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現実逃避してたら異世界に連行されたようです  作者: wine
第二章 異世界で修行します
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修練所②

「其方が噂に聞く救世の主様ですか。ここ修練の門を叩く者もあとが絶えず、なかなか自ら参ることが叶わなんだ。此度はご足労の程頂きまして感謝申し上げます。このように直接ご挨拶賜るとは思うておらず、準備が整わずして無作法を強いることになりましょうが、お許し頂きたく存じます」


 私の目の前で、ユキナガ並みにガタイの良い初老の男が胡座掻いて座り、軽く頭を下げた。顔はシワができてるけど、白髪の混じっていない艶やかな黒髪をポニテにしている。見た感じ四十代だけど、歳わかんないな。ちなみに水色の目だ。顔立ちは整ってるし、若い頃明らかにブイブイいわせてそうな印象のちょい悪オヤジだ。そういう奴が結構な改まった姿勢で仰々しい動作を見せた。


 というか何処と無くヒスイに似てる気がする。いや、カホか?まあこういう世界って血縁関係濃そうだし、似てるもんなんかもしれん。


 酒焼けみたいなガラガラした声だけど、ユキナガみたいな陰険な雰囲気がない。声はデカイんだけど、口調が想像以上に穏やか〜な感じだ。よくまあ流暢にポンポン丁寧語?謙譲語?(……ワタシ日本語ヨクワカンナイヨ)が出てくるもんだ。


 それにしても、こっちの界来て初めて最初から丁寧に挨拶されたな。

 ナガレは救世の主って知らないからフランクだったし、それはそれでいいんだけど。それ以外の、私を救世の主って認識しておきながらの私への対応って……強制連行、強姦指示と偽装強制、軟禁の脅迫、逆ギレで扇子投げつける、だからな。


 え、改めて考えるとまじ最低じゃん。今までのって何なのさ。まあ、それはいいや、忘れよう。納得しないが受け入れる。


 だからか、ユキナガpart2みたいな奴がくると思ってただけに正直拍子抜けだ。一応礼儀的に、この部屋に入った時点で顔は晒している。


 その代わり、後ろに座ってるカホがこの部屋来る前までに妙にソワソワしてたのが気になってしょうがない。


 多分このおっさんなんかある。


「と、まあ、堅苦しいのはこれくらいでいいか?ヒスイ」

「いえ、名乗っておりませんので」


 おっさんがヒスイを見て頭をボリボリかきながら投げやりに声をかけた。すかさずヒスイは冷たい声でジジイに注意している。


 このジィさん、ヒスイに弱いのか?


 てかあの挨拶、猫かぶってたのな。

 しかも、その被り物を一瞬で脱ぎ捨てたな。


 んでもって私じゃなくてヒスイに聞くのかよ。……別にいいけどさ。私も心の中でおっさん呼ばわりしてるし。


「ワシは修練所の学長に勤めておる、ホトリだ。その後ろにおるヒスイとカホの祖父に当たる。よろしく頼む」


 若干砕けた口調になったけど……うん、それでもまだ丁寧だ。少なくともユキナガとヒスイの百倍はマシに感じる。ガラガラの声も割と聴き心地は良い方だ。


「私は加賀見香代と申します。カヨで結構です。よろしくお願いいたします」


 相手が礼儀を尽くすなら、私もそれなりには返そう。ホトリの正面に胡座かいた状態だったけど、ホトリがしたよりも若干深めに頭を下げた。


「ふむ、噂に聞くよりも穏やかな方のようだな。聞けばユキナガに牽制してみせたとか、名士五人を相手取ったとか。なかなかの闊達者だと思っておりましたが」


 おふ、どんなけ噂広まるの早えんだよ。あ、ユキナガやヒスイとかが、直でチクったのか?


「ええ、少々やり過ぎた感もあって反省しているところです。夕刻には彼の五人へ詫びに行く予定です」

「フハハハッ」


 ?!


