悪役令嬢、第二の人生は好き勝手に生きることに決めました
フィリア=シャーロット。12歳。
彼女には産まれたころからもう一つの記憶を持っていた。カタオカヨリコという女性の記憶だ。20歳という若さで事故死したようだ。
これは俗にいう前世の記憶というものらしい。これは私の中にいるもう一人のフィリアに教えてもらった。
しかし、私はこれと言って何か思うところはなかった。今の私は”カタオカヨリコ”という日本人ではなく“フィリア=シャーロット”という伯爵令嬢である。そもそもこの世界はカタオカヨリコが生きていた科学が発達し魔法などは迷信などと言われてきた世界ではない。この世界は魔法が存在し、人間ではない生き物――森人族や精霊、小人や妖精などがいる。
なにこれ超ファンタジーな世界じゃん! こんな世界で第二の人生歩めるとかラッキー♪
……と、思っていた私を今、ものすごく殴りたい。
「この子が君の婚約者だよ、フィー」
「初めまして。エルレクト公爵が子息、イルドレッドです」
そう言ってほほ笑む金髪翠目の眉目秀麗な男の子。見た目は王子様然としていて結構好きな容姿ですが、私の顔は赤ではなく青に染まった。
確かに、予想はしていた。だからって、こんな展開望んでなんていない。
私の婚約者として紹介されたイルドレッド=エルレクト。この名前にはとても聞き覚えがあった。しかし、それは今世ではない。前世の記憶で、だ。
見覚えもある。もう少し成長した姿で、騎士服を身にまとい少女に跪き手の甲に口づけを行うスチルが―――…。
ここまで思い出した私は倒れそうになるのを伯爵令嬢として培ってきたプライドと理性で必死に抑え込んだ。少しでも気を抜いたら本当に倒れてしまいそうなほど、衝撃だったからだ。
どうやら私は、ただのファンタジーな世界ではなく、乙女ゲームの世界に転生してしまったようだ。しかもよくある悪役令嬢に成り代わりという形で――――。
その後、イルドレッドと何を話したかはよく覚えてない。彼が帰った後、気が緩んだ私はその場で卒倒し、しばらく寝込んだからだ。
そして目を覚ました私は、半身を起こした状態のまま頭を抱えた。
……ジーザス! 私、何か悪いことしましたか!?
確かに。確かに私は善人とは言えなかった。事なかれ主義だし、私に害が及ばなければ見て見ぬふりをした。でも、たまにしかしなかったがボランティア活動だって行った。募金もした。
それだけじゃ足りなかった!? むしろ履歴書の空欄を埋めたいという邪な考えがアウトだった!?
と、一人ベッドの上で身もだえ嘆いていた私。最終的に開き直ることにした。最初から可能性には気づいていたし、一度死んでいるんだからこの程度、取るに足らない。むしろ笑止。
前世ではこういったジャンルの書籍をそれこそ読み漁った私である。その主人公たちはいつだって開き直っていた。
そもそも、考えることさえ無駄なのだ。産まれてしまったことはもう変えられないし、私はここでフィリアとして生きる以外にしたいこともない。
とりあえず、まずは婚約を解消することが先決だ。このままエルレクト公爵家と縁続きになるとまずい。先にある王家を二分する争いで中立の立場でいられなくなるからだ。これだけは避けなければならない。じゃないと早死確定だ。
あとフィリアは典型的な悪役令嬢だが、もともとのスペックは非常に高い。何せ両親の素晴らしい遺伝子を余すことなく継いでいるのだ。ゲームでは能力の使い方を間違えてはいたが。しかし、そのフィリアは今は私である。それなら、軌道修正はできたも当然だ。後は研鑽を積み、さらなる高みを目指すのみである。
目指すは、大往生。老衰で人生に幕を下ろすことだ。
……って決めたのに、なんで次期公爵様が家に来るかな?
「僕はフィーの婚約者だよ?会いに来ちゃダメなの?」
だめだよ、悪いよ。むしろ現在進行形で帰ってほしいよ。
見た目が天使のような美幼女でも、中身は三十路手前のオバサンなんだよ!
いくら身体年齢同じでも、中身が中身だから犯罪してる気分なんだよ~。
短編で書いたつもりなんですが、要望があったので連載したいと思います。
ただいま書きためていますので、もう少々お待ちを!