皮肉な結末(第二十話)
夜。
崩壊した研究区画。
アルファの去った戦場。
残ったのは――
藤原光。
膝をつき、呼吸が荒い。
黒いヒビが全身に広がっている。
美月が立っている。
震える手の中に、小瓶。
赤黒い液体。
「……これが」
「最終兵器」
玲が低く言う。
「ギカドドリンク」
美月がこういちを見る。
目が揺れている。
だが覚悟はある。
「お願い」
差し出す。
「終わらせて」
こういちは小瓶を受け取る。
震える手。
「俺は……」
妹の笑顔が浮かぶ。
玲を見る。
うなずく。
「やる」
一気に飲み干す。
体内で爆発的なエネルギー。
赤い紋様が浮かぶ。
玲のプサイガジェットが共鳴。
光が走る。
「変身!」
プサイ。
だが通常ではない。
荒々しい。
人間の怒りが燃料。
藤原が顔を上げる。
「……君か」
弱々しい笑い。
「下等生物が」
立ち上がる。
変身。
デモンズストレート。
しかし不安定。
こういちが言う。
「俺は下等でいい」
構える。
「でも、人間だ」
激突。
今までと違う。
...こういちの勝ちだ。
美月が叫ぶ。
「もうやめて!」
だが止まらない。
こういちは震える声で言う。
「終わりだ」
妹の顔が浮かぶ。
涙。
笑顔。
暴走。
拳を握る。
「これは、俺の戦いだ」
踏み込む。
渾身の一撃。
藤原が吹き飛ぶ。
屋上の端まで転がる。
立てない。
勝負は決まった。
こういちが近づく。
その瞬間――
ガシッ。
藤原の手が首を掴む。
信じられない力。
「……っ!」
こういちの呼吸が止まる。
持ち上げられる。
美月が叫ぶ。
「光!」
藤原の目は虚ろ。
だがその奥で何かが動く。
「はは……」
苦しい呼吸の中で、こういちが睨む。
「まだ……やるのかよ」
藤原の瞳が揺れる。
首を絞める力が強まる。
「俺は……」
言葉が途切れる。
脳裏に流れ込む映像。
幼い頃。
誰かに言われた言葉。
お前はジドバだ
否定した記憶。
侵略者を憎んだ日々。
管理思想。
支配欲。
そして。
妹の涙。
浮気。
覚醒。
全部繋がる。
「……そうか」
首を絞める手が震える。
「俺は」
黒いコアが胸に浮かぶ。
「ジドバ……だったのか」
こういちの首から、力が抜ける。
地面に落ちる。
激しく咳き込む。
藤原はよろめく。
自分の胸を見る。
「嫌っていたのに」
笑う。
乾いた笑い。
「侵略者を」
美月が震える声で言う。
「光……?」
藤原が彼女を見る。
「ずっと自分を憎んでた」
静かに言う。
「だから支配したかった」
「俺みたいな存在が生まれないように」
だが。
「俺自身がそれだった」
膝をつく。
こういちが立ち上がる。
まだ戦える。
藤原は顔を上げる。
もう敵の目じゃない。
「やれ」
静かな声。
「下等生物」
だが今は、嘲りじゃない。
自嘲。
「好きな女に見捨てられて」
「嫌いな奴に負ける」
苦笑。
「最高に皮肉だ」
こういちが拳を握る。
震える。
「俺は……」
藤原を見る。
怒り。
悲しみ。
全部混ざる。
「人間だ」
最後の一撃。
プサイの光が貫く。
黒いコアが砕ける。
藤原の体が崩れる。
人間の姿。
倒れながら、美月を見る。
「……ごめん」
初めての、本音。
そして。
光となって消える。
静寂。
こういちは膝をつく。
首を押さえながら。
美月は泣いている。
玲が静かに立つ。
夜空を見上げる。
四天王はまだいる。
だが。
ジドバだった少年は終わった。




