると、ジイさん良い人だよな。多分ちゃんとカホのこと大切にしてる感じする。結構やり過ぎ感あるけど。


 モンスターペアレントならぬモンスターグランドペアレントだな。略してモングラ。略さなくていいけど。


 カホがあんまグレてないのって、このモングラとか、ヒスイとか、カホのお母さんのおかげかもな。


 ……お母さんか、良いな。私は顔も覚えてないけど。


 不意にカホと目が合う。


 微妙にオドオドしてるけど、なんだろ。


 ……ハッ、気づいた。


 これ若干ひと段落してるんじゃね。ここで助け舟出したらジイさんも乗ってくるだろう。


 なるほど、カホは私にそれをして欲しいわけね。良いでしょう、乗りましょう。確かにこの機は逃せない。カホのためにも私の鼓膜のためにも。


「ホトリさん、カホにはこの短い間でもお世話になってるんです。私の世話係なんて面倒だろうに、ちゃんとこなしてるんです。他所者の私が言うのもなんですが、あんな孤立しているような場でもカホは純粋で真っ直ぐで強かです。昨夜の宴で救世の主として私の顔もある程度は知れてるでしょうし、こんなことは少なくなるだろうと思いますよ」


 私が話しかけるとジイさんがハッとして振り返る。


 あ、このジジイ私のこと忘れてたな。


 文字に書いてそうな程分かりやすい顔だ。この辺カホと似てるんかもしれん。そして恥ずかしそうに頭をぽりぽり掻いた。


「すまんの、ワシとしたことが、救世の主様のご相談をうけときながら。申し訳ない。先に軽く我が孫に叱咤しておこうと考えていたが、お待たせした」


「いえ、カホが大切にされているのだと知って安心しました。私の想像していたよりもカホの環境は穏やかな様ですね。良かったです」


 そう言葉で紡ぐと心臓にチクリと針が刺さった気がした。なんだろ、ちょっと息苦しい。


「……カヨ殿は寛大な方ですな」


 ジイさんの水色の目が、遠慮がちにほっとしている。水色ってヒスイの時も思ったけど色素薄いから太陽とかに弱そうだけど、綺麗だ。


「私自身が一番のクズ人間ですから。それに比べれば大概マシに感じますよ」

「ハハ、カヨ殿はご冗談が上手いとみえる。では先ほどのお話に戻りましょう。カホには後でまた言い聞かせなければなりませんので」


 冗談ではなかったんだけど、ジイさんが気分良さそうだし、それで良いかな。


 それにしてもまだ説教するつもりなんか。ようやるわ。


 カホは凄く嫌そうな顔でジイさんを睨んでるけど、無言だ。うん、ここで「えー」とか言おうものなら元の木阿弥だもんな。また勃発しかねない。


 ジイさんはもとの場所に戻って座り直すと、多少穏やかな視線を私に注ぐ。


「ではワシなりの考えを答えよう。カヨ殿は謝れないという機会を得たのじゃ。まずはそれに感謝し、次の無いよう精進されればよろしいかと。ここからは、ワシならばこうするという一例に過ぎんが、謝らなければ相手を傷つけることもない。機を見て、会った際に彼の者らの言葉を受け留める。例え苦言であろうと逆に礼だろうと、それを受けることが目に見えぬ罪滅ぼしの形となろうて」


 なるほど。何も形的には変わんないね。


 用は気の持ち様ってことか。


 簡単に謝って済ますよりも誠意はあるな。神視点じゃないと分からんけど、誰かが見てるって分かりやすくないぶん、自分がしっかりしないといけない。それでいいかもしれない。


「ありがとうございます。確かに、安易な目に見えるものに拘っていた気がします」


 うん、なんとなくスッキリしたかも知れん。気の持ち様だな。

 いや馬鹿にはしてないよ。実際スッキリしてるから。


「さて、本題に入りますか。聞けばカヨ殿もここに通いたいとおっしゃって下さっているとのことですが」


「はい、強くなりたいです。でなければ私は自分の身はおろか、ここに呼ばれた本意であるこの里を守れません」


「カヨ殿にとって、この界の戦争などどうでも良かろう。しかしながら我らは其方にお願い致す立場です。こうしておる今も教え子達は戦場へと赴いていきます。ここで教えることの一つ一つが彼らを戦場へと近づけるのです。ワシにはそれが哀しくて堪らん。

 ここへ通いたいということは、戦場への意思があるかとお見受けする。どうか、一刻も早く戦争をお止め願いたい。女の身の其方に戦場へ立てと申すのは気がひけるが、どうかワシの想いも汲み取っていただきたい」