 ホトリがいきなり大笑いしだした。

 私はただ呆然と目を丸くしてこのジジイを見つめていただろう。だって一応私真剣に話したんですけど。大笑いすんなよ。


 いい加減気が狂ったか疑いだしたところで、ジジイは笑い声を止めた。と同時に猛々しい鋭い眼光と未だに抑えきれない笑みが浮かぶ。


 なんて言うか、ちょっと身体が強張るのを感じる。


 あー、この感覚、多分怖いって感情が抑えられてるわ。これ、感情が抑えられてなくてまともに見れば流石に怖い過ぎて逃げるかもしれん。まるで肉食獣だ。


「救世の主様のお気に触れるということは大罪もいいところ。戦士にあるまじき所業ゆえ、そういった制裁もまた然りであろうが、ちと酷ではあるまいか」


 ん?

 よくわからん。


 カホとかヒスイの助言が来るかと思ったけど、何もない。これは聞くしかないな。


「どういうことでしょうか?酷とは、私が直接詫びに行くことでしょうか」

「もちろん、そうです。負けた戦士に見舞いに行き、詫びを言う。これは戦士への最大の侮辱でございます。それにそのことが周りへ伝わるとなると、高貴の身なれば低俗の元へと落つるでしょう」


 マジか。


 まあ確かに、その感覚は分からんでもないな。あんま考えてなかったけど、私だって負けた奴に謝られるのってなんかちょっと癪だなて思うだろうし。でも身分が落ちちゃうのか、それは転落人生半端ないことなるな。しかも、氷使いて誇り高いからな、嫌だろうな。最悪復讐され兼ねねぇ……。


 ダメじゃん、味方が敵になるじゃん。


 だからヒスイは最初あんな私を止めてたのか。途中からノリノリだったけど。多分それだけの罰は良いだろうとかいう判断か?あいつ途中からどう考えても私を贔屓してたからな。


「それは存じませんでした。私はここでの常識をまだまだ知りませんので、危うく彼らの顔に泥を塗るとこでした。ご教示感謝します」


 素直にお礼を言う。


 知らないとかで済ませらんないとかだったな。危うく復讐されるとこやん。


 てか、教えろよヒスイとカホ。ヒスイはともかく、カホは何で黙ってた?私がそんなん知らないの分かるだろうにさ。


「しかしながら、私は彼らに対して若干の後ろめたさを感じています。謝罪を述べられないとなると、私としても落としどころに困ります。こちらではどの様な流儀があるのでしょう?」

「フム、カヨ殿は何に対しての後ろめたさをお持ちかお聞きしてもよろしいかな」


 ジジイ、……いやホトリさんは意外にも親身に聞いてくれる態度を示してきた。今までのような、話がついてるなら要らないとか、逆に多少無理して私の言い分を通すとかじゃない。うん、こういうのしてほしかったんだと思う。


 あれ、この人結構ちゃんとしてるんじゃない?カホがなんか警戒してるから構えすぎてたかもしれん。


「私は、カホに料理を作ってもらったんです。そして、それを運んでいる最中、彼らがカホに絡んで、お盆をひっくり返し、当て付けの様にその料理を踏み荒らしたのです。彼らはカホを罵り、いやがらせをしていたんです」

「ふむ」


 ホトリは適度に相づちを打ちつつも、チラッとカホを睨んだ。一瞬だったけど、何か意図のある感じがする。


 まあ構わず話すんだけど。


「私は、カホが理不尽に絡まれていること自体には特に関心がありませんでした。異界から来た私にとっては正直どうでも良いことだったのです。私には正義感も無ければ良心もないと自負しております。今回も、私にある程度の良心があるならば、同じような結果だとしても、この様な気持ちにはならなかったでしょう」

「どういうことですかな」


 ホトリは若干目を細めて私を見つめる。


 確かに理解し難いだろうなぁ。説明するための語彙力が欲しいや……。ちゃんと伝わってるかなぁ。


「私は料理のみに気を取られ、カホに対しては特に怒りも何も湧きませんでした。ただ、私の分である料理を踏み荒らしたという私事にのみ怒り、あの様な野蛮に走ったのです。対して、あの人たちは戦に行き、白族の者に恐らくは仲間を奪われたのでしょう。そういった経験の後に、カホという存在を知れば、やり切れない思いをぶつけてしまうものでしょう。その行為を正しいとは言いませんが、少なくとも私よりは正常だったのだと感じたのです」

「それで、謝罪をしに行かれると?」

「はい」

「うーむ」


 ホトリさんは、私の話を全部聞き取ると腕組みをして眉間にしわを寄せた。何か考えてくれてるぽい。


 そして、数秒後、目を開けた。


「ちと済まんが、失礼する」


 そう言って立ち上がる。


 何だろう、何するんだ?


