Wau×9 儀式×武器×交易
魔物や魔獣、魔蟲を倒す事。
以前から少し気にはなっていた。普通の狩りをしていても滅多に現れなかった魔法を使う生き物達という獲物。仕留めた獲物の中、そう心臓やそれに代わる器官または脳に見られる魔石を持つ生き物。倒した時に何か少し体に力が入る感覚があった。
RPGでよくある冒険物などで敵を倒して経験地を稼ぐというような物じゃあないのだろうけれど。大人たちが強い理由はなんだろうと考えた一つの結論がこれだった。そして今ラストアタックを行ったのは父さんに見えたが、実際にラストアタックになったのは俺の矢だろう……いや、攻撃が入っていればいいのかも知れないが……魔獣から確かに何か力の様なものが入り込んできた。
だからだろうな、こうして宴を開くのは……
魔獣の肉を食べその強さを己の為に取り込むという儀式をする。父さんの最後の一撃と俺の弓の一撃が認められて心臓の部分と右手の部分が与えられた。魔石が埋まっている部分はその強さの源だと考えられているから功績があった者へと渡るんだ。
「彼の力を己が内に取り込みしは誇り高き同胞、打ち倒せしはラインハルトとその息子アルトハルトなり」長の祝詞のようなモノを聞きながら心臓を口に含み血化粧をする。この辺りは狩猟民族っぽいな。だが肉を食べたからと言って力が増大した感じはしないから、やはり戦いにその秘密がありそうだ。
『我も同感である。力と魔力が増えたと思うのである』とリックも言っていた。これから検証するしかないな。
そして魔石だが、これも倒した中で手柄のある者に渡るんだけど、何に使われるといった事は無い。所謂倒した証として使われるだけだ。ファンタジーの定番の魔術道具なんてものがないからかもしれない。だが村の外ならばもしかするとなんて事は思ってる。グェンドリンさんにでも今度聞いてみよう。
「アルト、これはお前が持っていろ。初の獲物だ」
「いや止めを刺したのは父さんじゃないか」
「フッ、あの弓で勝負は決まっていた、あれはいい一撃だったぞ」
どうやら父さんにはバレていたらしい。ならば遠慮なく貰っておいてもいいかな。記念だもんな。
「じゃあ、ちょっと大きいけど……飾りにするよ」
「これと同じようにか?」
「うん、大人の証って感じがするでしょ」
「ハッハッハ、そういうところは子供らしいんだがな。確かに魔石を持つってのは大人の証と言えそうだな」
父さんが上機嫌なのは俺が弓で打ち抜いた事で実力が認められたからかも知れない。その日家に帰っても母さんやノンノに纏わり付かれて大変だった。心配してくれるのは有り難いんだけど、父さんが相手をしてもらえなくて寂しがっているじゃないかと言えず申し訳ない気になったが、なんだか微妙な顔付きの父さんを見ると俺も微妙な顔つきだったらしく微笑み合った。うん、なんだか男として話が通じた気がする。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
翌朝、矢の手入れと草を切り分ける鉈の代わりを注文しにサラの仕事場へと顔を出した。
「よぉアルト、聞いたぞ、あの矢で一撃入れたんだってな」
「もう知ってたんだ、昨日だれか来たの?」
「フフ、弓は無理でも矢を都合してくれってな、その弓は親父の特注だし、価値が、な」
仕方が無いだろうなあ、鋼鉄にバネの仕組みやカムなんて本当に一点物で作り上げてもらったからな。俺で半年分の皮とかを渡したぐらいだから、普通に考えて一年分ぐらいか……厳しいだろう。
その点矢だけを貫通に向いたものにするならなんとかならなくも無い。そもそも筋力を増強すればコンパウンドボウじゃない骨や木とか普通の鋼鉄の弓をみんな使ってて威力は高いからね。弓の弦を張るときに魔法を使いながらってどんだけ凄いのだろうかと思う。
