美月との仲(第九話)
天城エレクトロニクス本社。
重厚な応接室。
藤原光は真っ直ぐに座っている。
完璧な姿勢。
完璧な表情。
「今日はどうした」
天城が問う。
藤原は穏やかに微笑む。
「最近、ジドバの出現頻度が増えています」
事実だ。
「現場で感じました。上位個体の存在も」
天城の目が鋭くなる。
「ほう」
「プサイの装備を一時的に預けていただけないでしょうか」
静かな間。
「理由は?」
藤原は一切迷わない。
「四天王のご息女が狙われる可能性がある」
美月の名前は出さない。
だが意図は明確。
天城は考える。
藤原の戦闘実績。
社会的信用。
人格。
非の打ち所がない。
「……いいだろう」
引き出しから、
予備のプサイガジェットを出す。
「これはまだ未登録だ」
藤原は丁寧に受け取る。
「必ず守ります」
その言葉に嘘はない。
ただ、“誰を守るか”が違うだけだ。
数時間後。
薄暗い路地裏。
古びた質屋。
藤原は帽子を目深に被る。
店主が装置を見る。
「……妙なもんだな」
「試作品です」
無表情。
金額を提示される。
安い。
だが目的は金ではない。
受け取る。
装置はカウンターの向こうへ。
藤原は店を出る。
空を見上げる。
「これでいい」
自分に言い聞かせる。
美月が困る。
天城が疑う。
矛先は――玲へ向く。
「排除は正義だ」
胸の奥が少しだけ熱い。
デモンズストレートの兆候。
だがまだ制御下。
夜。
朝倉家。
天城から連絡が入る。
美月の顔色が変わる。
「……え?」
電話を切る。
「父さんのプサイ、なくなったって」
空気が凍る。
こういちが驚く。
「盗難?」
玲は静かに言う。
「内部の可能性は?」
美月が視線を向ける。
「……どういう意味?」
玲はすぐに言葉を引っ込める。
「いや」
だが種は蒔かれた。
そのとき。
藤原が訪ねてくる。
「大丈夫?」
完璧なタイミング。
美月が言う。
「父さんの装置、なくなったって」
藤原は眉をひそめる。
「それは危険だ」
玲を見る。
ほんの一瞬。
「近くに上級がいるなら、狙うはずだ」
静かな圧。
美月の胸がざわつく。
「玲、昨日も夜出てたよね」
言ってしまった。
空気が止まる。
こういちが言う。
「散歩だろ?」
玲は何も言わない。
藤原が優しく言う。
「疑うのはよくない」
だがその視線は冷たい。
“疑え”と言っている。
外。
藤原は一人歩く。
スマホを見る。
質屋の場所。
笑う。
「壊れ始めた」
だがその瞬間。
掌に黒いヒビ。
一瞬で消える。
呼吸が荒くなる。
「……俺は正しい」
夜風が吹く。
その背中はもう、
好青年だけではなかった。




