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馬酔木  作者: 川蝉
3/3

城下での二人

「畜生悔しい」


「二度も俺に同じ手が通用すると思うなよ」


 隣を歩く黒崎は上機嫌だ。あの後また勝負をしたのだが今度は私の負けだった。前の勝負で勝てたのに味をしめて、また同じようにナイフを投げて気を逸らす作戦を私は決行した。しかし黒崎は剣を体の前に構え頭や首などの重要な部分だけをカバーした状態でそのままこちらに突進してきたのである。もちろんナイフは黒崎の腕や足を切り裂いたけれど、黒崎は全く気にせず向かってきた。ぎょっとしているうちに距離を詰められ、その後は勢いに押されて防戦一方、剣を弾かれ首に刃を突きつけられて私は負けを認めた。


 そして現在は城門から出て街へと繰り出したところである。私達がふらふら出歩くことに王様はあまりいい顔はしないが、救世主だということを口外しないと約束したら少しは安心したようだった。どうやら私達が救世主だと民衆にバレたらイメージダウンは確実だと思われているらしい。失礼だなと思うが、はっきり言って私達は救世主らしくないだろうという自覚はあるから文句は言わなかった。


 救世主が召喚されたことは国中に伝えられたが、国民の前に私達が救世主として姿を現したことはない。私達が救世主だと知っているのは、王様と兵士達と城で働いている一部くらいだ。


 つまり国民は姿も見たことのない救世主に対し、王様からの救世主についての情報だけを信じて期待を寄せているということである。本当は王都で大々的に救世主御披露目パレードが催される予定だったのだが、私達が召喚された時にやらかした事が原因でその計画は立ち消えとなった。きっと大勢の国民の前で何かやらかすのではないかと思われたのだろう。


 まあこちらも厄介事は避けたいから、救世主ということが大勢にバレるのは嫌だし都合が良い。



「いやでもまさか攻撃に自分から当たりにくるとは。いくら救世主として召喚されて身体能力が上がったからって、傷の回復能力はそんなに変わってないのに。予想外だったから反応遅れた」


「別にお前と俺との勝負じゃこれぐらいのこと普通だろうが。お前いつかの勝負で自分の剣が吹っ飛ばされた後、武器なしで剣持ってる俺に向かってきて、肉弾戦仕掛けてきたことあったの忘れたのかよ。そっちの方が普通だったらありえねえだろ」


「でもあれは楽しかったなあ。黒崎は楽しくなかった?」


「最高だったな」


 そう言って黒崎は口の端を上げると、私の頭をガシガシと撫でた。きっと髪がぐしゃぐしゃになっているだろうが、特に気にならなかった。


「剣を吹っ飛ばされたくせに、そこからあんな楽しませてくれるなんて思わなかったぜ」


「相手は武器持ってるのに、自分は武器なしで戦うってのがゾクゾクしたんだよ。当たったら終わり、って状況で剣を避けながら戦うのが楽しかった」


「そりゃお前だからできる芸当な気もするがな。それより腹減ったからあそこでなんか買おうぜ。ジジイから金ももらってんだし」



 黒崎が指を差したその屋台ではホットドックが売っていた。ちなみにこの世界の食べ物は元の世界のものと違いがほとんどない。そこらへんはとても助かっている。


 屋台に近づき私はそこで作業をしていたおじさんに二人分注文すると、顔を上げた彼は私の一歩後ろにいる黒崎の方を見てその凶悪な顔に一瞬顔をひきつらせた。けれどすぐに笑顔に切り替わる。流石プロだ。


「まいどあり!焼けるまでちょいと待っててくれよ」


 そしておじさんは肉を焼きながら世間話を始めた。なんてこった。元の世界でも近所のおばさんに話しかけられて、気の利いた事が言えた試しなどない私に対する試練か。黒崎がこのおじさんの世間話に付き合うとは思えないから、ここは私が頑張るしかない。


「最近は客が少なくて商売あがったりだよ」


「まあ戦争中ですからね」


 やっぱり無理だった。いや下手に会話を広げてしまうと、この世界での常識というものが無いことがバレて怪しまれてしまうしね。これくらいの返しでむしろちょうどいいんじゃないのかななんて無理やり思った。


