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現実逃避してたら異世界に連行されたようです  作者: wine
第一章 異世界に連行されました
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逃避

「……詰んだ」


 私、加賀見 香代(かがみ かよ)は、思わずポツリと呟いてしまった。さすがの私も限界だと悟ったんだ。

 まあ、例えるなら、明日提出の夏休み課題を全く手付かずで残した状態で、風邪を引き頭が働かずにただただ熱に浮かされて絶望を噛み締めてる感覚だろうな。そんなこと、したことないけど。


 薄暗い部屋の中、目の前には40代半ばの男が仰向けで倒れている。

 私はその男に跨った状態のまま、身体の底から溢れ出るかのような熱を宿して荒い息でゆっくりと状況を整理していく。


 目の前にいる男は、私の父親だ。


 血の付いた握り拳を解いて、乱れて脱げかけた自分の制服のシャツをしっかり羽織る。ボタンが幾つか弾け飛んで、所々引き千切られた跡がある。ヨロヨロと立ち上がって、男を見下ろした。

 多分、目の前の肉親は、気絶している。流石に死んでは無いはず。


 何から考えようか……?


 まず、私は小学校に上がる前に母親をなくした。正確には母親が兄だけを連れて私を置いて家から出て行った。それを知った父親がやったことは、対外的に母親と兄は死んだことにするというものだった。ご丁寧に葬式まで上げていた。父親が迫真の演技で泣く様は、当時の私には理解出来なかったけど、確かに私たちは母親と兄を亡くしたのだからと、私は当たり前のように泣いた。でも、学校に入り、歳を重ねるにつれて、母親が何故兄を連れて出て行ったのか何となく分かるようになった。


 父親は浮気をする。父親がいる時間には、知らない女がいつも一緒にいる。3ヶ月以上、同じ顔を見たことがあるだろうか?多分、ない。


 そして典型的ながら、たいして才能もないのに賭け事をする。だからいつも我が家は金欠で、定期的に送られてくる祖母の給金を隠し持ち、私は食いつないでいる。


 最後に、虐待をする。正直、何故母親が兄を連れて行ったのに、私を置いて行ったかの理由はこれだろう。私はいわゆる、生贄だ。母親が子供のどっちもを連れ出せば、父親の逆鱗に触れて地の果てまでも追われることになる。でも私という生贄が残ることで、兄と母親は自身を守ることに成功したんだ。


 テレビさえも見せてもらえない私がDVなんていうカテゴリーがあるのだと知ったのは、小5の時だ。相談窓口なるカードが配られた。同時に自分の状況がそれなのだと分かるけど、時期の遅さに鼻で笑ってしまった。なるほど、道理でクラスメイトの奴らは嬉々として家に帰る訳だよ。家に帰るというのは、生死を分けるもの。それが普通だと思っていたのに。あいつらは違ったんだ。


 父親が女を連れていない時、私の頭の中には危険信号が鳴る。何度蹴り飛ばされたか分からないし、意識が飛ぶまで殴られるのも多々あった。だから、出来る全力をもって父親の連れてる女に媚を売り、毎日来るように仕向けなきゃならない。まあ、女がいても殴られる事のが多いけど、まだ穏やかだよ。


 でも、私は生き残ってこれた。当たりどころとかの奇跡的な部分もあるけど、父親の目を盗んで空手の道場に通っていたお陰ってのが大きい。小2の頃から通りがかりの、昔名の知れたらしい師範に教えられていて、最近じゃ父親の攻撃程度なら当たる直前とかに身を引いて威力を殺してる。一応は殴られて痛がる振りをしておかないと長引くから、演技力も磨かれてる。


 と、身の上の不幸話(途中から自慢話か?)はここまでにしたいけど、これからが本題。


 そんなこんなで、私は中学2年生になった。栄養不足なのか個体差なのか知らないけど、成長の遅かった私は、徐々に身体に変化が起き始めた。背も伸びたし、大人に近づいていく。そして、父親が今までとは違った目線を私に向けるようになりつつあのに気づいた。ある程度大人になった思考で、常に近くで見てきた私には、その視線の意図を容易に想像できた。


 そして今日、襲われた。私は最初、されるがままになろうと諦めていた。どうせ自分は父親にとって都合のいい人形でしかない。此処を出ても結局やることは一緒なんだと自分に言い聞かせた。クラスメイト曰く、家出をしてもそういうことをしないと生きられないらしい。よく分からないけど、確かにアルバイトも年齢的には出来ないし、いわゆる売春が手っ取り早い気もした。


 でも、服を引き千切られ、胸を直に揉まれた瞬間、意識が飛んだ。そして気づけば、このザマだ。


 身に余る力は己を滅ぼす……。私の今の状態か。これで父親が起きれば私は殺される。逃げてもきっと追ってきて殺されるにちがいない。だからと言って、保身のために此処で父親を殺す……なんてことも出来ない。こんな奴の傍にいればこうなることは遅かれ早かれ分かっていた。結局、何の覚悟もないまま過ごしてたんだ。


 ゆっくりとその場を離れて、家の外に出た。時刻は夕方。梅雨のせいで土砂降りの雨と黒い雲で視界が覆われている。私は構わず裸足でその中を濡れながら歩いた。とにかく頭を冷やして冷静になりたい。夕闇の中、アスファルトを踏みしめて途方に暮れて彷徨う。


 気づけば夜になっていた。雨は相変わらず降り続いている。とにかく、逃げなきゃいけない。なんとなくそう思う。まだ生きていたいし、人も殺したくない。


 それにしても、ここは何処?


