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一話 星美ヌード

 入学式を抜け出し、凹坂と巳弥は校舎と連結している寄宿寮へと向かった。

 凹坂が声をひそめ、ドアをノックする。



「(お嬢、開けてくれ)」



「ヤバい、ヤバい! 親フラ親フラ!」



「(るっせぇ! 静かにしろ!)」



 開けられた扉の先には、すでに趣味全快の修飾が施されている部屋があった。星美がペコリと頭を下げ、顔を上げて微笑する。



「いらっちゃいませー、ご主人たま~」



「何考えてんだテメェ! 人前で能力使うなってあれほど言ったろうが!」



「ご飯にする? お風呂にする? それとも、タ・ワ・シ?」



「ひ、姫さま、凹坂さんの話聞いてあげてください……」



「んー。なぁにー? ていうか一年ぶりだねっ! いや、二年ぶり?」



 星美の制服姿も、彼の趣味が反映されていた。綺麗な前髪にはカラフルな束が垂れており、ブレザーにはシールやバッジを付けてある。スカートは横側のチャックが微妙に開いていて、太ももが覗いている。

 それどころじゃなかったからよく見ていなかったが、なんつーカッコだよ。と、凹坂が呆れて嘆息した。



「いいか。黙って聞けよ。あのな……」



「スピン・ダブルアームだあああああ!! この体勢で身体を回転させるアタシのパワーは並じゃないぞおおおおお!!」



「わあーっ! 怖いですぅぅぅ! やめてくださああああい!」



 巳弥の両脇をホールドして、ブンブンと振り回す星美。



「何してんだコラぁあ!?」



「そうよ、何してんの! あんたジェロニモ役なんだからこれくらい抜け出しなさいよ!」



 目を回してフラフラになった巳弥。凹坂は星美の頭を小突いた。



「あべし!」



「いい加減にしろよ。今度はマジでしばくぞ、おい」



「え~……さっきの振りじゃなかったの~……」



 いまがとても楽しくてしょうがないのか、星美を落ち着かせ、凹坂は正座を促した。



「座れ。よし、本当にいいな。そのまま大人しくしてろよ。振りじゃねぇぞ? よし……」



「ぎゃああああああああああ!! ゴメン、そういえばアニメ一挙放送のタイムシフトが切れちゃう。今から観ないと。あ、艦これとスクフェスもやらなきゃ」



 現代では繋がっていないはずのインターネットをPCで閲覧し、スマホのアプリを起動させながらマウスを移動させる。星美の肩を掴み、改めて注意事項を一気に言い聞かせた。



「人前で能力を使うな! 目立つような行動をするな! あと、それからチンコも出すな! 次に約束を破ったら、マジで送り返すぞ! わかったか、このド変態!」



「ところでさ、人前で勃起しそうになる時って、我慢しようと思えば思うほどおっきくなっちゃうのは何でだろうね」



「知るか!」



 息を整え、頭に上った血を下げる。

 ……完全にコイツのペースだな。一年も会わなかったから扱い方を忘れていた。気を取り直し、凹坂は話を続ける。



「確認するぞ。ここでは、おれの名前は凹坂ヤエだ。お嬢は星美だったな。こいつは?」



「ミミミミミミミサキだったかな」



「み、ミミサキですよぉ……」



 三人はここへ来る以前、学生証に載せる偽名を決めていた。巳弥は最初、『巳弥ミサキ』だったが、申請する際に「……巳弥、み、みミサキです」と、いつものようにどもってしまったのだ。



「で、どうだった?」



「え……なに、いきなり。そうだね、すっごく気持ちよかったかな。大勢に見られるのってあんなにいいモノだったんだねぇ~。悔しいけど、感じちゃう……」



「ちげぇよ。その眼で見たんだろ、全校生徒を。めぼしいヤツは一人でもいたか?」



 黒く、深い闇の底に沈んだ白い瞳孔が、眼の奥で大きく見開く。その目をぱちくりさせながら星美は首を横に振った。



「いんやぁ、ぜーんぜんっ」



「そうか。まあ、いい。別にそれが目当てじゃないしな。それじゃあ、本題だ。俺たちの目的は?」



「説明しよう! 我々は伝説のセクシーメイトの末裔であり、サイヤ人のいとこの甥っ子の親戚で、その近所に住んでいた法力僧の寺に通うごく普通の崑崙十二仙が一角! レスター博士に美少女とヤリまくれるホステルがあるとそそのかされ、訳もわからず謎の立方体に閉じ込められ、そこで手に入れた剣は邪気を払う退魔のマスターソード、ゴルンノヴァだった! 全校生徒たちの想いすべてを賭けた全米川下り選手権が、いま始まる!」