「そうそう今は膠着状態らしいじゃないか。まったくこの国に戦争を仕掛けるなんて、ロスディアナの連中は何考えてんだか。ま、すぐにあいつらは叩きのめされるんだろうがね」


 私の素っ気ない返答など気にせず会話を繋げてくれるおじさんに、思わず尊敬の念がこみ上げる。しかしカルレアが負けることなど欠片も考えていないようなその言葉を聞いて、つい私の口から疑問が出た。


「この国が負けたらどうしよう、って不安になりませんか?」



 その瞬間、おじさんは得体の知れないものをみるような目で私を見た。しまったこれはマズい。


「何言ってんだお嬢ちゃん、カルレアは神に愛された国なんだ。ロスディアナになんて負けるわけないだろう。カルレアの勝利を疑うなんて、あんた本当にこの国の人間か?」


 はい、常識の無さがもうバレた!宗教国家怖い。不安を持つのもアウトなのか。


 ちらりと後ろの黒崎の方を見ると面倒くさそうな顔で「お前がなんとかしろよ」と目で語っていた。そんな殺生な。


「ええと、すいません。実は父が兵士として前線に出ていて、無事に帰ってきてくれるか心配でつい弱気になってしまったんです」


 取り繕おうと慌ててそう言うと、おじさんはやっと表情を緩めた。


「なんだ、お嬢ちゃんの親父さんはカルレア軍の兵士なのか!そりゃ立派な親をもって幸せだなあ。確かに家族が戦いに出てるってなれば不安になるのかもしれんが、軽々しくさっきみたいな事は言うなよ。なあに、安心しな!この国には『カルレアの狼と鷹』こと、救世主のクロサキ様とコンノ様がいるんだから!」



「ブフォッ」

「ブハッ」



 上手く誤魔化せたことに安心したが、その後聞こえてきた言葉に思わず吹き出してしまった。背後からも変な音が聞こえたので、恐らく黒崎も堪えきれなかったのだろう。えええ、なんなの『狼と鷹』って。


「あの、クロサキサマとコンノサマはもちろん知ってるんですけど、『カルレアの狼と鷹』っていうのは一体」


 恐る恐る尋ねると、テンションの上がったおじさんは勢いよくしゃべり出した。


「なんだ、知らないのか?この前の救世主様達のそれぞれの戦いっぷりからつけられた呼び名だよ。ちなみに狼がクロサキ様で、鷹がコンノ様だ。今回召喚された救世主様は二人で、しかもお二方ともとんでもなく強いって噂だな。初陣で凄まじい御活躍をなされたって知らせが王都中に広まってるよ」


 その凄まじい活躍が原因で、二人とも前線から一時撤退させられ城に呼び戻されてるんですけどね。


「救世主様の噂って他にどんなのがあるんですか?」


「そうだなあ、俺達国民の前に直接姿を現したことはないが、お二人とも黒髪だっていう噂はあったな。ああ、そういやあんたら二人も黒髪じゃないか。この国じゃ黒髪はそれ程多くないし、救世主様達と同じ髪色だなんてあんたら光栄だな」


「…ソウデスネ」





 その後代金を渡し、ホットドックを受け取ると私達はそこの屋台から離れ、食べながら無言のまま歩く。しばらくしてからやっと黒崎が口を開いた。


「…なあ鷹」


「…どうしたの狼」


 その瞬間堪えていた笑いが同時に爆発した。お互いひいひい言いながら会話をする。もちろん内容が内容だから笑い声以外は抑えた声で。


「まさかこんな呼び名がつけられてたなんてな」


「恥ずかしすぎる!なんなの狼と鷹って。黒崎が狼って呼ばれるのはまだ良いとして、なんで私まで」

 

「おいそれどういう意味だ」


「いやだって、黒崎は学校で『孤高の一匹狼』って呼ばれてたし」


「そりゃ流石に冗談だよな」


「マジです」


 そう言ったら更に黒崎の笑い声は酷くなった。お前知らなかったのかこの恥ずかしい呼び名。しかしちょっと笑いを抑えてほしい。ただでさえ爆笑してるおかしな二人組として周囲の通行人から変な目で見られているのだ。これ以上余計な注目はされたくない。あとせめて口に入れたホットドッグは飲み込め。口の中のものが飛んできそうで怖い。


