玲の正体(第六話)
深夜。
朝倉家。
静まり返ったリビング。
玲は目を開ける。
眠れない。
隣で眠るこういち。
その寝顔を見るたびに、
胸の奥がざわつく。
写真の少女。
うさぎのヘアピン。
ポケットの中のそれが、
じわりと熱を持つ。
同胞を殺した
違う。
感情が揺れている
違う。
「……うるさい」
玲は外へ出る。
夜風が冷たい。
だが胸の中は熱い。
思い出す。
藤原の言葉。
美月は俺のものだ
拳が震える。
怒り。
独占欲。
守りたいという感情。
それはジドバにとって、
最も危険な感情。
その頃。
屋上。
藤原光は夜景を見下ろしていた。
カイの装置を手の中で回す。
胸がざわつく。
理由は分かっている。
「あの男だ」
真崎玲。
あいつの近くにいると、
ジドバの気配が濃くなる。
「……今夜、出るな」
空気が歪む。
裂け目。
ジドバ出現。
だがそれは異様だった。
黒い装甲。
赤い紋様。
普通の個体よりも、
はるかに濃い殺気。
藤原は目を細める。
「上位種か」
怪物はゆっくり顔を上げる。
瞳が赤く光る。
その奥に、
ほんの一瞬だけ人間の影。
「変身」
白い閃光。
カイ、起動。
藤原は一気に間合いを詰める。
拳を叩き込む。
だが――
止められる。
片手で。
怪物の目が揺れる。
怒りに満ちている。
藤原は歯を食いしばる。
「感情型か……厄介だな」
怪物が咆哮する。
その声に、かすかに混じる。
「……美月に触るな」
藤原の動きが一瞬止まる。
「……?」
だが次の瞬間、
衝撃で吹き飛ばされる。
壁が砕ける。
藤原は立ち上がる。
笑う。
「いいな。こういうのは嫌いじゃない」
再び突撃。
連撃。
蹴り。
肘。
だが怪物の動きは荒い。
理性が削れている。
怒りで動いている。
藤原は違和感を覚える。
「……この癖」
拳の軌道。
間合いの取り方。
どこかで見た。
怪物が暴走する。
腕が肥大化。
赤い紋様が拡がる。
デモンズストレートの兆候。
藤原の胸も熱くなる。
憎しみ。
ジドバへの怒り。
理性が薄れる。
「お前らは……全員殺す!」
カイの装甲に黒いヒビが走る。
怪物と衝突。
衝撃波。
夜空が揺れる。
その瞬間。
遠くで声。
「玲!?」
美月。
息を切らしている。
怪物の動きが止まる。
赤い瞳が揺れる。
理性が戻る。
戻るぞ
完全に戻るぞ
「……くそ」
怪物は後退する。
煙と共に消える。
藤原は膝をつく。
変身解除。
息が荒い。
美月が駆け寄る。
「大丈夫!?」
「ああ……問題ない」
だが視線は、
消えた方向を見つめている。
小さく呟く。
「今の……」
間違いない。
あの一瞬の声。
あの動き。
「まさか……」
しかしすぐに首を振る。
「いや、違う」
美月が言う。
「玲、いないんだけど……」
藤原の胸がざわつく。
「……どこ行ったんだろうな」
夜風が吹く。
遠くの路地裏。
玲は壁にもたれている。
汗だく。
人間の姿に戻っている。
拳が血で滲む。
「……危なかった」
感情。
怒り。
嫉妬。
守りたいという衝動。
全部が引き金だった。
空を見上げる。
「俺は……人間だ」
だがその瞳の奥。
赤い光がまだ消えていない。




