同窓会(第七話)
朝方。
朝倉家の玄関が静かに開く。
玲が帰ってきた。
服は着替えている。
傷も隠している。
完璧に“人間の顔”。
リビングではこういちが寝転がっている。
「……どこ行ってた?」
不意の声。
玲は一瞬止まる。
「散歩」
即答。
「朝の?」
「眠れなかった」
こういちは笑う。
「年寄りかよ」
その無邪気さが、胸に刺さる。
昼。
こういちが身支度をしている。
「今日は同窓会なんだ。ファミレス貸切らしくてさ」
美月が顔を上げる。
「どこ?」
店名を聞いた瞬間。
玲の鼓動がわずかに上がる。
昨夜、戦った場所の近く。
そして――
藤原がよく使う店。
偶然か?
それとも。
「私も行っていい?」
美月が言う。
「もちろん!」
こういちは嬉しそうだ。
「玲も来る?」
「……俺はいい」
だが数秒後。
「いや、飯だけなら」
空気が少し止まる。
夜。
ファミレス。
笑い声が広がる。
中学時代の面影を残す大人たち。
こういちは中心で笑っている。
美月も楽しそうだ。
「こうちゃん変わってないねー!」
「それ褒めてる?」
空気は平和。
だが玲は一人、端の席で食事をしている。
距離を取っている。
その目は周囲を観察している。
――いる。
視線の先。
藤原光。
私服姿。
偶然を装って入店。
目が合う。
一瞬。
藤原は笑う。
爽やかに。
「奇遇だね」
こういちが手を振る。
「あれ、藤原! お前も来てたのか!」
「たまたま近くに用事があって」
嘘だ。
玲は分かる。
藤原は美月の隣に自然に座る。
「楽しい?」
「うん!」
その笑顔を見た瞬間。
玲の胸がざわつく。
怒りではない。
焦燥。
守りたい衝動。
感情が揺れている
藤原はコップを持ちながら、
玲を見つめる。
小さく、誰にも聞こえない声。
「昨夜のやつ、逃げたな」
玲はフォークを止める。
「知らないな」
「そうか」
藤原は笑う。
だが目は冷たい。
突然。
店内の照明が一瞬だけ明滅する。
玲の耳にノイズ。
遠くで裂け目の気配。
ジドバ。
近い。
藤原も気づいている。
だが動かない。
周囲は一般人。
ここで戦えば被害が出る。
緊張。
美月が気づく。
「どうしたの?」
二人は同時に言う。
「なんでもない」
視線が交差する。
火花。
数分後。
気配は消える。
偵察個体だった。
藤原が立ち上がる。
「少し外の空気吸ってくる」
美月を見る。
「すぐ戻るよ」
優しい声。
玲も立つ。
「俺も」
店の外。
夜風。
藤原が言う。
「お前、何か隠してるだろ」
「お前もな」
沈黙。
藤原は空を見上げる。
「昨日のやつ、声を出した」
玲の喉がわずかに動く。
「人間の言葉をな」
藤原は横目で見る。
「面白いだろ?」
笑う。
だが目は笑っていない。
「もし、身近にいたらどうする?」
玲は答えない。
胸の奥が熱い。
藤原は小さく言う。
「俺は迷わない」
その言葉が、重い。
店内から笑い声が聞こえる。
美月の声。
こういちの声。
守りたい日常。
だが、その中心にいるのは
怪物かもしれない。
玲は小さく呟く。
「……俺は迷う」
藤原は一瞬だけ驚く。
「甘いな」
二人は店に戻る。
何事もなかった顔で。
だがテーブルの下。
玲の拳は震えている。
そして藤原の掌には、
黒いヒビが一瞬浮かび、消えた。




