レコード8
あれから、何時間経過したのだろうか。
つい先日まで俺は普通の、ちょっと悪ぶってみたい感じの高校生だったはずなのだ。
無理だったけどな。
そんな俺は今、アフロの集団に追い回され現在逃走中である。
「のわーっ!!」
何でこんな事になってるのかって言うと、今俺の右隣りを走っているこの筋トレ馬鹿が騒ぎを起こした上に水を頭から被ったからだが、それだけとも言い切れない節もある。
「待てーっ!」
「逃がすな!!」
「狼を殺せーっ!!」
俺達は、文化や習慣の違いを甘く見ていたのかも知れない。
「どうすんだよこの筋トレ馬鹿っ!?お前のせいだぞ!!」
「仕方ないだろう!?なんかあの変な女に似た、怪しい奴が居たんだよ!!」
「どこに!!」
不毛な言い争いをしている内に追ってのアフロがまた増えた気がする。
これは運良く乗り切れたとしても、トラウマになりそうだ。
マジでアフロ怖ぇー…。
「もういっそ…雅を囮に振り切りましょう…」
「柏木さーん!?死にそうな顔して危ない事言わないで!!雅も顔青くしてるから!!」
砂利を蹴飛ばしながら大通りを過ぎ、路地に逃げ込む。
何度か細い道を曲がった所で立ち止まり、俺達は背を丸めて荒い息を整えた。
「まいたか…?」
「さぁ、どうだろうな」
顎の下の汗を拭いながら、雅はそう答える。
騒いでいる声がまだ近い。
このままでは時期に見つかって、また追い立てられるだろう。
「…のわ!?」
何かいい手は無いか考えながら壁に背を預けると、その壁は俺の体を受け止める事なく動いき、柏木さんと雅もろとも建物の中に引き込んだ。
「…ちょー痛いです」
「一体どうなってるんだココは…」
埃っぽい部屋のに投げ出された俺達は、それぞれ不満を言いながら手探りで起き上がる。
しかし、俺達は起き上がって直ぐに硬直した。
何故なら、アフロではなくパーマと言った方が自然な感じの、藤の花がたわわに垂れ下がったような毛色の少女が、ロウソクを片手に立っていたからだ。
少女は俺達をその藤色の大きな瞳で俺達を見つめ、カラフルかつボーイッシュな格好で不思議そうな顔をしていた。
「君たちもしかして…」
少女がそう口にした途端、俺の喉がゴクリと唸る。
「モデル志望だね!?」
「…はい?」
俺達が困惑する中、少女は目を輝かせながらペンキのついた手を合わせて喜ぶ。
「こうしちゃいられない!ちょっと待ってて下さいね!」
少女はそう言うと、縞模様の長い靴下を履いた細足をバタつかせながら奥に消えた。
茫然と立ち尽くしていれば、程なくして同じ髪色の女性を引き連れ、少女は戻って来た。
「お姉ちゃん、こっちこっち!」
また雰囲気の違う、バーでカクテルでも飲んでいそうな大人っぽい女性が俺達を見る。
「ほらね!だから言ったでしょ、きっとお姉ちゃんの才能をわかってくれる人がいるって!!」
「………。」
まったく持って置いてきぼりな俺達は、終始どう反応していいか困惑する。
「着いてきな」
切れ目のお姉さんがそう言うと、他に行くあてもなく、うかつに外に出れない俺達は黙って後に着いて行った。
「どうぞ」
「どうも…」
こじんまりした奥のテーブルについた俺達に、さっきの少女がお茶を出してくれた。
しかしコップやエプロンまで、何種類もある飴玉のようにカラフルだ。
そう言えばここは異世界なんだよな、どうして言葉が通じたり、色々使っているものは同じなんだろうか。
案外そういうものなのか。
素朴な疑問を浮かべながら、少女が奥にまた消えるのを目で見送ると、タイミングを計らったかのようにお姉さんが言った。
「で、あんた達…何処の日本からココに何しに来たんだい」
その言葉に、俺の思考回路が一瞬止まった。
「…えぇ!?」
そして一息置いて、大きく声を上げる。
お姉さんは気にせず立ち上がると、俺達を見下ろしながら威圧的に言い放った。
「あたしはアキツ、レコードキーパーだ。訳あって他の奴には隠してる。言っとくけどあんた達、ウチの妹に手ェ出したら殺すよ。特にそこの人狼!!」
「…オレ!?」
指名されて驚いたからか、雅の耳がピンと尖る。
「何でまたオレなんだよ!?」
「あんたには恨みはないけど、国民性ってやつさ。この世界の人間は昔、人狼に苦しめられて来たから、わかっていても噛み付いちまうんだよ。でもウチの妹はボケボケでね…」
アキツお姉さんの深いため息が、部屋の空気を重くする。
そう言えば妹さん、さっき普通に雅にお茶出してたような…。
「とにかく!手ェ出すんじゃないよ!!」
そう念を推されながら、その後アキツ姉さんのどうでもいい話を延々と聞かされた。
奪われたレコードを追う旅は、最初の世界から前途多難で波乱の予感がする。