 ホトリの目に涙が溜まっていた。

 自然が反応しているのかは判断つかないが、さっきまで覇気に満ちていた声が震えている。顔のシワがより一層濃く刻まれて見える。


 私は、軽はずみにここに通いたいって言ってしまったことを後悔する。確かに甘く見ていた部分があった。自分の身を守るためだけを考えてしまっていた。でも正直今はそれで手一杯だ。それでも答えは出さなきゃいけない。


 ここは悪く言うと子ども達を戦争に近づけてる場所だ。その学長だからどこか頭がイカれてなければ務まらないと思う。実際、感情が湧きにくくなければ、ホトリのような人間は精神を病むかも知れない。哀しみのみを感じるのも辛いだろうがな。


 考えてみよう。


 私に今示されてる道は、強姦と軟禁か、戦場へGOしかない。

 強姦と軟禁はセットだ。あんま考えれてなかったけど、ただ救世の主っていうチートを部屋に閉じ込めておくなんて勿体無いことしないはずだ。有効に使うにはそれしかない。


 つまり二択。


 どっちがマシかって言うと、戦場だ。こんな訳の分からん世界で子供なんて産みたくもない。産まれた子供も可哀想な人生を歩むだろう。そんなん嫌じゃん。


 それからホトリの願いも真っ当だし、その願いを聞き届けてあげたい気もする。私だってヒスイやカホが戦争で死にます、なんて流石に嫌だ。でも一方で戦場を甘く見ているわけじゃない。ここの戦争がどんなものか知らないが恐らく人が沢山死ぬ。場合によっては、というか高確率で私が人を殺すことになる。あの切羽詰まった状態ですら父親を殺せなかった私がだ。

 多分いざその時になったら怖気付くんだろうなぁ。や、今はそれ以上考えないでおこう。


 てかもう一つの考えられる道として、この里に殺されるってのがあるわけだけど、それはもう私じゃどうしようもないから放置で。


 よし、答えは出た。急ごしらえの考えだけど腹を括ろう。人を殺せるかは分からんが、なんとかするしかない。


 私が心の中で考えている間、長い沈黙があった。


 視線を上げてホトリをしっかり見据えると、心配そうに、それでいて後には引かないという決意の眼差しが返される。ホトリもこんな年の子供に戦場へ行かせたいとは思えないだろうな。


「すみません、ここに来てまだ日が経っていないこともあり、考えがまとまっていませんでした。色々と甘く見ている部分があったことをお詫びします。これから発する言葉もまた、甘い考えのもと出た答えであるでしょうが、変えるつもりはありません。私は戦場へ行きます。そしてこの里が望む通りに戦争を終わらせます」


 と、ホトリが情けなさそうに破顔した。笑顔だけどどこか悲しんでいるように見える。


「その言葉を聞けてワシは嬉しく思う。カヨ殿はまだお若い、甘い考えなど当たり前じゃ。ワシがこんなことを言ったから傾いてしもうたじゃろ。今はまだ、ご自分の御命をまず第一に考えて頂ければ結構じゃ。いつでもその決意、変更して下され」


 ホトリはまるで子供をあやす様に優しい口調だ。


 私に決意させといて、逃げ道を作っておく。

 このジイさん凄いな。まあ、結局ノラリクラリって感じなんだけどさ。良い人だ。


「カヨ殿、お好きなだけこの修練所で励んで下され。下の授業は確か午後から始まりましょう。一番上の班に入れさせておきましょう」

「えっ……」

「何か?」


 下のクラスなのは良い。けど、一番上の班にっていうのは、つまり上位陣に投げ込まれるってことか?それってついていけるのか?


「一番上の班に入ったら、私がついていけないかもしれません」

「ふむ?カヨ殿は火神の祝福を受けたと聞いたが……ヒスイ」


 火神の祝福?敵の神じゃん。

 私がそれに祝福されたのか?


 なんで?


 ジイさんが呼びかけると、ヒスイはさっと動いて耳打ちする。


 何を話してるんだろ……。


 ヒスイから話を聞いているのか、ホトリは険しい顔の後、呆れた顔になり、そして最終深いため息を吐いた。


 カホとヒスイを交互に見て、眉間にしわを作っている。


「お前ら、何を守ろうとしておる。お前らがまず第一に守護するのは救世の主たるカヨ殿だということは絶対に忘れるでない」


 微かに怒気を孕んだ言葉はヒスイとカホに注がれる。二人とも躾け中の犬のように、しゅんと大人しくしている。


「何も伝えないわけにはいくまい。カヨ殿は賢い、早まったことはせんだろう」


 お、なんか褒められた。


 それより、何かしら隠してるものを伝えろって言ってくれてる。なんだろう、何系かな。


「カホ、来い」


 ホトリがカホを呼ぶ。


 また喧嘩勃発するんか?

