邪魔者(第十三話)
夕方。
駅前の歩道橋。
冷たい風。
美月は一人で立っていた。
手にはスマホ。
何度も開いて、閉じて。
メッセージ画面。
宛先――玲。
送れない。
そこへ。
「……美月」
背後から声。
振り向く。
玲。
少し痩せたように見える。
目の奥に疲労。
それでもまっすぐ見ている。
「少し、話せるか」
沈黙。
数秒。
「……うん」
美月はうなずく。
歩道橋の端。
人の少ない場所。
距離は、微妙に遠い。
玲はゆっくり言う。
「この前は……すまなかった」
「何が?」
冷たい声。
「全部だ」
正直。
美月の胸が揺れる。
でも――
「どうして黙ってたの?」
核心。
「怖かったから?」
違う。
「……失いたくなかった」
それは本音。
だが。
美月の目が揺れる。
「それって」
声が震える。
「私を信用してなかったってことじゃない?」
玲が言葉を失う。
違う、と言いたい。
でも否定できない。
沈黙が答えになる。
美月は続ける。
「光は、最初から言ってくれた」
玲の胸に刺さる。
「危険だって、上級は危ないって」
「俺は危ない」
玲は認める。
「でも、今は違う」
「どう違うの?」
鋭い。
「上級は記憶があるんでしょ?」
「……ああ」
「じゃあ、人を傷つけたことも覚えてるんだよね?」
その問いは、刃。
玲の呼吸が止まる。
「覚えている」
正面から受け止める。
美月の目に涙。
「じゃあ……どうして平気で笑えるの?」
平気じゃない。
だが説明できない。
人間として生きたい。
それだけ。
でもそれは、彼女には届かない。
その瞬間。
警報。
ジドバ出現。
街の向こうで爆発。
悲鳴。
美月が息を呑む。
玲は振り向く。
体が動く。
だが一瞬、止まる。
美月を見る。
「行って」
小さな声。
「証明して」
試すように。
玲はうなずく。
赤い紋様が浮かぶ。
上級ジドバへ変身。
だがその姿を見た瞬間、
美月の体が震える。
恐怖が、まだある。
玲は気づく。
それでも――
跳ぶ。
戦場。
ジドバ群。
玲は圧倒的な力で押し返す。
だが迷いが残る。
力を出し切れない。
その隙。
背後から光。
「変身!」
藤原。
デモンズストレート。
黒いヒビはさらに広がっている。
「下がれ!」
玲へ叫ぶ。
共闘のはずなのに、声に敵意。
「お前は信用できない!」
連撃。
玲は受け止める。
反撃しない。
「なぜだ!」
藤原が吠える。
「戦え!」
「戦っている」
静かに返す。
だが迷いが力を鈍らせる。
その瞬間。
一般人が崩れた瓦礫の下に。
美月。
現場に来てしまっている。
「危ない!」
玲が跳ぶ。
庇う。
背中に直撃。
大きく吹き飛ぶ。
血。
人間の姿に戻る。
美月が叫ぶ。
「玲!」
その声。
恐怖じゃない。
名前。
本当の声。
玲は薄く笑う。
「……大丈夫だ」
立ち上がる。
再び上級へ。
今度は迷わない。
圧倒的な力で敵を殲滅。
静寂。
戦いの後。
美月が近づく。
涙。
「なんで……」
「守るって言っただろ」
真っ直ぐ。
嘘はない。
美月の心が揺れる。
でも。
藤原が間に入る。
「演出だ」
冷たい声。
「上級は感情操作が得意だ」
美月の表情が固まる。
玲の目が曇る。
「違う」
小さな声。
でも届かない。
美月は俯く。
「……分からない」
それが今の答え。
信じたい。
でも怖い。
玲はそれを受け入れる。
「それでいい」
苦笑。
「俺は待つ」
完全には拒絶されていない。
だが、まだ選ばれていない。
藤原の瞳が暗く光る。
邪魔だな
心の奥で。




