親友との再会(第五話)
中野へ向かう途中。
ガソリンスタンド。
夕方の光が傾いている。
藤原は「少し用事がある」と言ってどこかへ消えた。
美月は給油機の前でぼんやりしている。
すると、背後から声。
「……美月?」
振り向く。
少し野暮ったい服装。
センスは正直微妙。
だが目は優しい。
「……こうちゃん?」
朝倉 恒一。
中学時代の同級生。
美月は驚く。
「え、なんでここに?」
「同窓会。今日、新宿でさ」
彼は苦笑いする。
「それより……久しぶりだな」
空気が少し柔らかくなる。
だが次の瞬間。
こういちの顔が曇る。
「……妹、見なかったか?」
美月の胸がざわつく。
「え?」
「連絡つかなくてさ。昨日から」
一瞬だけ。
高架下の光景が脳裏をよぎる。
美月は笑顔を作る。
「ううん、見てないよ」
嘘。
胸が痛む。
そこへバイクの音。
玲が到着する。
ヘルメットを外す。
こういちと目が合う。
「……あれ?」
こういちは首を傾げる。
「どっかで会った?」
玲は一瞬だけ止まる。
記憶の奥が軋む。
お兄ちゃん
ノイズのような声。
すぐに消える。
「知らないな」
短く返す。
美月が慌てて紹介する。
「この人、真崎玲。途中で助けてくれて」
こういちは自然に手を差し出す。
「朝倉こういち。よろしく」
玲は一瞬迷い、握る。
温かい手。
心臓がわずかに強く打つ。
給油が終わる。
こういちが言う。
「なあ、美月。中野行くなら、俺んち寄ってけよ」
「え?」
「一人暮らし……いや、妹と二人暮らしなんだけどさ」
言いながら、言葉に詰まる。
「今、家広いし」
沈黙。
玲が言う。
「世話になる理由はない」
こういちは笑う。
「まあまあ、困ったときは助け合いだろ?」
その優しさに、玲は目を逸らす。
夜。
朝倉家。
少し散らかっているが、どこか落ち着く部屋。
妹の靴が玄関にない。
その空白が痛い。
美月が小さく言う。
「……お邪魔します」
玲は部屋に入った瞬間、
強い違和感を覚える。
この家を、知っている気がする。
リビングの棚。
家族写真。
そこに写る少女。
うさぎのヘアピン。
玲の呼吸が止まりかける。
美月がそれに気づく。
「玲?」
「……何でもない」
ポケットの中。
あのヘアピンが微かに熱を持つ。
こういちは台所から顔を出す。
「腹減ってるだろ? なんか作るよ」
「え、いいの?」
「得意なんだよ、こう見えて」
不器用な優しさ。
美月が笑う。
玲はソファに座る。
写真から目を逸らせない。
胸の奥がざわつく。
罪悪感のような、
でも思い出せない感情。
その頃。
ビルの屋上。
藤原光はスマホを閉じる。
位置情報。
朝倉家を確認。
「……なるほど」
彼は微笑む。
「面白い配置だ」
空を見上げる。
その瞳は冷たい。
ジドバと
無自覚な兄と
守られる少女
「壊れる音が、楽しみだ」
風が吹く。
夜。
朝倉家のリビング。
布団を並べる三人。
奇妙な同居生活が始まる。
こういちが笑う。
「なんか、学生時代に戻ったみたいだな」
美月も笑う。
玲は天井を見つめる。
眠れない。
頭の奥で声がする。
同胞を殺した
感情が揺れている
戻るぞ
玲は小さく呟く。
「俺は……人間だ」
隣で眠るこういちの寝息。
その音が、なぜか救いのように聞こえた。




