それでも、信じる(第十二話)
夜。
朝倉家。
リビングの明かりは消えている。
玲は一人、座っていた。
何もしていない。
ただ、座っている。
心が動かない。
そこへ――
ガチャ。
玄関の音。
「……玲?」
こういちが帰ってくる。
手にはコンビニ袋。
いつもの軽い声。
だが空気が違うことにすぐ気づく。
「なんかあった?」
沈黙。
玲は答えない。
こういちは袋を置き、向かいに座る。
「美月、今日も藤原と一緒だったぞ」
わざと軽く言う。
玲の指先がわずかに震える。
それを見て、こういちは察する。
「なぁ」
静かになる。
「俺に隠してること、あるよな?」
玲の瞳が揺れる。
逃げるか。
誤魔化すか。
それとも。
「……俺は」
喉が乾く。
「ジドバだ」
空気が止まる。
こういちは数秒、瞬きすらしない。
「……は?」
当然だ。
侵略者。
街を壊す怪物。
それが、同居人。
だが玲は続ける。
「上級だ。記憶もある」
「は?」
もう一度。
こういちの顔が引きつる。
「じゃあ……今までのも?」
「全部覚えてる」
沈黙。
重い。
普通なら、ここで終わる。
だが。
こういちは立ち上がる。
拳を握る。
玲は目を閉じる。
殴られる覚悟。
だが――
バン!
壁が鳴る。
こういちが壁を殴った。
「なんで言わねぇんだよ!!」
怒鳴り声。
玲が目を開ける。
「なんで一人で抱えんだよ!」
予想外の言葉。
「俺たち、何年の付き合いだと思ってんだよ!」
玲は言葉を失う。
こういちの目は怒っている。
だがそれは恐怖じゃない。
「怪物? 上級?」
吐き捨てる。
「そんなのどうでもいいだろ!」
「よくない」
玲の声が震える。
「俺は人を殺している」
「今はやってねぇだろ!」
即答。
「今ここにいるお前は何だ?」
言葉が詰まる。
「俺が知ってる玲は、夜中にラーメン作ってくれるやつだ」
涙ぐみながら笑う。
「方向音痴で、でも意地張って」
玲の胸が締め付けられる。
「俺はな」
こういちが近づく。
「ジドバとか関係ねぇ」
真正面から見る。
「お前が玲なら、それでいい」
その言葉。
玲の中で凍っていた何かが、少し溶ける。
「でも、美月は」
「美月は今混乱してるだけだ」
断言。
「藤原が横で正論っぽいこと言ってるから、余計にな」
鋭い。
「でもな」
こういちは指を立てる。
「藤原の方が正しいって決まったわけじゃねぇ」
玲の瞳に、微かな光。
「俺はお前の味方だ」
静かに言う。
「もし街を壊そうとしたら止める」
正直。
「でも、今は違うだろ?」
玲は拳を握る。
震えが止まる。
迷いが少し消える。
「……俺は」
深呼吸。
「守りたい」
「じゃあ守れ」
即答。
「迷ってる暇ねぇだろ」
こういちが笑う。
「あいつら、強ぇんだから」
その瞬間。
警報。
ジドバ出現。
玲が立ち上がる。
もう足は止まらない。
「こういち」
「死ぬなよ」
軽く言う。
だが目は本気。
玲はうなずく。
瞳の赤が静かに灯る。
今度は絶望じゃない。
覚悟。
同時刻。
藤原の装甲の黒いヒビが広がっている。
天城がモニターを見る。
「面白い」
小さく呟く。
「感情が揃ってきた」
物語は次の段階へ。