「全然ちげぇ」



「ああ。我々ダークサイドの管轄下にあるとはいざ知らず、『英雄の力』を秘めた学生を匿うため創設されたこの学園。学校に行きたいという小生のわがままで駆り出された末端の二人は、仕方なく上司に掛け合い、ここへ通う承諾を得た。我が輩の持つ『悪の力』の情報を漏らさずに、卒業まで滞りなく過ごせるよう努めるのが、彼女たちに課せられた最大の任務である」



「おう。解ってんじゃねぇか」



「まあ、面倒な説明描写はちゃっちゃと終わらせないとね。よっしゃ、さっそくハーレム展開を目指して攻略に勤しむっぞ」



 待て、と制止し、凹坂が腕を組んだ。



「その前にだ、お嬢にはやってもらわなくちゃいけないことがある」



「はっ! そうだった! 好感度上げるアイテムを買うためのリッチがまだ貯まってないよ!」



「俺が二年生という認識を変えろ。この学園の連中全員のだ。巳弥も同じクラスってことにしろよ。……ついでに、さっきの茶番もなかったことにしないか」



 口をへの字に曲げ、星美が唸る。



「えー……やだー……」



「なんでだよ。お前だったら、そのくらい余裕じゃねぇか」



「だって、つまんない~。能力使うなって言ったくせにさ。アタシはザ・ワールドもバイツァ・ダストもキンクリもメイドインへブンもD4Cもマンハッタン・トランスファーも使えるけど、そう簡単に運命を変えたりしたら駄目なんだよ? 未来を変えていく勇気があれば充分だ。バイ、ソリッド・スネーク!」



 舌打ちをして歯噛みする凹坂。これだ、能力を行使すれば簡単に済むようなことをコイツは渋る。だからこうして、いちいち自分たちが奔走しなくてならない。

 くだらないことには出し惜しみせずに全力で発動しまくるくせに。



「じゃあ、こうしよう! アタシが一人ずつ触れた相手にだけ記憶を書き換えるってルールでさ。今から色んな人に会いに行こうよ!」



「ざけんな! テメェ、絶対とんでもないことやらかすだろうが!」



「大丈夫、約束する。お願い、先っぽだけ……!」



 しばらく考えてから諦めたように、わかったよ。と、折れる。しち面倒臭いが、どうせこれ以上は言っても聞かない。



「それじゃ、スニーキングミッション、スタート!」



 入学式が終わったタイミングで、一人だけで行動している者をターゲットに、三人は行動を開始した。



「よお。ちょっと、いいか?」



「うへへ、おじょうちゃん。これ見てくんない?」



 凹坂の前に星美が立ち、ハァァァァァと声を唸らせながら、阿修羅のごとく腕の残像を浮かばせた動作で、スカートのチャックをギリギリまで上げ、股間に手を置いた。

 呼び止められた女生徒は疑問符を頭に浮かべ、困惑する。



「隙あり! いまだ、サ☆スーン☆クオリティーッ!!」



 星美が唐突に、勢いよく女生徒のスカートをめくった。悲鳴を上げて逃げ出す。



「……ふう、久々のエッちゃんはキレがなかったぜ」



「馬鹿野郎! くそ……! 信じたおれがバカだった! もうやめるぞ!……って、いない!?」



 遠くでたくさんの悲鳴がする。星美が暴走し、無差別に女子生徒たちに向かってサービスサービス!と言いながらスカートをまくり上げ、股間を見せびらかしている。

 巳弥が止めに入ろうとして駆け寄った。



「姫さま、ダメ! きゃっ──」



 途端、巳弥の身体が宙に浮き、次の瞬間には姿を消した。



「巳弥!? おわっ!?」



 何かに引っ張り上げられるようにして、凹坂も消失する。少し間があって、キョロキョロと周りを見渡し、うるさかった彼女たちの突然の沈黙に、星美は言葉を失う。

 床に膝を突き、耳に指を当てた。



「こちら、スネーク。他の二人がフルトン回収された。……了解だ、大佐。任務を続行する」



 腕を拳銃の形にして、小走りで廊下を行く。ゲームのBGMを口ずさんだ。



「でんででででん、でんででででん! ──ぬわーっ!」



 星美も何かに捕まり、引っ張り上げられる。天井の蓋が閉じた。



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