毒殺を狙うスパイ妻vs死にたがりのハイパーポジティブな公爵〜凄腕爺やもおりますぞ〜
数ある中からお読みいただきありがとうございました!
〈妻:ケネシー視点〉
私はスパイ。
コードネーム:ケネシー、可愛い名前でしょ?
私も気に入っているのよ。
それで今回のミッションは公爵の殺害。
そのためにアンデッド公爵家に接触よ。
捏造した履歴書と一緒に忍び込むと、あれよあれよという間に妻になっちゃった。
私、順調すぎじゃないかしら。
それで初対面した日の夕方にキッチンへ潜入。
広いステンレスのベンチ台にずらりと並んだ料理の品々。
全部食べちゃいたいけど、我慢、我慢。
前菜のサラダの隣にスープ発見。
幸先がいいわ。
スープに毒の粉をチチンプイプイプイっと。
ちょっと入れすぎたかしら。
でも仕事は確実にね。
ってなもんで夕食の大広間に連れられて来たのよ。
広くてびっくり。
天井は教会の大聖堂みたいだし、机の端が全然見えないわ。
公爵も到着したみたいで、すぐに食事がスタート。
初日だし、緊張しているから沈黙を通せるなんて初日のログインボーナスみたい。
前菜のサラダが終わるとスープが来た。
スープに口を付ける公爵。
念のため、自分のスープも確認っと。
うん、無害、無害。
「ケ、ケネシー……俺を殺すつもりだったのか」
(私の思ったことと同じだわ。作戦大成功ね!)
……まだ飲んでる。
うん、見えないくらいの速さでスプーンを動かしてる。
毒が効かないなんて、作戦を変更よ。
「いっけなぁーい、胡椒と間違えちゃったぁ!」
「なんだ、ただのうっかり屋さんか」
「えへへ」
(本当に私は入れ間違えたのかしら……?)
わざとらしく頭の後ろに手を置いてお茶目な感じ醸し出したけど、公爵は表情を変えない。
さすが、私だわ。
二回目はちゃんと毒を入れたのを確認。
ダブルチェックは大事よね。
念のため、ねーんのため、用意周到に出来上がりよ。
またしても公爵は淀みない動きでスープを口に運んでいるじゃあありませんか。
いや、違うわね。
咳払いをしながら、公爵が苦しんでいるみたいなの。
やっぱり今回は楽勝じゃない!
……じゃない?
「殺すつもりだったのか……」って公爵が言ってるけど、死なないわね。
「いっけなぁーい、胡椒──(以下略)」
さすがに二番煎じ感強すぎるわよね。
なんて思っていたら、
「ケネシーは相当なおっちょこちょいだな」って貴方の神経のほうがよっぽど鈍い気がするの。
でも、三度目の正直よね。
次で成功すれば済む話だもの。
手持ちの毒瓶を丸ごと入れてやったわ。
そしたら、公爵が掬い上げたスプーンの上に空瓶が乗っていて、びっくり。
「ケネシー……もしかして……」
さすがの私も何も言えなくなっちゃったわ。
公爵のほうが気まずいはずね。
顔を手で隠してるから想像なんだけど。
私が持ってきた毒瓶は本当に胡椒の瓶だったのかもしれないわ。
それなら、毒路線から切り替えね。
今度は精神的な嫌がらせをして神経を参らせるんだから。
赤っ恥も青っ恥もかきまくれば相当弱るはずだわ。
私ってば、やっぱり機転が利くわね。
□ ◆ □ ◆
〈死にたがりの公爵視点〉
自殺はいつも失敗していた。
そのせいで最近ずっと幽閉されていたが、
さすがに部屋の中も飽きた。
窓なしはきつい。
妻を娶れば外に出てもよいと執事のダイハーダーの言葉。
だから身元も確認せず、すぐにケネシーを迎え入れたのだ。
彼女は可愛いな。
妻と初めての食事で懐かしい味を思い出した。
(毒か。ケネシーは私を殺そうとしているんだな。ちょうど良かった)
致死量ではない。
そうか。
彼女はただのうっかり屋さんだったのだ。
だから俺は毒殺風のボケに冗談で返した。
反応はイマイチ。
(うむ、掛け合いとは難しいな)
でもすぐに二回目の機会がやってきた。
しかも胡椒と間違えているから毒の量が増えている。
彼女が相当なうっかり屋さんだと分かった。
この時も毒殺の設定に冗談で返す。
反応は前回と似たような感じ。
と、思っていたらなんと三回目でスープの中に小瓶が入っていた。
(これは面白い。やっぱりそういう返しを待っているんじゃないのか?)
