変身(第一話)
もし、あなたのそばにいる人が偽物だったら?
それでも、あなたは気づかないまま笑っていられるだろうか。
夕暮れの川崎市。
駅前は仕事帰りの人々であふれていた。
「ねぇ、ひとり?」
軽薄な声が、彼女の足を止める。
今時の服装をした18歳の少女。
笑顔は柔らかいが、目は冷静だ。
「急いでるから、ごめんね」
男は距離を詰める。
「ちょっとくらいいいじゃん」
その瞬間。
「しつこい」
低い声が割って入った。
25歳の男。
無愛想でぶっきらぼう。
どこか平成のドラマに出てきそうな整った顔立ち。
男の肩を掴み、静かに押しのける。
目が――冷たい。
生き物を見る目ではない。
男は舌打ちして去った。
「助けてくれたんだよね? ありがと!」
「礼はいらない」
彼は背を向ける。
「えー、感じ悪いなぁ。どこ行くの?」
「中野」
短く答える。
彼女の目が一瞬だけ揺れる。
「奇遇! 私も!」
嘘ではない。
彼女のバッグの奥には、
黒く光る装置――プサイガジェット。
父のものだ。
四天王のひとりである父の。
彼女はそれを中野の実家へ返すつもりだった。
二人は並んで歩く。
沈黙。
彼は無言。
彼女はちらちら横目で観察する。
「ねぇ、なんで助けたの?」
「……嫌いなんだ」
「なにが?」
「理不尽が」
即答だった。
その答えに、
彼女は少しだけ本気の目になる。
人気の少ない高架下。
風が止む。
空気が重くなる。
彼は足を止めた。
「……来る」
「え?」
空間が歪む。
黒い亀裂。
そこから現れたのは、
皮膚が波打ち、目が三つある異形。
ジドバ。
彼女の顔色が変わる。
「なに……あれ」
怪物がこちらを見る。
そして――
「同胞」
低い、濁った声。
主人公の鼓動が一瞬止まる。
脳裏に閃光。
焼けた都市。
崩れる人間。
笑っている自分。
――消える。
「うるさい」
彼は呟いた。
怪物が跳ぶ。
彼女は慌ててバッグを開ける。
「これ……使えるかも!」
プサイガジェットを起動。
光が彼女を包む。
――しかし。
弾かれる。
装置が沈黙する。
「え、なんで!? 反応しない!」
怪物が迫る。
その瞬間。
彼が装置を掴んだ。
触れた瞬間、
装置が脈動する。
赤い光。
認証音。
彼は、驚かない。
まるで最初から分かっていたかのように。
彼女が息を呑む。
「……どうして」
彼は低く言う。
「借りる」
装置を胸に当てる。
視界が赤に染まる。
どこか懐かしい感覚。
“帰ってきた”ような。
頭の奥で声がする。
感情を持つな
憎むな
戻るぞ
彼は歯を食いしばる。
「俺は……」
怪物が咆哮する。
彼は静かに告げる。
「変身」
装置が爆ぜるように光を放った。
...続く




