レコード4
その昔、この世に何もなかった頃。
神が舞い降り、国作りを始めたそうだ。
神はそれはもう色々な物を組み合わせて、多様な国を創造したらしい。
しかし生まれたばかりの不安定な世界は、存在を保てず直ぐに消えてしまったと言う。
神は考えた。
「1つのままで不安定ならば、複数で支え合わせてはどうか」
そうして組み合わせて生まれた世界は、基盤となる再生の6界と呼ばれた。
安定した世界で芽吹いた生命はそれぞれ独自の文化、歴史を構築し繁栄した。
けれど、増えすぎた命はそれぞれの業や個を強調しあい膨張し、互いを蝕む歪みを生んだ。
神はまた頭を悩ませた。
世界を切り離そうにも、6つの世界は複雑かつ巧妙に隣接し、1つでも欠ければ成り立たない。
「そこで、その膨張した物を管理させようと生まれた存在が私たちレコードキーパーである。ここまではよろしいですか?」
柏木さんが紙芝居を片手に微笑みかけてくると、俺は引きつった苦笑いを浮かべながら挙手した。
「すみません先生、初耳の話ばかりでまったくついていけません!」
「えぇ?そうですか?」
何一つよろしくねーよ!
切実にそう思いながら、ちゃぶ台があったらひっくり返したい衝動にかられた。
「そもそも俺はそんなのに選ばれてないし、普通の一般人の筈なんですけど!?」
聞けば聞くほど自分にはなんの関係もないと思い、ついに言ってしまった。
今の発言で二人とも黙り込み、場が一気に冷え込んでいく。
大体、柏木さんは最初からちょっと色々勘違いする節があると思うのは俺だけだろうか。
「もうこれ以上は付き合いきれません。悪いけどさっきの約束は忘れてください!じゃ、俺勉強で忙しいんで!」
「綾瀬くん…」
一気に言い切って踵を返すと、俺は静止を振り切ってその場を離れた。
「真白、彼にだって選ぶ権利がある。無理強いしてはいけないよ」
鈴羅緒の部屋からまだ微かに声が聞こえる。
「わかってる、でも私には時間が無ないので」
一度歩みを止めて振り向いたが、構わずまた元来た道を歩き出した。
どんなに気の毒に思っても、俺に出来ることなんて無いのだから。
「とまぁ、部屋を出てきたまでは良かったけど…」
1人呟きながら、最初の岩場にまるで考える人の彫刻のようかにうなだれて座り込む。
帰り方がわからない。
しかもよく考えれば、変な得体の知れない物を体に巻きつけたままだ。
だけども、あんな捨て台詞を吐いた直後に戻って帰り方を聞くのも気が引ける。
例え戻ったとしても、柏木さんなら気が変わって協力する気になったと勘違いし、また面倒なことに巻き込まれかねない。
さて、どうしたものか…。
そもそもここは何処なのだろうか。
そんな事を考えながら辺りを見渡していると、何処からとも無く強風か吹き荒れ、砂を巻き上げた。
「ブヮ…!」
砂が少し口に入る。
顔を覆い佇んでいると、風邪が吹いているある一点が裂け、中から女の子が光と共に姿を現した。
一瞬で風が止み、俺は硬直する。
「まっ、また知らない人がっ!」
「…また?」
俺が思わず絶叫すると、少女は無表情のまま不思議そうに首を傾げた。
本日はのべ二度も見ず知らずの人間(?)に引き合わされ、ことごとく妙な体験をしている身としては、出来れば避けたい状況である。
少女は全体的に赤いリボンと黒いワンピースというかなりシンプルな格好をしまていた。白い肌を含めこの遺跡にまったく似つかわしくない風貌であったため、柏木さんの話を聞いた直後という事もあり、俺でもここの住人ではなく異界人だと直ぐにわかった。
「すみません、オレちょっと追われてるんです!今すぐ別の世界に送って貰えませんか、出来れば元いた世界にっ!」
咄嗟に少女の手を握り、ある事ない事をでっち上げて頼み込んだ。
ちょっと厚かましい気もするが、他にいい手が思いつかない以上、賭けに出ようと思ったのだ。
少女は必死の形相の俺に対し、口元だけ笑みをこぼす。
そしてその目は未だ無表情のまま、静かに答えた。
「奇遇ですね、私も追われてるんですよ。構いませんよ、これも何かの縁ですし…」
ホッと息を吐き安堵するのも束の間に、少女は俺のネクタイを掴み自身に引き寄せると、耳元で囁くように告げた。
「その代わり…貴方の巻いてるレコード、お腹いっぱい下さいな」
俺はゾッとした。
思わず身を引き、少女と距離をとる。
少女の目は相変わらず笑ってはいない。
「君は一体…?」
冷や汗を流しながら、俺は後ずさる。
少女は問いかけに答えることなく、その口元の笑みを濃くした。
少女が俺に手を伸ばしヤバイと本能的に思った時、見覚えのある火の玉が走った。
「柏木さんっ!?」
俺と少女を割って入るように走った炎の先に、眉を吊り上げた柏木さんがどこか勇ましく杖を振った。
「何ですか貴女は?話は少し聞きましたが
、レコードは食べ物ではありませんよ」
少女の口元から笑みが消える。
柏木さんが少女に杖を向けると、その杖の周りに俺に巻くついているのに似たところどころ欠けたコードが、螺旋を描き宙を舞う。
「何方かは存じませんが、気に入りません。それに怪し過ぎます。知ってる事を洗いざらい吐いて貰おうじゃありませんか」
奇妙な少女2人に挟まれながら、俺は表情に危機感ばかりを募らせていった。