1-3
この状況で私に残された選択肢は三つ。
一、叫ぶ。二、叫ぶ。三、叫ぶ、だ。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
思いっきり叫んで逃げ出そうと踵を返して走り出した。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!
ごめんよ私日本語しか喋れないんです道を聞かれてもきっとこうやってダッシュで逃げてたと思う。
外人さんは目を丸く見開いて少し固まった後、あわててこっちに追いかけてきた。
ぎゃああああああああああこっち来るな!
でもまあ、男女の足の速さなんて歴然としてて、プラス足場が悪かったという事もありあっさりと手を掴まれました。
「いやああああああ、ちょ、離してください離してくださいごめんなさい日本語しか喋れませんのーいんぐりっしゅ!」
「ややっ、ごめんね、驚かせて、!ちゃんと日本語喋れるからね、僕…!」
……あ、日本語だ、。
よかったあー。ちょっと安心。
「あー、す、すみません、私英語苦手で…、聞くと体が拒否反応起こして…!」
「うん、気にしないで。分かるよ、そういう子多いもんね。」
にっこりと相手が笑った。あ、なんだこの人いい人だ…。
ホッとして私も緊張の糸がほどける。
「すみませんでした、取り乱したりしちゃって。日本語、お上手ですね、びっくりするぐらい。」
にこりと笑みを浮かべて、そう言う。
日本語が喋れるなら逃げる理由も無いし。
普通にいい人だし。
いやあ、喋ってみるものだなぁ。
「いや、良いんだよ。びっくりするのは仕方ないんじゃないかな?ほら、僕典型的な外国人の容姿だから。」
確かに。びっくりさせやがってこの野郎とは思うも、
イケメンにそんな風に言われたら…、許すしかあるまい。
しかし、いわれてみれば確かに典型的な外国人の容姿だな。金髪碧眼。
金髪がふわふわしててお日様色…。あー…、これは……――
「そうですね、とっても綺麗です。触ってみてもいいですか…?」
言わずにはいられない。だって、とっても綺麗なんだもん。
外人さんはキョトンとした表情を浮かべた後、にっこりと笑った。
「どうぞ、こんなのでよければ。」
そう言ってもらえれば、私は彼の髪にそっと手を伸ばす。
おおう、近寄ってみると背が高い…、あ、ちょっと、屈んでくれた。
うわあ…、さらっさらだ…。シャンプー何使ってるんだ羨ましすぎるぞ。
そんな彼の髪をさらさらと梳くように撫でる。
なんだか、気持ちが良い。自然を笑みが浮かぶ。
「すっごく綺麗です…。サラサラしていて気持ちいい。」
「ありがとうっ!ねえ、僕も撫でてみていい?」
緩く首をかしげる彼。
「え?はい。こんなのでよければどうぞ。」
にっこりと笑みを浮かべて返事をする。私の髪なんて安いものだし!
まあ、確かに毎日ちゃんとお手入れしてるし腰まで伸ばしてるし、染めて足りはしないからなー。
黒髪は珍しいのだろう、彼は興味津々、といった感じに私の髪に手を伸ばす。
「すごい。綺麗だね。」
「貴方の方こそ、ふわふわしててお日様色で、とっても綺麗です。」
「ははっ、有難う。」
にっこりと笑みを浮かべられた。
そこまでは良かったんだ。
彼は何を思ったのだろうか、ちょいちょいと手招きをした。
何だろうと少し顔を寄せたら、顔が近付いてきた。
え?
気づいたら、頬に柔らかい感触。
ポカンとしている間に相手の顔は離れて行って。
「褒めてくれてありがとうね!thank you!」
笑顔の彼が、そんな事を言ったが、私の耳には入らない。
さっき前でのああこの人いい人だな、ぽわーん、っていう気持ちが急激に冷めていく。
そして、私を占めていくのは怒り。
相手はそんな私に気づかずにこにこしている。
じろ、と相手を睨んでから、思いっきり相手のほっぺをばちーんと叩いてやった。
「私のほっぺはそんなに安くないんですよ馬鹿!」
そう言って走り去る。
いったい何なんだあの失礼な変態外人は!