藤原の闇(第四話)
新宿の朝。
ヒロインは自販機の前で困っていた。
「あれ、詰まった……」
カタン、と音だけして商品が落ちない。
「貸して」
横から伸びる手。
藤原光。
彼は軽く機械を揺らし、コイン返却を操作する。
缶コーヒーが落ちた。
「はい」
「わ、ありがとう!」
柔らかい笑顔。
「危ないから、こういうのは無理しない方がいいよ」
まるで兄のような口調。
主人公は少し離れた場所でそれを見ている。
藤原は視線だけで主人公を捉える。
一瞬だけ。
冷たい。
三人で歩く。
藤原は自然にヒロインの隣へ。
「中野に行くんだって?」
「うん、実家があって」
「送ろうか? 車あるよ」
「え、ほんと?」
主人公が口を挟む。
「必要ない」
藤原は笑う。
「君に決める権利あるの?」
空気が張る。
ヒロインが慌てる。
「ちょ、ちょっと二人とも!」
しばらくして、ヒロインが言う。
「そういえば、名前まだ聞いてなかったよね?」
主人公は黙る。
「私は――」
彼女は少し照れながら言う。
「天城 美月」
風が吹く。
主人公は目を伏せる。
名前。
それは、人間の証みたいなものだ。
「……俺は、真崎 玲」
初めて、名乗った。
美月が笑う。
「やっと教えてくれた」
その笑顔に、胸がわずかに痛む。
藤原が静かに見ている。
夜。
小さな公園。
再びジドバ出現。
藤原が前に出る。
「美月、下がって」
優しい声。
彼女は頷く。
主人公も動こうとするが、藤原が制する。
「君はいい」
「何?」
「足手まといになる」
目が笑っていない。
カイ起動。
変身。
白い装甲が夜に光る。
戦闘は一瞬。
圧倒。
だが――
倒れたジドバを必要以上に殴り続ける。
拳が止まらない。
「光! もう消えてる!」
美月の声で我に返る。
変身解除。
息が荒い。
だがすぐに優しい顔に戻る。
「ごめん、少し熱くなった」
主人公はその様子を見ている。
危うい。
これは正義じゃない。
執着だ。
帰り道。
美月が言う。
「二人とも強いんだね」
藤原が微笑む。
「守りたいだけだよ」
そして主人公を見る。
視線が変わる。
低い声。
「黙ってろよ。何もできない君に何が分かる」
主人公の拳が震える。
藤原は一歩近づく。
囁くように。
「美月は俺のものだ」
空気が凍る。
美月は気づいていない。
主人公の中で何かが軋む。
感情を持つな
憎むな
戻るぞ
彼は必死に抑える。
藤原は満足げに笑う。
「じゃあね、美月」
優しい声。
去っていく背中。
主人公は初めて、美月の名前を口にする。
小さく。
「……美月」
彼女が振り向く。
「なに?」
「いや……なんでもない」
だがその瞬間。
瞳の奥に、赤い紋様が一瞬浮かぶ。
美月だけが気づく。
「……玲?」
夜風が吹く。
三人の関係は、
もう元には戻らない。