 と身構えたけど、雰囲気が違うな。


 カホも大人しく従って私の前へ行き、ホトリの隣に座った。カホの顔はかなり暗い。どうしたんだろ。


「腕を見せてやれ」


 ホトリに促され、カホが右腕の包帯を外していく。


 うげ、凄い痛々しい。


 包帯に包まれていた腕が露わになると、包丁みたいなものに何度も裂かれた後があった。皮膚が赤く腫れ上がって見えるけど、一応はふさがっている感じだ。薬か何かを塗っているのか、ところどころ緑の液体が傷口近くに塗られている。

 赤い肌と赤黒いカサブタ、そして緑の薬で余計グロテスクだ。


「これは、火神によって付けられた」


 ホトリは私がカホの傷跡を見ることを確認して告げた。


 火神……?水神といい、実在する感じなのか?


「すみません、先ほどから気になっていたのですが、水神、火神とは何ですか?実在する人でしょうか」


「そうか、伝承ではあちらの界には無い概念だと聞いたの。では一から話そう」


 概念……宗教でも実在でも無いってことか?


 ホトリは丁寧に教えてくれた。


 水神、火神などはこの界の自然を統べる神のことらしく、同時にそれぞれの部族の守り神である。水神は水滸族の、火神は火炎族の守護神。実在はするが、生き物ではない。言ってみれば超自然的なものらしい。


 で、さっきから何回もでている祝福っていうのがあって、これらの不確定な神の存在を認めざるを得なくなるものらしい。


「祝福とは言ってみれば能力のこと。それぞれの神は自分の守護する一族に一つの能力を授けるのじゃ。水滸族は読心の能力を持つ」


 へー。


 それでカホが読心の能力持ちだから水神に加護されてる感じなのか。火の顕現してるのに?チグハグだな。


 まあいいか。


「祝福には様々ある。産まれた頃より賜る者もおれば、数は少ないが神力によって唐突に賜る者もおる」


 ふむ、産まれた時から能力持ちの子のが多いわけね。


「神力っていうのは、奇跡みたいなものですか?」

「そうじゃ。それは滅多に起こらぬが、神が唐突にその者の感情をお気に召すことがある。その時に神力という奇跡が起こり、祝福を受ける」


 なるほど、普通じゃ説明つかないことが奇跡的に起こって、その際に能力持ちになるってことか。まあこの言い方だとあんまない事なんだろうな。


「分かりました。続けてください」


 ホトリは私の言葉に頷き、ゆっくりと顎を撫でた。伝え方を迷っているのだろうか。少し沈黙をして、口を開いた。


「カホのこれは神力の遺物じゃ。カヨ殿がここへ来てすぐ、この傷の血が、其方のもとへと飛んで行き、顕現が起こったとのことじゃ」


 ん?わからん。


 この傷は私がつけたってこと?こっちに来てすぐ気絶したと思ったけど、あの後何かあったのか。権限って、私ができたの?


 カホを見る。


 カホは、申し訳なさそうな顔をしている。私の視線を受けて、カホが頷いた。


「俺がお前の腕をずっと掴んでいただろ。その時、お前の怒りの感情に俺の血が反応したらしい。いきなり腕が裂けてその血がお前に吸い取られた」


 えーーマジか。全く覚えがないんだけど。

 てか腕が裂けるとか、神力て過激やな。


「そんなこと、全然言われなかったんだけど」

「お前に言ったら、考えすぎるお前のことだし、余計不安を煽るだろうと思ってたんだ」


 む、そうなのか。


 …………考えてみよう。


 カホの血が反応して吸い取られたってことは、水神もしくは火神の仕業だ。


 で、ここまで黙っていたってことは火神の仕業なのかな。能力貰ったって言っても心読めないし。火神から何かしらの能力もらってる感じになるわけか。


 敵の神に能力貰った救世の主って、どんな扱いされるかっていうのがあんま分からないな。でもま、単純に信用出来ないよな。しかも滅多に起こらないっていう神力を引き起こしてるんだし、敵の神が私を操って里を潰そうとしてるとか捉えかねない。


 うん、不安だわ。


 てかこれ、殺される路線の一途だろ。


「逆になんで殺されないんだよ」


 思わず聞いてしまった。


「救世の主など早々召喚出来るものではないのじゃ。今回とて十五年越しの召喚であった。次なるはいつになるか、見当もつかぬ」


 ああ、せっかく得たのに勿体無いって感じか。


「それに、救世の主が祝福を受けたなど、長い伝承の中で一度も無かったことじゃ。これはある種、我らに向けての伝言であるやも知れぬ。未だ争いを止めぬ我らでなく、戦争を止めるという役割の担い手である救世の主が祝福を受けたということには、何かしら意図があると思える」