 辺りを見るけど、見覚えがない……というか、何処かの山の中だろうか。木が周りを囲んでいる。山とかこの街にあったっけ。見たところ公園とかでもなさそうだし。立っている道はアスファルトで、上へと続く階段が目の前にある。後ろを振り返っても夜の暗さのせいか、真っ暗。でも不思議と階段の方はぼんやりと目に映る。なにこれ。


 来た道を戻ろうかと迷っていると、階段を降りてくる足音と人の話し声がした。階段の上の方を見ると火の玉の様な小さな点が二つ揺れている。


「……なあ、本当に救世の主なのか?」


 少し掠れた男の声が小さく聞こえてきた。


「里の導師が占いに出ていたと言うんだ。白族に現れて我が一族が得られないはずがない」


 大分声が近づいてきている。こっちも男だけど静かな声音だ。火の玉は提灯の様な物で、声の主達が掲げながら降りてきている。

 私は隠れようかと一瞬思ったけど、身体が動かないのに気づいた。


「……え?」


 声は出る。けど、彼等を見上げた姿勢のまま指一本動かせない。何が起きてんの?

 声の主達が私へ視線を向けて訝しがっているような顔をした。


「これが救世の主か?嘘だろ」

「……私も流石に少しばかり疑わしく思えるが、見知らぬ服装をしている。やはりこれがそうだろう」


 救世の主?なにそれ……ていうか、彼らの服装、なんか変。和服の、甚平の様な黒い服を着て、手には提灯。腰には小刀みたいなものを指してて、差してる傘も唐傘お化けでお馴染みのあの昔風の傘だ。なんて言うか、和風過ぎる。

 2人はさらに階段を降りて私のすぐ近くまで来た。でも私のいる位置までは降りない。数段上の市で立ち止まった。


「おい、お前が救世の主か?」


 よく分からない呼びかけと高圧的な態度にムッとした。掠れた声の方を見る。え?唐傘の影で隠れて見えなかったけど、赤い目してる……カラコン?生意気そうだし……不良がコスプレしてんのかな?

 私が返事しないでいると、そいつはイラついた様に顔を歪めた。


「おい、聞いてんのか」

「何でそんな意味不明な問いに答えなきゃいけないの?」

「あ?ていうかお前、女か」


 赤い目の奴は、無遠慮に私を舐めるように見つめる。何この態度。ムカつく。赤い目の奴がもう1人に視線を移す。


「どういうことだよ、女とか聞いてねぇ」

「……私も救世の主が女とは思わなかった。だが、この鏡の界に居られるということは、そういうことだろ」


 もう1人の方は静かな声と同じくらい冷めたような水色の目をしている。……こっちもカラコンしてる。流行ってんの?こっちは黒髪を長く伸ばしていて、後ろで括っているらしい。結構若い見た目なのに長髪の男とか初めて見た。多分2人とも私と同い年くらいだ。


 2人とも無言で私を値踏みするように眺めまわす。


「救世の主って何のこと?」

「あなたは、何故ここへ?」


 水色の目の奴は私の疑問をスルーして質問を被せてきた。さっきから、この2人カチンとくるな。


「何故って……歩いてて気づいたらここにいただけ」

「方法ではない。理由を聞きました。何故、ここにいるのですか」


 水色の目の奴は不機嫌そうに、まるで格下を見るかのように見下ろしながら聞いてきた。なんて言うか、馬鹿にされてる?何で初対面でこんな態度取られなきゃいけないのか……。


「逃げなきゃ殺されるからだよ」

「意味がわかりませんね」


 私の答えに相手は、水色の目を細めてより不機嫌な顔を見せた。何?私なんかあんたたちにしました?関係ないでしょ?


「とにかく、連れて帰りましょう。導師に見てもらう」

「……まあ、それが手っ取り早いな」


 赤い目の方も同意している。連れて帰る?私を?


「ちょ、ちょっと、どういうこと……て、何これ」


 ここでやっと私は何で自分の身体が動かないのか理解した。なんか、雨水が下に流れ落ちずに私の身体に巻き付いていた。色々と現実的じゃない。夢?


「余計なことをされては困るので、拘束させてもらいました。これから私たちの界まで来てもらい、あなたが救世の主であるか確かめさせてもらう」

「な、何勝手にそんなこと……え!?嘘」


 私の意思には関係なく、身体が階段を昇り始める。どういうこと?!


 私は訳も分からないまま、盛大に悪態を吐いていると雨水が口を塞いできた。結局逆らうこともできず、階段を昇りきる。


 目の前には大きな姿見の鏡があった。赤い目の奴が鏡に近づいて何かブツブツと言う。すると私たちを映していた鏡が渦巻き始めた。赤い目の奴が徐に鏡に手を当てて……いや、鏡に手を突っ込んだ?!もう、何が何やら……理解が追いつかない。こいつらは私にこのトリックを見せたかったのか?


 そんなことを考えていると、赤い目の奴が私の腕を掴んで鏡に連れ込んでいく。えー……何だこれ。もう、考えるの放棄する。とりあえず、結果的に言うと鏡の向こう側は、森だった。森から森に移っただけだから特に何も言えないけど。鏡を潜る瞬間、何かが変わった。まるで何かのスイッチがオンになったような感じ。このせいで私は、後々大きな後悔を抱えることになるんだけど、この時は分からなかった。

私が小学生の時に考えていた、若干中二病入った設定の作品です。

拙い箇所はかなりあるかと思われますが、努力します。

もしよろしければご感想、ご意見等いただけましたら幸いです。よろしくお願いします。

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