レコード17
「何です…あれは…!?」
肩の傷を抑えながら、水しぶきと共に現れた綾瀬遙人を見上げ私は唖然としながら立ち尽くした。
黒い装束の少女も、彼の異様な雰囲気に少し飛び退く。
私の覚え間違えでなければ、確か彼は黒髪に黒い目の色をしていた。
しかし今の彼は、髪こそ黒いが風も吹いている事もあり何時もの穏やかさを感じず、何より目が血のように赤く染まっていた。
数分前。
「さぁ…大人しくしている分には危害は加えません。貴方の持っているレコード、くださいな」
黒い装束の少女が微笑みながら言う。
少し手持ちの物を分けてくださいと言った軽い物言いだが、当然おいそれと渡せるものではない。
「そう怖い顔をしないで下さいよ。私達も、好きでこんな事をしているわけではないんですよ?」
そんな顔をするなと言う方が無理がある。
盗まれた物を探してここまで来たはずが、また略奪されようとしているのだから。
「一体、貴女方は何をしようとしているのですか?こんな物を奪い、あまつさえ口に含むなど、理解に苦しみます」
「…それは、知る必要のないことですよ」
少女が枝を踏み砕き、一歩づつ此方に近づいて来る。
「寄らないでください!」
残っていた力で火の玉を弾き飛ばすが、少女はそれを素手で受け止め、あっさりと粉砕してしまった。
「…危害は加えないと言ったのに」
「……!?」
少女の纏う雰囲気が変わった。
彼女の周りに黒い煙が立ち込め、それは次第に膨れ上がりながら辺りを包む。
「あぁ…!!どいして…!?…まだそんなに時間が経っていないのに…!!」
華奢な体を抱きしめながら、顔を覆う少女を見つめる。
彩白…。
何故そんな事をと自分でも思ったが、その姿は何故か苦手だった妹の姿に重なった。
誘われるように座り込んだ少女に手を伸ばすと、肩に激痛が走った。
「ちょうだい…貴方のレコードを…私に、今すぐに!?」
「……っ!」
覆い被さってきた少女が、肩の傷を強く締めつけ顔が引きつる。
「止めなさい!」
何処からともなく飛んできた鈴が、少女を退かせようと光を放つ。
「鈴羅緒!?」
どうやら思っていた通り、彼女の化身もここへ飛ばされていたらしい。
「まだそんな力が残っていたなんて…。でも、邪魔しないで…!!」
少女の言葉に共鳴するように、紫の閃光が大きな鈴を弾き飛ばす。
「鈴羅緒!?何て事を…!」
「黙っていなさい…!」
そう口にするや否や、少女は私の首を容赦なく締め上げる。
「…くっ…」
「さぁ、早くレコードを!?」
そこへ、爆風と共に水しぶきが吹き荒れた。
少女が反射的に私から飛び退き、運良く難を逃れる。
そして、現在に至る。
「一体何がどうなって…」
鋭く光る刀を片手に佇む彼を見ながら頭を抱える。
そこへまた、見知らぬ風貌の少女が私に近ずいてきた。
「お前、アレの知り合いか?」
この深い泉の色によく似た髪の長い少女。
不思議な事に彼女はみるみるその場で成長し、私達と同じか、少し下かと思われる辺りまで体格が変化した。
「ちょうど良い、その女に用がある。アイツを連れて離れているがいい」
長い髪を靡かせて第二の少女はそう言うと、黒装束の少女に向け拳を振り上げた。
人とは思えぬ速さで少女が泉を駆け抜け、水しぶきが更に空を舞う。
「…くぅ…!」
黒装束の少女が紫の閃光を操り、螺旋や機械模様を描きながら猛襲から身を守る。
長い髪の少女の追撃が続く。
「よくも私の縄張りを荒らしてくれたな。これはその礼だ!」
彼女の手に青白い光が宿る。
その拳は紫の閃光を突き破り、黒装束の少女に命中した。
「…!ぁぁアアっ!!」
甲高い悲鳴が辺りを覆う。
黒装束の少女はよろめきながら、恨めしそうに長い髪の少女を見つめ、そして言った。
「許さない…絶対に!その顔忘れない、必ずこの痛みを何倍にもして思い知らせてやる!」
そして少女は、黒い靄と共に消えた。




