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漆黒のレコードキーパー  作者: 辻村深月
6/17

レコード6

なぜ、こんな事になったのだろう。

右脇に柏木さん。

左脇に雅。

二人に挟まれて座りながら、俺は眉間にシワを寄せて考える。

そしてこれまでの経緯を再び振り返っていた。





遡ること数時間前。

雅が赤いツノの生えた少女に囚われた頃だ。


「動かないで下さいね。じゃないと本当に、何をするか分かりませんよ?」


少女は苦しそうに身じろぐ雅の首に腕を回しながら、そう繰り返し言い放った。

ちょっと羨ましい…と言うのは止めて置こう。


「雅から離れなさい!いえ、むしろそこを代わりますお嬢さん!」

「柏木さーん!思っても言っちゃダメですそこ!てゆーか貴方なんで女装してるんスか!」


俺が必死にそう叫ぶと、少女はクスクスと笑いながら何とも色っぽく雅の変形しま獣の腕をなぞる。

そして手の甲まで来ると、そこで思いっきり爪を立てた。


「ぐっ…ガァァ!!」

「これは!?」


直後、せき止められていた水が溢れ出すように、緑色のレコードが火花のようにその辺り一面に飛び散る。

騒音が飛び交う中で少女は、雅の腕からリボンのように連なる一際輝くレコードを取り出す。

手の平の上で丸まったそれを、少女は迷うことなく飲み込んだ。


「本当に食べた…」


俺がうわごとの様に呟くと、少女は気を失っているらしい雅を手放し、舞い上がる。


「待ちなさい!」


柏木さんがすかさず杖を何度か回しながら、火の玉を作り少女に向けて放つ。

しかし、少女を取り巻く閃光が記号のような機会模様を描き彼女を守った。

少女は貴婦人のようにスカートの両端を持って俺達に頭を垂れると、瞬く間に消え失せた。





そして、こうなった。

目の前で何かドス黒いオーラを放ちながら、鈴羅緒が俺達三人を見下ろす。

俺達は彼女の前に正座をしながら、各々肩身が狭そうに彼女から目を背ける。


「まったく何て失態だ、目も当てられないよ。大の男が三人も揃っていながら、賊を取り逃がした上にレコードまで奪われるなんて!」


鈴羅緒はその大きな輝く瞳に怒りを映しながら、口は動かさずテレパシーで男三人をたしなめる。


「特に真白と雅!君達が不甲斐ないから、遙人まで巻き込んでしまっているんだよ。少し自覚するように!」

「まてよ鈴羅緒!元はと言えばこいつが居なけりゃ、俺はあんなヘマなんかっ!」


雅の抗議の声に対し、ピシッと鈴羅緒の大きな尻尾が地を蹴ってそれを牽制する。


「この後に及んでみっともないよ雅!あんまり聞き分けが無い男は頭から食べるよ!」


そう告げた鈴羅緒に対し、威勢良く身を乗り出していた雅は身を屈めながらおずおずと体を元の位置に戻した。


「すまない鈴羅緒。元はと言えば私が最初にレコードを奪われたばっかりに、こんな事になってしまって」

「真白、しおらしくしてもダメだよ。僕には全て見えているんだからね」


鈴羅緒がそう言うと、柏木さんは白々しい素振りを視線を泳がせた。

俺が不思議そうな顔をしながら二人を交互に見ていると、鈴羅緒が目を細めてため息をつきながら説明してくれた。


「真白の世界では君のところとは逆でね、男の方が着飾るんだよ。でも彼はちょっと行き過ぎたところがあって…。いつものように何時間も鏡を見ていた隙を突かれたんだろう?」

「こういう時、何でも分かっちゃう鈴羅緒の力は嫌いです」


まったくもって悪びれない柏木さんに、鈴羅緒はまた深いため息を吐く。

そして鈴羅緒は傍らにいる二人を交互に見た後、その目は俺に止まった。


「うん、それが良いかもね」

「はい…?」


俺は何だか嫌な予感がし、冷や汗をかきながら小首を傾げる。


「皆んな、良く聞いて。今日から君達には三人一緒に異界に渡って、奪われたレコードと賊の操作をしてもらうよ」


鈴羅緒がそう言うと、嬉しそうな声と不平不満の声、そして有りっ丈の絶叫が交差した。

もちろん絶叫したのは俺だ。


「ちょっとまって鈴羅緒、何で俺も!?俺関係ないんじゃなかった!?」


俺がそう問い詰めると、鈴羅緒は困ったようにまた目を細めた。

そして嬉しそうに浮かれたり何やら準備体操を始めた二人を尻目に、俺の耳元に形だけ顔を寄せると、テレパシーで囁くように言う。


「遙人。君はまだ二人のように各々の特殊な力を引き出すどころか、元いた自分の世界への帰り方もわからないだろう?」


俺は鈴羅緒の大きな瞳を見ながら、目を瞬かせる。

そんな様子を見て、鈴羅緒は可笑しそうにテレパシーで笑う。


「僕は対象に触れたりあらかじめ相手を知ってさえいれば、何でも分かる透視の力を使える代わりに此処から出る事が出来ない。だからと言って、何かと問題ばかり起こす二人をこのまま送り出すのは心許ない。元いた世界に戻るまででも良いんだ、二人の事を頼めないかな」


一見フェアな頼みごとのようだが、食べるだの何だのと言うやり取りを聞いた後の俺は、拒否権は無い事をすでに悟っていた。

俺は泣きたい気持ちを抑え、鈴羅緒の提案を渋々呑んだ。

恐らく直ぐには帰れない事も見越しながら。

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