レコード10
暫く、俺達と怪しい男は互いに動かず様子を見ていた。
中年の男がこんなに可愛い女の子を襲う何てあり得ない、犯罪だ、成敗してやる。
そんな風に意気込んでみたが、現状、どう考えても俺は役に立ちそうにない。
ていうか、ここに居る普通の人は俺くらいなんじゃないだろうか。
アキツ姉さんは銃を構えてるし、柏木さんは杖か火を吹くし、雅は身のこなしがあり得ない。
そしてさっき知った事だが、紫乃さんがレコードキーパーだと言うことは、何かしらの力を持っているんだろう。
この前の謎の少女の時は、よくわからないうちにやり過ごせたが、今度も果たしてそう上手く行くだろうか。
ヤバイ、俺ここで死ぬかもしれない。
そんな考えが過ると、俺は顔を青くした。
「おい、そこで青ざめてるチキン野郎」
「…は?」
不本意な雅の呼び名に不覚にも反応してしまった。
だが今はそれどころでは無いので、考えないようにしよう。
俺に呼びかけた雅は僅かに動くと、勢いよく紫乃さんを俺目がけて突き飛ばした。
「お守りは任せた!」
「え?…のわ!!」
俺は受け止め切れず、そのまま紫乃さんの下敷きになって倒れ込んだ。
「ごめんなさい!」
「いえ…平気ですよ」
物凄く痛かったがそこは耐えた。
あの筋トレめ、覚えてろよ。
「ナイスです雅!お二人はここに居て下さい!!」
柏木さんはそう言うと杖を器用に空中で三回転させ、白い炎で俺達の周りに壁のような円陣を作り出した。
「いいですか、この結界は中ならば害はなく容易に出られますが戻ることは出来ません。絶対にそこから出てはいけませんよ!」
そう言うと、柏木さんとアキツ姉さんは窓から飛び出して行ったらしい雅に続く。
「ちょっと待っ…柏木さん!?」
「お姉ちゃん!!」
俺と紫乃さんは白い炎で縁取られた窓に駆け寄り、外を見降ろす。
白い炎は見た目こそ迫力があるが、柏木さんの言った通り内側からなら熱くはなく触っても問題ないらしい。
「雅っ!」
柏木さんがそう叫ぶと同時に強い爆風が吹き荒れ、渦巻くその中心から緑色のレコードが、バチバチと火花を散らす。
風が収まり眼を開ければ、人のそれから狼の姿に打って変った雅が、飛び交うレコードの中に佇んでいた。
「ほーう、こいつはタマげた。お前さん体術派だろう?」
向かい側の屋根に飛び移り、屈んでいた男が、演技じみた驚きの声を上げて笑う。
「奇遇だなー、俺様も何だ」
そう言った男の周囲から、地を這うようにレコードが現れ、槍と鎧のような形となって、その身体を覆う。
「そんな、アイツもレコードキーパー!?」
だとしたら、あの黒髪の少女もそうなのかも知れない。
だが、そんな俺の予想をあざ笑う様にその男は訂正した。
「それも違ーうよ少年、お宅らが守り狩られる側なら俺様は捕食者だ」
「捕食者だと?」
雅が男の言葉に顔をしかめる。
男はより一層、不気味に笑いながら話を続ける。
「例えばそーだなー、平原にヌーの群れが居たとする。奴らは放っておけば増え続けて、やがて草を喰らい尽くすだろう?奴らを捕食する、肉食獣が必要だ。そう思わないか?」
「つまり、何が言いたい?」
問いかけに対し、男はまた顔を押さえて笑うと、堰を切ったかのように大声で言い放った。
「燃料なんだよ!お前らが何も考えずに必死で守っているモノは俺様にとってはただの食ったり使い切ってポイするだけのエネルギーに過ぎない!!言うなれば俺様は神が遣わした生態系の頂点、そーだな、ライフイーターとでも名乗ろうか?」
自称ライフイーターがそう言い切るか否かに、白い火の玉が宙を走る。
しかし、ライフイーターは軽く首を捻っただけで、それをかわした。
「こりゃー威勢のいい嬢ちゃんだ。俺様の話しはまだ途中何だがなー」
「嬢ちゃんじゃありません、不愉快です。それにもう何も話さなくて結構!」
柏木さんの脇を、雅が駆け抜ける。
雅の爪と男の槍が激しくぶつかった。
瞬間、閃光が辺りを覆い凄まじい爆風に俺達は顔を庇った。
光が収まった時、立っていたのはライフイーターの方で、雅は血を流す右手をおさえ、地にひざをついていた。
「雅!」
「大丈夫かい人狼!!」
柏木さんとアキツ姉さんが、雅に駆け寄ろうと走り出す。
だが、それを雅の唸り声が制止した。
「来るな!!」
またあの威圧的な視線が、何人も近づく事を拒否している。
「なるほどな。アンタも捕食者だろう、狼少年よ」
そう言った男から目を離し雅の様子を見守る。
あの筋トレ馬鹿は、心配する俺達に目もくれず、一人唇を噛み締めていた。