 ホトリさんは立ち上がると、私に向かって歩いてくる。いや、私を通り過ぎた。


 何?外に出んの?


 そう思ってホトリを目で追いながら振り向いた瞬間――


ドゴッ


 壁に殴りつけるような音が響いた。


?!?!


「いっっっってぇぇええ」


 カホの苦痛の声が同時に上がった。頭を抑えて転がり回るカホ。


 私は状況について行けず、それを見つめるしかできない。


「こんのたわけがぁっ!」


 鼓膜がビリビリと悲鳴をあげるような、しゃがれたホトリさんの声が部屋中に(もしかしたら普通に外まで聞こえそう)響き渡る。


「やられたらやり返せとあれ程言っただろうがっ!お前が不甲斐ないからこの様に救世の主様のお手を煩わせる事になったんじゃぞ!」


 や、え、あれ?そんな話ししてねぇぞ!

 あのジジイ、人の話を聞いてるふりして聞いてなかったのか?!


「何を黙ってやられたままにしておったんじゃ!」


 んん?……確かに、カホは最終ちょい怒り気味だったけど特に反抗してなかったな。


「し、しょーがねぇだろ。城内は暴力行為御法度だし、救世の主の前でそんなことしたなんてなったらヒスイに色々……」

「黙らんかっ!」


 また特大級の声量が部屋に充満した。そろそろ耳がキーンてなってる。


 耳ふさぎたいけどそしたらカホの声聞こえないしな。状況分かんなくなるのは嫌だ。


 それにしても、カホの言い分は確かにそうだろうな。ほぼアウェーなカホがあいつらに手を出したら、その時点で問題大きくなりそうだ。どっちみちカホには耐えるって道が最善だった気がしてくる。


 それにしても、ホトリのジイさん、自分で聞いておきながら黙れは酷いでしょ。


「そんなことは、やってからいうもんじゃ!不甲斐ない自分を救世の主様の眼前でさらして、恥ずかしくないのかっ!頭は使う時と使わぬ時があるんじゃ」


 ……ふむ。


 つまり、反骨精神旺盛になれと叱咤している訳ですな。まあ身内だしな、許せんこともあるんかもしれん。


 や、おい。一つ言わせてくれ。……後にしろよ。気持ちはわかる。頭に血が上ったんだろうけどさ。私が言えた義理じゃないのは分かるから、別にいいんだけどさぁ、何か真剣に心の内を明かした私としてはいたたまれないわけよ。


 ん??てか何で怒れてんの?


 あ、前の救世の主の近縁か?百三十年前ならまだあり得るな。

 そうか、若干チートの影響が残ってるわけね。何処となく親しみやすい声もそれに関係してんのか。今はうるさいんだけどな。


「うっせ!ジジイに頭使えとだけは言われたくねぇよ!」


 頭の痛みが若干引いたのか、カホも負けじとホトリジイさんに反論した。警戒してか、距離を取って構えている。


 ……なるほど。これは結構日常的にあることなんだな。ヒスイがすっごく冷めた視線を二人に注いでいるのを見ればなんか理解できた。だからカホが嫌がってたわけか。

 私もつられて警戒して損したな。言ってみれば身内のゴタゴタに巻き込まれた感じだ。


 とりあえず、勃発した以上ひと段落つくまで見守るしか出来ない。私にはこのおっさんを止められることは思いつかないし、ヒスイが止めないのを見るに、無理なんだろうな……。

 いつでも音声攻撃に耐えられるように耳に手をセットして、待機しておこう。

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