社長の思惑(第八話)
東京都中野区。
高層マンション最上階。
重厚な扉の前で、美月が深呼吸する。
「緊張する?」
玲が聞く。
「ちょっとね」
インターホン。
静かな電子音。
扉が開く。
執事ではなく、本人が出てきた。
スーツ姿の男。
落ち着いた目。
威圧感はないが、圧がある。
天城 恒一郎
国内最大級の家電メーカー
「天城エレクトロニクス」社長。
そして――四天王の一人。
「久しぶりだな、美月」
低く、穏やかな声。
美月が少しだけ柔らかくなる。
「ただいま」
視線が玲へ移る。
「彼は?」
玲は軽く頭を下げる。
「真崎玲です」
天城は数秒、無言で見る。
ただの視線。
だが玲の背筋に冷たいものが走る。
測られている。
応接室。
高級感のある空間。
天城が紅茶を注ぐ。
「最近、街が騒がしい」
何気ない口調。
「怪物騒ぎ、か」
玲の指がわずかに止まる。
美月は視線を逸らす。
「父さん、それ……」
天城は娘を見る。
「怖いか?」
「……少し」
天城は微笑む。
「守る者がいるなら、人は強くなれる」
玲を見る。
その言葉が重い。
「君はどうだ、真崎くん」
「何がですか」
「守る側か、守られる側か」
沈黙。
玲は答える。
「守る側でありたい」
嘘ではない。
だがその“側”は人間ではない。
天城は静かに頷く。
美月がプサイガジェットを差し出す。
「これ、返すね」
天城はそれを受け取る。
一瞬だけ光る。
玲の胸がざわつく。
天城の目が細くなる。
「……妙だな」
「何がですか」
「最近、この装置の反応が安定しない」
玲の心臓が跳ねる。
上級ジドバの存在。
影響している可能性。
天城は続ける。
「上位個体が活動しているかもしれない」
美月が息を呑む。
「上位?」
「記憶を保持した個体だ」
空気が重くなる。
玲は平静を装う。
天城は知らない。
目の前にいるのが、それだと。
天城が立ち上がる。
窓の外を見る。
「人間は脆い」
低い声。
「だが、選ばれた者は違う」
振り返る。
その目は社長ではない。
四天王の目。
「プサイは、選ばれた存在だ」
玲の喉が乾く。
「選ばれなかった者は?」
天城は一瞬だけ考える。
「排除する」
静かに。
当たり前のように。
美月は気づかない。
だが玲の胸が軋む。
排除対象。
それは自分。
帰り道。
美月が言う。
「父さん、怖かった?」
玲は少し考える。
「強い人だ」
「でしょ?」
無邪気に笑う。
「でも、悪い人じゃないよ」
玲は空を見る。
悪い人ではない。
だが正しいとも限らない。
遠くのビルの屋上。
藤原が双眼鏡を下ろす。
「四天王……」
そして小さく呟く。
「上級が動けば、あの人も動く」
夜風が吹く。
三つの勢力が揃った。