……違った。
ケネシーは笑わない。
この路線じゃないのか。
そしたらもっと『俺、カッコウィー!』みたいなはっちゃけキャラのほうがいいのかな。
うん、路線変更だ!
公爵はケネシーのウケ狙いしか考えていなかった。
出掛けの支度には赤の右靴下と緑の左靴下。
……これはチャンスなのか?
俺はその靴下を履いて食事会に参加。
「今日からクリスマス公爵始めました」と紹介しまくった。
すると、苦笑いの嵐。
それくらいケネシーの冷めた目より数百倍ましだ。
その次の立食パーティー。
ネクタイピンがサムズアップ(“いいね”って皆が呼んでるやつ)だった。
今度は“NOと言わない公爵”だ。
早くケネシーの元にこの噂が届け!
そして早く君の笑顔が見たい。
■ ◇ ■ ◇
〈執事ダイハーダー視点〉
最近、旦那様は妻を娶られました。
素性はおそらくスパイ。
やはり爺やが見張るしかありませんな。
ややっ!?
お屋敷にきて早々にキッチンに入りましたな。
気配を消して覗いていると、小瓶が出てきた。
(やはり怪しいと思っていた。毒殺を企てるおつもりか)
そう思いましたが、私は驚きました。
旦那様の服毒歴を知っているような淀みのない手さばき。
旦那様の致死量に届かないよう調整しているではありませんか。
これは様子をじっくり見ないといけませんね。
そして、二回目、三回目と徐々に的確な量に上げていく。
やはり奥様は刺客に備えて自然と料理に毒を混ぜて調整しているのですね。
感嘆の声しか出てこなかった。
それだけでは終わりません。
今度は色が右左異なる靴下や奇抜なネクタイピンの演出。
奥様の意図が見えませんでしたが、旦那様は毎日楽しそうにされてらっしゃいます。
今や旦那様は奥様に首ったけですな。
そうそう、その後、決定的なことが起こりましてね。
奥様が準備されたモザイク柄のネクタイ。
よく見たら文字が浮かび上がるものだったのです。
“ターゲット”
今度はどんな知略でしょうか。
暗殺者やスパイが見れば、明らかに怪しいネクタイ。
奥様は旦那様の隣に着席。
広いパーティー会場ですが、出入口は二箇所のみ。爺やは扉の外で待機。
(爺やが後は任されましたぞ)
食事会が始まって十分後のことでした。
スープに口を付けた旦那様は目の色を変えましたね。
険しい顔で怒った様子。
手を挙げ周りに待機する従者に合図を送ります。
すると素早い動きで各ゲストの側で待機。
「スープに毒が盛られている!
この中に刺客がいるぞ」
会場は騒然としておりますね。
(おや、奥様が驚かれております。演出ですかな?)
「公爵様、これが毒だってご存知でしたの!?」
「君が使った毒ではない。君は私を守るために死なない程度の毒を盛ったのだろう。そんなのお見通しさ」
旦那様は熱烈な抱擁を奥様にしましてね、お若いですなぁ、ほっほっほっ。
おやおや、奥様もまんざらではないようですな。
「私……足を洗いますわ。公爵様の隣にいたいです」
「ずっといればいいさ。それに君の足は臭くない」
旦那様、その発言は失言ですぞ。
「でもまぁ、この爺やもネズミ退治に人肌脱ぎますかな」
この日、旦那様を狙ったのはケネシーのいた組織。ケネシーが二重スパイなのは爺やも知っていました。
爺やがすべてお片付け。
これにて一件落着!
──とはいかない。
この後、奥様は新しい毒を開発中なのか旦那様も顔を顰めるほどの料理を振る舞うようになったのです。
自分で毒を作って旦那様に振る舞うなんていじらしいですな。
爺やはもう先が短いですから、奥様の手料理はご遠慮いたしますぞ。
ある意味ケネシーの料理が最強\(^o^)/
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