 一発黒崎の腹にパンチを入れるとようやくその笑いも少しおさまった。黒崎がこちらを少し睨んできたが気にしない。私も強くなったな。



「黒髪だしそのうち漆黒の狼とか呼ばれるんじゃないの。というか黒崎って不良にしては珍しく髪染めてないよね」


「それなら紺野は漆黒の鷹だな。髪染めんのなんてめんどくせえしな」


「ますます恥ずかしさのレベルが上がってくね。どうすんの戦場で『貴様らは漆黒の狼と鷹か!』とか言われたら」




 黒崎は笑うのを止めて真剣な顔をしてこちらを見た。



「正直腹かかえて笑わない自信がねえ」


「黒崎って意外と笑い上戸だよね」


「お前だってそんな状況になったら絶対笑うだろ。今だってまだ顔ひくついてんぞ。笑うの堪えてんじゃねえか」


「まあそんな言葉を実際に言われたら腹がよじれる自信はある。でも嫌だよ救世主の弱点がそんなんとか」





 そんな風に黒崎と軽口を叩きながら歩いていると、後ろから誰かがついてきているのを感じた。後ろの人物に聞こえないように声を潜めて黒崎に話しかける。


「ねえ黒崎、なんか後をつけられてるよ」


「あ?だからさっきからなんか変な感じがしてたのか。俺は気配とか探んのあんま得意じゃねえんだよな。何人かわかるか?」


「多分一人。でも誰だろうね、王様の部下とかじゃないのは確かだけど。初めて散歩に出たときに尾行させてきた奴ら、私たちが潰して路地裏に放置したら、こっちは何も言ってないのに後で王様にやたら弁解されてそれ以降はそんなことなくなったし」


「一人か。じゃあさっさと殺していいか?お前のことだしナイフのニ、三本くらい持ってんだろ。今俺武器持ってねえから一本貸してくれよ」


 あっさりとそう言ってくる黒崎に思わず顔をしかめた。まったくなんてやつだ。


「黒崎、私は十本は持ってるからね。あと流石にこんな人通りがあるところじゃまずいからどっか路地裏に行ってからやろう」


「マジかよ、どこにそんな仕込んでんだ。お前は暗殺者でも目指してんのか。じゃあ武器屋の前に路地裏だな」


 いや別に暗殺者なんて目指してないけど。驚愕した顔の黒崎に私は少し得意気になりながら、徐々に人気のない通りへと進んでいった。後ろの気配は相変わらず付いてくる。


「遠くにいる奴にも気軽に攻撃できて便利なんだよ。剣投げちゃったら後で少し困るし。それにナイフなら持ってること気づかれにくいしね。私が武器持ってるとは思ってなかった相手が、驚く顔を見るのも楽しいしまさに一石二鳥。ナイフいいよナイフ。剣での斬り合いの楽しさには負けるけど」


 私がそう言うと黒崎は何とも言えない顔をしてこちらを見た。まあ黒崎はでかい剣振り回したり、殴ったり蹴ったりする方がナイフ使うより好きそうだな。別にナイフ使うことをお前にも求めてるわけじゃないから、と言おうかと思ったがその前に黒崎が口を開いた。



「紺野、結構語ってるけどお前がナイフにハマりだしたのってつい最近じゃねえか」


「これから極めるから問題ない、ってああこんなこと話してるうちに、後ろの奴どんどん近づいてきてる」


 めんどくさいなあと思いながら背後から近づいてくる気配を感じていると、ついに声をかけられた。





「そこの君たち、オレ道に迷ってこんな路地裏に入っちゃったんだけど、よかったら道を教えてくんない?」


 後ろから聞こえてきたヘラヘラした声に私たちの心は多分一つになった。大通りからつけてきてここまで来たやつが白々しく何言ってんだ殺すぞ。あ、始めから私と黒崎はこいつ殺す気だったわ。振り向かずに仕込んでいたナイフをさりげなく取り出そうとしていたが、続いて聞こえた言葉にその動きを止めた。





「あと救世主様たちについてもいろいろ教えてほしいなあ」


 

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