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Wau×1 プロローグ

 今日も兄上と一緒に起きるのである。


 兄上の体は大きくて、頭を除けばツルツルだ。そして我と違う言葉を喋るので会話は出来ない。残念な事に種族というものが違うらしい、だが一緒の寝床を共有する家族だ。そして素晴らしい名前も我は貰っている。リックと云うのだ、どうだ中々良い響きだろう。


 兄上は人間の男性で、我はラブラドール・レトリバーという犬種の雄らしい。今で1歳と少しになるが同じ部屋でずっと生活をしている。昼間に兄上は出かけてしまうので、兄上が帰宅するまでは母上や父上、姉上達と共に過ごすのだ。大事な役目も任されているのだぞ。昼には母上の買い物の際の護衛をする。時折荷物を持ったりもしているので褒められるのだ。

 自分で云うのも何だが、賢いのだぞ我は。時折、あくまで時折だが、我の未熟さ故に粗相をしてしまうのだが、兄上は不満を云わずに処理してくれる。いや最近は昔程では無いのだがな。まあ、うん小さい時には世話を掛けたと思う。


 夕方になると兄上が帰宅する。我が兄上のお供として散歩に出かけるのだが、公園まで着くと全力疾走をしても良いので最高の気分だ。兄上も人間の仲では運動神経がいいので我と共に走り回る。時折同族の仲間にも出会い挨拶を交わす、我の精悍さは羨望の的である、しかし、何故か兄上の方が我が同族の雌に人気があるのは如何してなのだろうか? まあ自慢の兄上であるからな、同族の雌達が惚れるのも仕方あるまい。


 だがしかし、逆に兄上よりも人間の女性に関しては我の方が少しばかり有利である。ワフフ、我の精悍な顔つきと落ち着いた態度によるものだろう。飛びついては行けないというマナーを兄上より教わっているのであるからして、我は優しいと撫でて貰えるのである。当然の事であるが、それを知らない我が兄妹達はなかなかに母上似らしく、構って症状が発動すると押さえが効かないのだ。誠に申し訳ない限りであるな、先日も他所の家のお嬢を泣かせていた。同じ兄弟として顔をペロペロと嘗めて進ぜたのだが、泣き止んでくれて良かったのである。




 我の立場だが、結木家における我は兄上の弟、ヒエラルキーで言えば最下位という順位に甘んじている。これは致し方ない。まだまだ我は未熟者故。最近観察していて確信したのだが、我が結木家という群れのトップは一見しただけなら父上に見えるが、それは甘い考えであり、実際の所は母上である。母上、父上、姉上二人、兄上、そして我となるのだ、兄上もまた姉上には敵わぬそうだが女性には優しく在るべきだそうなので致し方あるまい。


 だが兄上と我との絆は群れの順位では語ることは出来無い。

 共に過ごした日々という絆の重みがある。故に我はつい最近まで兄上と同種族だとばかり思い込んでいた程なのだ。

 人間の使う言葉が理解出来るのもそのお陰なのだと我は推測しているのだ、我と同じ犬種であっても人間の言葉を理解していないモノは多い故、強ち間違いではあるまい。

 さて、兄上が今日も仕事から帰ってきたようだ。一緒に散歩に出かけ運動せねばならないな!




 この後の事件は我も思いにもよらぬ出来事だったから致し方ないのだが、防げなかった事は正直に言えば悔しい。


 日課の夕方の散歩に出かけた時。

 不幸にもその事件は起きたのだ。

 全く困った事態に陥った。

 一人の幼子が横断歩道に走りこんでしまった。あの車という乗り物は悪くない。人間用の信号は赤という所で光ってる。

 兄上が子供を助けに飛び出した、我も一緒に思わず飛び出してしまったのは、もう一人飛び込んで来たのが見えてしまったのだから仕方が無い、人生とは儚いものだという。正に其の通りの結果だった。


 我の人生はたった1年と少しで終わってしまったのだ。だが兄上と共に飛び込んだ事で女の子達を助ける事が出来たのは死に様としては悪く無いだろう。

 心残りは兄上を死なせてしまった事だな、だが流石とも言える、犬の我より先に幼子を守ったのだ。我の自慢の兄上だ……

 また、兄上と……

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