「でもこの矢も大変じゃない? それに普通の弓にはちょっと向かないと思うんだけどなあ」
普通は鏃をつけて抜けなくする、それを敢えて一本の金属で作ってももらって矢羽もつけないで回転するように溝まで彫るのだから、重さも用途も違ってくる。
「まあ、だから種類の違うのを一本ずつ撃たせてみたさ、流石犬獣人ってとこかな、使いこなしているとは言えないけど理解したみたいで、先端の違う物を注文したよ、ほらこっちのタイプだ」
「ああ、なるほどね」
サラが見せてくれたのは鏃を螺旋になるようにした物。普段俺が使ってるタイプの鏃だった。
「んで、今日はなんだい、手入れか」
「うん、仕留めた矢なんだけど、頭蓋を撃ったからね、頑丈だったらしくてちょっと歪みも出たっぽいし、それに鉈の代わりになるモノを注文しようと思ってさ、それと細工を頼みたいんだ」
「ほう、矢はまあ構わないさ、それより鉈の代わりか……そう言えばアルトは片刃の短刀と親父の刀とナイフだったな」
「うん、森を切り分けて入るのに片刃の短刀でもいいんだけど……用途がね」
「まあそうだな、犬獣人の持つあのタイプの鉈とは大きく違うからな、あれは武器にもなる優れたものだけど、アルトの短刀だと武器の面は優れても普段使いには勿体無いな」
「そうなんだよね、だから、こんな感じのを頼もうと思ってさ」
板に炭で描いた設計図を見せる。紙を作る意味もないし、皮の裏なんてのも使えない。そもそもそういう文化がない。そこで設計図とかやり取りをするのに板と炭を砕いて棒状に固めた物を作ったのだ。
「はあ、また代わった形だけど……小さい?」
「うん、みんなが使ってるアレの半分のサイズぐらいなんだけど、使う鉄の量は変わらなくて、こう此処で鞘が動くようにしたいんだよ」
「鞘の部分が折れて、そうか鞘がいらないのか……そうなると長さは寧ろ伸びるな、!」
まあ簡単に言えば折りたたみ式ってだけなんだけど、どうせ作るなら持ち運びに便利で藪を切り裂いたりするのに特化してるほうがいいからね、厚みの無い斧にと鉈の中間みたいになった。柄を長くしたらハルバードっぽいかもしれないな。うんそれもいいな。
「サラさん、これさ、俺の頼んでる棒が嵌め込めるようにしてよ」
「あの棒に嵌めこむのかい? まあいいけどね」
捻れば三節棍から長い棒に変化する棒状の武器を頼んでるんだよね。これは夢が広がる……
武器を新しくする時ってワクワクするんだよなあ。元々が折りたたんで使う槍だったんだけど、穂先をナイフで代用出来る仕掛けとか考えてて思ったんだよね、いっそ三分割して三節棍とかいいよなって。
フレイルとかヌンチャクにしてもそうなんだけど遠心力を使って叩きつけるから強烈だし。その先端がハルバードなんてちょっと楽しみになっちゃうじゃないか。
父さんには負けるけど、きっとあの阿保神をぶん殴る為にも俺は強くなる。そのためには魔獣を狩れる強さが必要なんだ、足りないなら武器で補うしかない。
「あとは細工か?」
「うん、この魔石なんだけど……腰に下げるのに金属で取り付ける金具が欲しいんだ」
「まあ、それは簡単だから任せなよ、これでアルトも早くも一人前だな」
まだベルトとかって考えが無かったからね、腰に巻いているのは革紐を編みこんでリングを二つ使った簡単なベルトになっている。みんなは結んでいるんだけど、なんとなくベルトはこういう風なのがいいなと思ったんだ。それに引っ掛けておくパーツを魔石につけてもらう。人によっては糸とか皮ひもを巻いてるけど、どうせなら魔銀を使っておこうと思ったんだ。それをベルトの編みこみに挟み込めばちょっとはお洒落だし。サラには出来上がったら直ぐに取りに来ると約束してその日の狩りへと赴いた。うん、休みは無い、頑張って今日も獲物を仕留めようと心に誓って村の出入り口へと走った。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