 なるほど宗教的視点もあるわけね。良く分かんないけど難しい問題なわけだな。


 ヒスイが私の対応で割れているって言ってたのは、そういうことか。殺すか殺さないか、そんな物騒な話し合いをしてんだろう。


 これで私が常時火の部族の力を顕現する様なら、確実に殺されることになるだろうな。カホが断言してきたのもヒスイが安心してたのもそういう事か。


「いや、何で言わなかったんだ。不安云々以前の問題じゃねぇか」


 おっと、口が悪くなった。でも後悔はない。

 こんなこと、知ってたらいくらでも合わせられるのに。


「城では箝口令が出ておりました。監視の目も強く、そのような事は言えなかったのです」


 ヒスイが言い訳を述べる。


 うーん。私の素が安全かどうか量ってた感じだろうか。だとしたら私を生かしておきたい派のヒスイが喧嘩をした私に嫌味の一つや二つ告げときたい気持ちもわかるな。

 でも、私がもし修練所に行きたいって言わなかったらどうなってたんだ?いや、ホトリが言おうってならなかったら黙ったままだったのか。


 ………………。


 どうしよう、あんまいい気がしねぇ。


「カヨ、俺が悪いんだ。俺があの時お前の腕を持ってなければ火神はお前に干渉出来なかったと思う。だから、もしお前に危険があるなら絶対に守る」


 ………………。


 カホが言ってるのは多分本心なんだろう。自分が原因だって言ってるけど、真偽は不確かだし。責めるつもりはない。


 それに、守ってもらって当然とは思わない。あくまでこいつらは他人だし、会ったばっかりだ。それなのに守ってくれようとしてるのは単純にありがたいと思う。


 でも、何か、もうダメだ。私の中で一線が引かれてしまった。


 思うように感情が動かないのがもどかしい。端的に言うと、カホの言葉を陳腐な軽い言葉にしか感じられなくなってしまった。


 今まで乗れてた自転車に急に乗れなくなった感じだ。気にしなかった所がグラついて容易に乗りこなせない。


 意識してなかった、考えて無かっただけで私には誰かを信用するとかいうことが出来ないらしい。


 そうだ、私何も考えれて無かったな。カホもヒスイも守ってくれるようだけど、それをただ考えなしに信じてた。感情の部分が動かなかったから気づかなかったけど、前の世界の私ならもっと疑う。相対的に信用するんじゃなくて、絶対的に誰も信用しない人間だった。前の世界の私みたいに……。


 ああ、感情にストップがかかる。これも血が要るってことか。それは不便だな。


「ごめん、どうせカホは私の心読めるし正直に言う。カホもヒスイも信用できない。ちょっと昨日から色々あって自分を見失ってたよ。私は本来なら誰も信じない。……感情が動きにくいけど、元に戻る」


 そうだよな。何を勘違いしてたんだろう。私はまともじゃない。本来なら誰も信じないし、他人にどうこう言えるほどの人間でもない。


 カホもヒスイもホトリも嫌いじゃない。けど、好きになってもいけない。


 私はあくまでこの世界の異物だ。この世界でも私に味方はいない。


 カホ達はあくまで私を利用して戦争を止めたいだけだ。そのために私を殺さない道を選んでいるだけ。私を戦場に連れて行って戦争を終えさせるまで味方してるに過ぎない。どんなに優しくされようと丁寧に扱われようと、勘違いしちゃいけなかった。私がもし全てを投げ出して逃げたなら、この人たちは敵になるんだ。


 ああ、息苦しい。何か黒いものが頭を這いずっていく。


「あなた達が私を守ろうとしてるのは分かった。すごくありがたいとも思う。けど、殺されそうだったのにそれを隠すような人を私は信じられない」


「カヨ殿には辛いことをお話ししてしまいましたな。ですが、どうかカホとヒスイを遠ざけない様にして下され。いかに信用を失おうとも、カヨ殿を守るという一点だけは譲れませぬ」


「避けませんよ。私があなた達の望むようにするうちは味方だと認識はしておりますので」


「ありがとうございます。不甲斐ない孫に変わってワシが改めて礼を申させていただきましょう」


「いえ、こちらこそよろしくお願いします」


 私はホトリの言葉をうけて、ヒスイとカホ両方に目をやって頭を下げた。

 命を守ってもらうのに正式にお願いする機会をもててよかった。


 それでも、まず疑う感情を手に入れたい。じゃないと自分が自分で居られない。自分の身も守れない。このままだと勘違いを繰り返すことになるだろう。私の生きてきた世界も、ここから生きていく世界も味方は敵の予備軍に過ぎないんだ。


 顔を上げてみるとカホが何か言いたそうに口を動かしたけど、結局何も話さなかった。


 ごめんよ、カホ。

 この後に及んでだけど、今の心は何故か読まれたくなかった。

お付き合いくださってありがとうございます。

卑屈なカヨが辛いですが、次話からいよいよ修行します。


活動報告をちょいちょいあげていこうかと思っています。よろしくお願いいたします。


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