森の猫
「今日は暑いですね」
「それほどでもないニャ、夏は始まったばかりですニャ」
深緑の夏、猫人間が集まる森では夏祭りが始まろうとしていた。
猫缶釣りや綿飴屋、豪華景品が当たる射的屋など様々な出店が準備に追われている。
唯一猫以外の人間であるケンは森の外の町で流通する珍しいものを売る出店を開くことにしていた。
前日まで仕入れを行い、準備万端で祭に挑む。
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祭当日
朝10時から祭は始まった。
合図の花火が打ち上げられて、パンパンという音を聞いた猫人間達は会場の森中央広場に集まる。
数はだいたい1000人くらいだろうか。
ケンの出店には若い猫人たちがよく来ていた。
「これは何かニャ?」
「これはプリズム、っていうんだ。科学の実験で使うんだけど古くなってしまったからいらないと言われて貰ったものさ。こうして太陽にかざすと不思議に光るんだよ」
「おぉ、それは面白いニャ。光る物は大好きニャ、買うのニャ」
「はいよ、500円ねー」
その猫人はジャンク品のプリズムを大切そうに持ち帰って行った。
ケンはこうした品物― 言ってしまえばガラクタ ―を集めて来て、猫人に売るのだった。
外に行く猫人は少ないのでガラクタでも珍しいものとして見なされ、よく売れる。
プリズムの他にも、懐中電灯、ネジ式時計、炭酸飲料、香水、ビー玉などが店に並んでいる。
「これはすごいニャ、シュワシュワして舌がピリピリするけど爽快で旨いのニャ」
「コーラ、っていうんだよ。今なら缶一ダース1000円だけど買うかい?」
「買うのニャ。シュワシュワ美味しいのニャ」
「オイラもそれ欲しいのニャ」
「はい順番ねー。沢山あるから押さないでね」
どうやらコーラが人気らしい。泉の水しか飲料がない森では清涼飲料水は珍しい。
こうしてケンの出店は大繁盛。夜まで客がわんさか来た。
これでケンは町にいる妹に美味しい食事を食べさせてあげることができる。たまには売上をパーッと使うのもいいだろう。
祭は終わりを迎えようとしていた。最後は花火とダンスの共演だ。
輝く星空を大きな花火が彩る。
スターマインに猫人は目をパチパチさせながら見入っていた。
ダンスは猫人の娘達が一ヶ月練習を重ねたもので、豪華な衣装と派手なアクロバットが魅力。拍手が絶えなかった。
こんな祭もいいな、とケンは思い、また来年も来ようと決めた。人間と猫人との交流はあまりないのに、ケンを快く受け入れてくれたことが嬉しかった。今度は妹も連れて来よう。
祭は幕を下ろし、猫人はそれぞれ家に帰っていく。広場で寝てしまっているものもいた。
ぬるい風が吹く。
夏の始まりのささやかな宴の日だった。