魔獣討伐騒ぎから一ヶ月が過ぎて。
それまで俺は森でできるだけ魔獣を狩る事にしたかったが、今だに父さん達と一緒に森に入るので好き勝手は出来ない。でも父さんに頼んでウィウルなどに関しては全て任せて貰っている。ウィウルは肉は食べれないが、牙や骨、皮などは貴重で役に立つ。どうも魔獣になれば普通の骨ではなくなるらしく、サラが作る特殊な金属の材料になるらしい。それに将来魔石はきっとなにかの役に立つと思っているから積極的に狩っていた。
武器も出来上がって、改良を施したりと中々にいい感じに仕上がってきている。薙ぐ事を主体にしたハルバードモドキは形を変えて今も手の中にある。結局取り付けるとその部分の強度に問題がでやすかったので三節棍の一本を完全に取り外せるようにしてその部分と一体化させて使っている。折りたたみのギミックがなくなったのは悲しいがより実用的になったとも言える。逆にナイフが取り外し部分になったから一体化した意味は大きい。だんだんハルバードというより戟のような物になりつつあるが似たような物だし……
突きと薙ぎとに使えて非常に便利だ、ワンタッチで槍にもなるしそのまま振るう事も可能。と言っても切れ味だとかなんだと考えるとあの竜鱗鋼で出来た刀には負けるんだよね。
まあその武器を自慢したくて、今日の交易にグェンドリンが来るのを楽しみにしていた。
そして来るなり背負っていた武器に目をやった、やはりグェンドリンにしても娘の作ったモノは気になるらしい。
「ほう、これは面白いな……ふむサラの奴も順調に腕をあげてやがる」
じっくり見たそうだったから渡してあげたら戟の形状で確かめ始めた。
あれだ、職業的な拘りってところだろうな。
「切れ味はコイツには適わないけどね。正直やってないけど……岩も切れそうだよ」
「まあ、そりゃそうだわ、材料が違うからな、それにソイツなら岩を切っても問題は無いだろうがな、なにせ竜鱗鋼だしよ」
「うん、でもまあそういう機会がなければ試さないよね」
「まあ、普通はやらんがな」
「そうだ、グェンドリンさんに聞きたかったんだけど、他の種族での魔石の扱いってどうなってるの?」
「ああ、魔石かあ、様々だな」
思い浮かべるようにして説明をしてくれた。それによると操魔人と人族は魔術に使っているような節があるらしい。他の種族はそういった使い方はしてないそうだが、やはり大人の証だったりするのだとか。
この一ヶ月で実は奇妙な事もあった。魔道具云々を考えながら魔石を持って魔術を使ったら何時もより勢いが良かったんだよね……使うと色が薄くなるのに、肌につけていたらまた元に戻るとか……
なんて言えばいいかな、バッテリーみたいな感じなんだよね。
魔法も楽に使えた、でも石の色が一気に薄くなったし、透明になったら使えなくなった。まあ二日ぐらいで完全に元の色に戻ったんだけどね。
まあ検証その他はおいおいすればいいし、それよりも。
「グェンドリンさんの目的はコレの成長と次の交易会の事でしょ」
「うむ、猫獣人だけじゃなくて今度から狼獣人と虎獣人も来ると聞いてな。しかし犬獣人の損にはならんのか」
「まあ被っても向こうでしか取れないモノってのもあるみたいだし。態々持ち寄るってことは価値のあるモノになるしさ、それに」
「あれか、例の件か」
「うん、大きな括りで言えば犬獣人も含めて|獣人種でしょ。さらに括れば意思疎通の可能な種だから……争いが起きないようにしておきたいなあって」
