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時司の愚痴日誌

派手です ~時司の愚痴日誌

作者: 時司 龍
掲載日:2026/03/26

『服装自由』と掲げている会社ほど、その内実が曖昧である事は珍しくない。


 わが社も例にもれない。夏になればクロックスでの出勤は日常風景で、下駄履きの社員すらいる。Tシャツにジーンズなど、もはや説明するまでもなく許容範囲だ。

 つまり、自由は確かに存在している。少なくとも足元と衣類に関しては。


 そんな環境の中で、私はある日、自爪にネイルを施して出勤した。

 爪の先の白い部分を5mmほど伸ばして。もともと細長い爪の形をしているため、ネイルをするには十分。濃紺をベースに、100円ショップで手に入る和柄のネイルシールをあしらっただけの、ささやかな遊び心だった。


 仕事の合間、お客様との会話は自然とそこにふれた。

「そのネイル、器用やね」

 指先を覗き込まれる。

「シール貼ってるだけなんです」

「ほんまに? 描いてるんかと思ったわ」

「最近は100均でもこういうのがあって」

 少し傾けると、紺色が光る。

「和柄、ええなあ」

「つい買っちゃって」

「こういうの、若い子のもんやと思ってたけど」

 思わず笑う。

「幾つになっても、いいと思いません?」

「・・・たしかに。やってみようかしら」

「ぜひ」

 ほんの少し場が和らぐ。接客において、こうした小さなきっかけは決して無意味ではない。



 だが、その空気は、上司の一言であっさり断ち切られた。

「ネイルはダメです。派手です」

「・・・あ、そうなんですね」

「はい、規則なので」

 規則であるなら従うしかない。そこに異論はない。


 ただし、『規則』がどのように運用されているのかについては、別の話だ。


 同じ職場には、私より若い社員がつけ爪やネイルをしている姿もある。しかし、それに対して注意がなされている様子は見受けられない。

 若いから許されるのだとしたら、それもまあ、世の中そういうものだと受け入れよう。年齢的に見苦しいという判断であれば、それもまた一つの価値観だろう。


 あるいは、似合う、似合わないという、言葉にしにくい基準があるのかもしれない。

 年齢や雰囲気によって、受け取られ方が変わる事は、確かにある。



 ただ、『派手』という言葉だけが、少しだけ引っかかった。


 もし純粋に視覚的な華やかさを問題にするのであれば、ふと視線を上げた先にある光景と整合性が取れなくなる。

 上司たちの髪は、白髪を隠すためか、あるいは気分転換か、ワインレッドやベージュに染められている。


 それは『派手』には該当しないのだろうか。

 基準は明文化されていない。だからこそ、その場の感覚で揺れる。人によって変わる。気分によって変わる。

 そして最終的には、誰がするかによって判断が左右される。


『服装自由』という言葉は、聞こえはいい。

 だが実態は、自由に見える範囲を、その時、上にいる誰かから決められているに過ぎないのかもしれない。

 そんな事を、ネイルを落としながら考えた。

読んでくださってありがとうございます(*_ _)

ポイントを入れてもらえると、嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
 時司 龍さん、こんにちは。 「派手です ~時司の愚痴日誌」拝読致しました。  服装自由。  だからってピンクの髪の毛は…おっと、これは別作品の話。  なのでTシャツ短パンもOK。  じゃあ、ネイ…
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