第7話 新人(?)面接
「ちょ、ちょっと待ってください!」
思わずユウヤは叫んだ。
プランナーと言われたから仕事は企画提案か進捗管理かと思っていたのだが、コノハのサポートと聞いて驚きが隠せなかったのだ。
「赤根さんの能力が高いことは理解していますが、なぜ自分がサポートを?」
慌てながらも言葉を選んで浅川に問いかける。
本来は営業職だ、感情に任せて怒声をあげるようでは二流以下。
その思いがすんでのところでユウヤを自制させた。
とは言え年若いコノハの経験が疑問視されると言うならベテランをつければいいところ、わざわざ外の部署からユウヤを連れてくる理由が知りたかった。
それに対して答えたのは浅川ではなく、それまで無言だった五嶋であった。
「確かに普通、赤根の能力を考えれば経験者のフォローが適しているんだが、今回は新しい施策を試したいって経営判断もあってな、なるべく新人を中心にしたチームを編成したいんだよ」
少し困ったような感じで話す五嶋。
それを聞いていた浅川が足りない部分を付け足すように話を引き継ぐ。
「一応、新プロジェクトのトップにはベテランを配属するが、その下で赤根さんにはそれなりの裁量を持ってやってもらうことになるので、そこで君の出番となる」
浅川はじっとユウヤを見つめながら話を続ける。
「新規事業となると各所からメンバーを集めることになるので人間関係のトラブルも予想される。その辺りの折衝を含め対応しつつ、最終的には君自身が1人のプランナーとしてプロジェクトに貢献してもらいたい」
そこまで言うと浅川はユウヤの反応を見るように黙った。
それに対して当のユウヤは返答に困っていた。
自分自身ゲーム開発に興味はあるが、自発的に異動を志願した訳ではない。
だが、蓋を開けてみれば社内の人間の折衝と業務サポート。
なにか自分の特性があるから、出向の話しが来たとは思えなかったからだ。
「あー、一応言っておくとな」
唐突にぶっきらぼうに五嶋が言う。
先ほどの真面目な言い方とは異なる話し方にユウヤは驚いたが、この部屋にいる他の人間は特に気にした風でもない。
もしかして、これが五嶋の素でありこれまでは猫を被っていたのか?
ユウヤはそう己を納得させようとしていた。
仮にも上司になる人物の人柄を把握しておくことは、サラリーマンとしては必須のこととユウヤは捉えていた。
別段、おもねる言動をする必要はないが、無駄に機嫌を損ねる必要もない。
ゆえに上司の性格は把握しておく方が良いとユウヤは考えていた。
「蒼馬は元々企画職を志望していたよな。お前さんが望んだ企画の仕事は今目の前に広がっているんだぜ」
その言葉にユウヤはさらに困惑する。
自分が想定していた企画職とは随分異なる気もするからだ。
「普通、新人の教育は稼働してるプロジェクトで行うものでは?」
なおも食い下がるユウヤの問いはもっともであった。
だがその常識を覆してまで、やることの会社そして個人のメリットを聞きたいのだ。
「そうだなぁ……。まず1つに他のプロジェクトがだいたい人員が満杯なことがある。」
浅川は諭すように言う。
ゲーム開発と言っても通常のIT事業と変らない。
それなりに人数は必要となるが人が増えれば必然的に人件費が発生する。
その回収も必要となり、月々の売上目標が上がってしまう。
そのため、それなりに儲かっているタイトルは問題ないが、残念ながら現在ワグテイルプロジェクトが関わるゲームは、そこまで大きな利益をあげているタイトルは無かった。
故に全ての人件費を開発費として計上できる新規プロジェクトの方が金銭的には都合がいい場合もある。
「もう1つは、新人を中心にとは言っても、君を除けばそれなりに現場経験がある。君に指導することは今後の彼らのための上の役職につくための指導訓練を兼ねているんだよ」
「……」
確かにリーダーに任命したからといって、いきなり指導や指示ができる訳ではない。
その辺りの適性を見たうえでリーダーに任命するとは言え、みんなが同じくらいのスキルの持ち主だったらそれらを学ぶ機会はない。
そんな中で、会社員としてのキャリアは同じ程度だが業務を教えられる存在というのは貴重かもしれない。
ただ、それが自分であることは少し気にかかる。
彼にもそれなりにプライドがある。
自分から新たな道を選んだのであれば納得も行くが、会社命令で1から学ぶ事が気に食わない。
「まあ、納得いかないところもあるだろうが、ある意味チャンスでもあるんだがな」
再び口を開いた五嶋がユウヤを諭すでも、一人ぼやくでもなく言った。
だが、逆にその言葉でユウヤはある考えが浮かんだ。
確かに技術を学ぼうとすれば、個人で動けば時間も費用も捻出しなければならない。
それに対し業務としてならばそれらが会社持ちとなる。
ゲーム開発の経験がその他の分野で生きたと言う話も聞いたことがある。
それにすでに出向は決まっている。
今更、ジタバタしても始まらない。
ならば、それらを利用していくのも悪くないな。
「……わかりました。とりあえずオレはコノハの業務をサポートしながら、開発に関する業務を学んでいくようにします」
思わず素の言葉遣いが出てしまうが、もうこの際気にするものか。
ため息が出そうになるのをこらえるため口を噛みしめる。
「どうした、悪い表情になっているぞ?」
五嶋が聞いてくるが、ユウヤからすれば元凶にそう言われても困るところだった。
ともかく、この出向をステップアップにつなげる事ができれば、先々何かの役に立つはずだ。
「じゃあ、話しは終わりね」
それまで黙っていたコノハが、この会議室にユウヤが入ってきて始めて声をあげた。
それを聞いて、浅川は無言で首を縦にふる。
五嶋もまた「特に話すことは無い」と簡単に答えた。
「じゃあ、期待の3年目の新人、頂いていきますね~♪」
そう言うが早いか元気よく立ち上がったコノハは、小走りにユウヤへと近寄ると、その手を引き会議室を後にした。
「ちょっと待て、『3年目の新人』ってなんだよ!それよりオレが席から立つまで待てーーーー!!!」
椅子のキャスターの軸がこすれる音を響かせ、ユウヤはコノハに連行されて行った。




