下等生物(第十四話)
夜。
人気のない高架下。
こういちは一人で歩いている。
コンビニ帰り。
袋をぶら下げながら、ため息。
「……玲のやつ、無理すんなよ」
小さく呟く。
その時。
「無理をさせているのは、君だ」
低い声。
振り向く。
藤原光。
街灯の下。
静かに立っている。
「……なんだよ」
こういちは警戒する。
藤原はゆっくり近づく。
表情は穏やか。
だが目が笑っていない。
「君は頭が悪いね」
唐突。
こういちの眉が動く。
「は?」
「人間なんてすぐに争う」
淡々と。
「歴史を見れば分かるだろう?」
一歩。
「平和なんて実現できない綺麗事だ」
冷たい論理。
こういちは睨む。
「それでも――」
拳を握る。
「それでも、僕は人間を信じてる!」
声が響く。
迷いのない叫び。
藤原は一瞬、黙る。
そして。
笑う。
優等生の仮面が、少しだけ外れる。
「理想論だ」
低く。
「下等生物が」
目が冷える。
「そんなの、死んじまえ」
空気が凍る。
こういちの背筋に寒気。
「……今なんて言った?」
藤原は装置を取り出す。
「変身」
光。
デモンズストレート。
黒いヒビは胸まで広がっている。
「君は邪魔なんだ」
歩み寄る。
「玲の判断を鈍らせる」
こういちは後退する。
「俺はただ――」
「黙れ」
一瞬で距離を詰める。
壁に叩きつけられる。
呼吸が止まる。
「人間を信じる?」
耳元で囁く。
「人間は裏切る」
美月のこと。
玲のこと。
「だから管理が必要だ」
拳が上がる。
その瞬間。
「やめろ!」
赤い影。
玲。
上級ジドバへ変身。
衝撃波。
藤原を弾く。
「こういちから離れろ」
低い声。
怒りではない。
覚悟。
藤原が立ち上がる。
「ほら見ろ」
歪んだ笑み。
「怪物が人間を庇う」
「違う」
玲が言う。
「俺が守る」
「笑わせるな!」
藤原が突進。
激突。
今までで最も荒い戦い。
玲は攻撃を受け流しながら言う。
「こういちは弱い」
「認めるのか!」
「でも、弱いからこそ信じられる」
藤原の動きが一瞬止まる。
「力で押さえつけない」
「綺麗事だ!」
「それでも」
玲が押し返す。
「俺はそっちを選ぶ」
その言葉。
藤原の装甲の黒が一気に広がる。
暴走寸前。
「なら」
低い声。
「まとめて排除する」
エネルギーが暴発。
こういちが叫ぶ。
「やめろ! 光!」
名前。
一瞬だけ藤原の瞳が揺れる。
だが。
暴走波動が放たれる――
その直前。
遠くから声。
「光、やめて!」
美月。
時間が止まる。
藤原の拳が止まる。
荒い呼吸。
装甲が軋む。
黒いヒビが首元まで。
玲は構えたまま。
こういちは震えながら立つ。
三人の間に、完全な亀裂。
藤原はゆっくり変身解除。
「次は止めない」
冷たく言う。
去っていく。
残された三人。
こういちが笑う。
震えながら。
「な? あいつのほうが危ねぇだろ」
美月は言葉を失う。
玲は静かに拳を握る。
もう戻れない。




