誤解(第十話)
夜。
朝倉家のリビング。
空気が重い。
美月はスマホを握っている。
父から送られてきた情報。
盗難品の特徴。
“側面に小さな傷がある”
玲の胸がざわつく。
あの装置。
藤原の視線。
違和感がつながる。
「……少し出る」
「また散歩?」
美月の声は少しだけ棘がある。
玲は何も言わず外へ出る。
路地裏。
質屋。
古びた看板。
玲は足を止める。
胸の奥で何かが確信に変わる。
扉を開ける。
鈴の音。
カウンターの奥に店主。
「何かお探しで?」
玲は棚を見渡す。
そして――
見つける。
黒いケース。
プサイガジェット。
側面に小さな傷。
間違いない。
拳が震える。
「これ、いつ入った」
店主が怪訝な顔をする。
「さあな。若い男が持ってきた」
「顔は」
「帽子。爽やかな兄ちゃんだったな」
藤原。
ほぼ確信。
玲は歯を食いしばる。
怒りが込み上げる。
感情が揺れている
深呼吸。
制御。
ここで暴れれば意味がない。
「……売り値は」
買い戻すつもりだった。
だがそのとき。
背後で足音。
振り向く。
美月。
息を切らしている。
「……玲?」
視線が、棚へ向く。
プサイガジェット。
玲の手。
沈黙。
最悪の構図。
「違う」
玲が言う。
だが言葉は弱い。
美月の目が揺れる。
「なんで……ここにあるの知ってたの?」
答えられない。
藤原の名前を出す証拠はない。
「偶然だ」
その一言が致命傷。
美月の胸が締めつけられる。
「昨日も夜いなかったよね」
玲は黙る。
沈黙が“肯定”になる。
店主が空気を読まず言う。
「買うなら早く決めてくれ」
玲は装置を見る。
美月を見る。
その目に、初めての恐れ。
疑い。
「……私、帰る」
小さな声。
玲は一歩踏み出す。
「美月」
名前を呼ぶ。
だが彼女は振り向かない。
扉の鈴が鳴る。
残されたのは、沈黙。
数分後。
店の外。
藤原光が立っている。
影の中。
玲を見る。
「見つけたか」
玲の拳が震える。
「お前だな」
藤原は首を傾げる。
「何のことだ?」
とぼける。
完璧に。
玲は一歩近づく。
怒りが溢れる。
だがここで戦えば、
美月の疑いは確定する。
藤原は小さく笑う。
「疑われるのは辛いだろ?」
囁く。
「上級」
その言葉に、玲の心臓が跳ねる。
藤原の目が細まる。
「図星か?」
だがまだ確信はない。
ただの揺さぶり。
玲は何も言わない。
それが答えのように見える。
夜。
朝倉家。
美月は部屋に閉じこもっている。
こういちが困惑している。
「どうしたんだよ、二人とも」
玲は何も言えない。
胸が痛い。
ジドバとしての痛みではない。
人間としての痛み。
感情が制御不能
瞳の奥に赤い光が一瞬浮かぶ。
玲は拳を握る。
「俺は……やってない」
だが信じてもらえない。
信頼は、戦闘よりも脆い。
外。
藤原が空を見上げる。
掌に黒いヒビ。
少しだけ広がっている。
「壊れろ」
小さく呟く。
「壊れた後で、守ってやる」
その笑顔は、
もう好青年ではなかった。




