選ばれし者 後編
悲しいような、苦しいような、そんな表情はすぐに隠され、先ほどの飄々とした表情に戻った。
……今、確かに悲しい顔してたよね? わたし、何かしちゃった?
「……確かにそうかもしれないな」
「……わたくしにはすごく大切で、絶対に守りたい家族がいます。地位や権力なんかより、よっぽど大事です」
わたしはリリアンを思い浮かべて、表情を緩めた。ハーリンにとって大切な人で、かけがえのない存在。わたしはそれを受け継ぐと心に誓った。
「ルザウェイトにはそんな人がいますか?」
「俺には……いたよ。大切な人」
……なんで過去形? ……まさかわたし、超最低なこと言っちゃた!? 空気読めないにも程がある!
この世界の平均寿命は約百十歳。もっと長生きする人がほとんどだが、平均を下げているのは幼くして亡くなった子供達だ。
十歳未満の頃の年齢にしか感染しない病気があり、大体の子供たちはその病にかかる。ハーリンも過去感染した。そこから治るか治らないかの壁が立ちはだかるのだ。
……もしかして、それで亡くなった人がいるのかな!? 恋人とか!
ーー彼女は勝手に恋人と判断し、罪悪感を感じているが、十歳未満の頃のルザウェイトにそんな人はいなかった。早すぎる婚約は不利益をもたらすかもしれないからだ。
ゴーン……ゴーンーー。
鐘の音が鳴り響いた。一日六回、この世界には鐘の音が響き渡る。今のはおそらく夕方を表す鐘の音だ。
「どうしてどこでもこんなに大きく音が響くんだろう……」
「魔術具を使っているからでしょうね。私も実際に見たことはありませんが」
わたしは思わずビクッとした。そうだ、ここにはルックルドもいた。ルックルドはなんというか、その、存在感がない。
「こんなところにも使われているのですね、魔術具」
魔術具は、おそらくこの世界に欠かせないものなのだろう。前世でいうインターネットのような。……少し違うか。
「というかハーリン様、夕方から家庭教師が訪れるのではなかったのですか?」
わたしは発狂しそうになった。なぜそういう大事なことを早く言ってくれないのだろうか。
「ルックルド! もっと早く教えてくださいませ!! 戻りますよ!」
わたしはルックルドにキッと視線を送った。本当は忘れていた自分が悪いのだが、知ったこっちゃない。
今日はお父様につけてもらった新しい家庭教師との授業があるのだ。初日に遅刻はまずい。
わたしはクルリとルザウェイトに背を向けて屋敷へ戻ろうとする。……が。
「あの、どうやって戻ればいいのでしょう」
「はあ……。魔法陣に手を当てろ。魔力を流してフェヴィンガーへ帰るイメージを浮かべるんだ」
ルザウェイトが呆れながらも教えてくれる。言われた通りに、さっき理解したばかりの魔力を手のひらに集めて放出すると、カッと魔法陣が光った。
「ル、ルザウェイト! ありがとう、また今度会いましょう!」
わたしは言い忘れていたお礼を言う。ルザウェイトはニッと笑って手を振った。
「ハーリン様! ちょっと待っ……」
……あ、やべ。
フェヴィンガーへ帰還します。
サンクルレン編、すごく長くなりましたね。
次にルザウェイトが登場するのはいつになるでしょうか……。