「まあな、問題はちょっと遠いところにある人族やら竜鱗人、それに光輝人の連中だなぁ……つい先日の争いだって人族が略奪しようとしたようなもんだ……」
そう、困った事にうちの村じゃないけど、狼獣人の村を人族が襲ったのだ。見事に返り討ちにしたらしいが……魔術が使えるから挑んでみたけど獣人には敵わなかったといった所かなぁ。でも別にそのあと狼獣人の人達が人族を襲いにはいっていないのだとか……
まあ支配だなんだとなっても問題になるしね。妥当な判断だとは思うけど。
「一応その件も含めた感じかなあ、争いを望まない種族同士で交流を深めておけば何かあったときに力を合わせる事もできるし、それに」
「それに?」
「美味しい物が見つかるかもしれない!」
「おいおい、それが理由かよ」
「半分は冗談だって、本命はそうして結びついていれば手を出しにくくなるでしょ」
「成る程な」
村が発展して町になって国になっていくのもアリかもしれないけど……種族問題は最初が肝心だと思うんだよね、なにせ、肌の色じゃなくて完全に見た目や能力も違うんだ。それに村を旅立つ時に安心して旅立ちたいじゃないか。
長に意見を述べておけば有効な案はドンドン採用してくれる。おかげで俺としては動きやすい。
根回しとかも父さん達から頼めるし。
そういう訳で立ち上がった交易会だけど、猫獣人は海からなので何時もどおりに塩や魚の干物が中心。闇輝人は金属製の刃物、狼獣人と虎獣人は獣の皮だけど種類が違う、犬獣人は獣の皮もあるが果物や綱や紐などの道具類を多めに出した。他にも細々と穀物や果物なんかが持ち込まれているし、鉱石なんかも一部で持ってきているようだ。
川で取れた砂金や砂鉄、磁石なんてのもある。他にも壷や皿のような焼き物や櫛などの民芸品の様なものまで様々だ。
川魚の干物なんかはシャルティに任せて子供達に権利を渡してあげたから、今回のバーターには使えない。
そこでサラさんにアイデアを出して共同で作ったのがつり用の竿と針、そして糸や浮きだ。
「これは何かにゃ?」
「魚を釣る道具ですよ」
「にゃ! みんな集まるにゃ! アルトが作った魚釣りの道具にゃ!」
「「にゃ~!」」
猫獣人は魚が大好きである。そして……
「なんだトゥ! 魚と聞いてやってきたゼ」
撒餌さに釣られたように集まってきたのが虎獣人達だった。
「噂の魚釣り名人と聞いたにゃ!」「是非とも交換ヲ」「何とだったら交換してくれるんだイ?」
ニャーニャーという合唱とゴツイ体格の筋肉マッチョが集まってきた……なんだこのカオス。
「これは暇つぶしも兼ねてやる釣り道具ですから、大量に一気に釣る訳じゃないですよ?」
「それでモ」「我々ハ」「魚を愛してるにゃ」
流石に地蜘蛛の糸は揃えられなかったから今回は蚕が繭になる前に取り出した蟲糸とかなんだけど、見事に売り切れてしまった。
「次回も期待してるにゃ!」
「うむ、きっと村で評判になるに違いなイ、フッハッハ」
「釣り方も教えた貰ったシ、最高ダ!
まあ満足してくれたんだったら良いんだけどさ。今度は網を作ってあげようかなぁ……いやぁまさか海に飛び込んで豪快に取ってるなんて思わなかった……
素もぐりで獲物を仕留めるんだっていうんだから凄いよね。マッチョな人達は水面を見つめて気合で獲るって言ってたし。ガチンコ漁は流石に教えなかったよ、乱獲になりそうだもん。にしても何、マッチョはポージング決めないと喋れないのかな……
あとは人気が出たのはやっぱり酒だなあ、これは種族を問わなかった……まあ闇輝人が一番気合入っていたのは間違いないけどね。自然発酵一発勝負じゃなくて作ったものだから人気も出るだろう。あれはあれで味わいがあるけどね。
そんなこんなで賑わいを見せ始める交易……
勿論問題が起こらない筈も無い訳で。