言いたいのに、言えなくて……
「ほら、行って来なよ」
「ぅ、……うん」
友達に行ってこいって背中を押されて、わたしは背後から彼に近付く。
彼は今日も、自分の席で分厚い本を読んでいる。
わたしには分からないような、ページいっぱいに字のつまった、難しそうな本。
彼の頭の中って、いったをどうなってるんだろ。
どうしよう。まだ五メートルくらいあるのに、胸がドキドキして来た。
なんかもう、顔も見られないよぉ。
わたしは、下を向きながら、もうちょっと頑張ってみた。
去年までは隣の席で、普通に話せたのに……。もう、なんでこんなに意識しちゃってるんだろぅ。
どのくらい近くまで来たのかな?
ちょっと顔を上げてみると、彼の顔が……。
うぅぅ、やっぱりだめぇ!!
頭がぼーってなって、なに話したらいいか、全然分かんないよぉ。
わたしは声をかけるどころか、顔も合わせられなくて、そのまま回れ右しちゃいました。
「今日こそ頑張りなさいよ!」
「わ、分かってる」
二回目のトライ。
き、今日こそは、話しかけるぞ。
えいえい、おー!
昨日と前を見れなくなった、五メートルまで到着。
でも、そこから先に進むと……。
うゆぅぅ、やっぱりむりぃい!!
ってなっちゃう。はぁぁ、どうすればいいんだろう。
彼の肩にふにゃーんってしたいのに。でも、いきなりそんなことすると、やっぱり怒られちゃうよね? だよね?
いろんな人に聞いてみるんだけどね、みんなおんなじことしか言わないんだもん。『ゆうきを出せー』とかぁ、『もっとがんばれー』とかぁ、そんなのできたら、こんなに苦労しないのにぃ!
今日もわたしは、あの人に声をかけようと、がんばっています。
ふにゃぁぁ、やっぱりできないぃいいい!!
…………なにがしたかったんだろうね?